第二十話 幼馴染を選択するしかないのか
「さあ、どうするの? ここで私と永遠に暮らす? 燈子にとってはそれでも良いんだけど」
「嫌だね。俺には俺の人生があるんだ。お前の好き勝手にされて溜まるかよ」
「きゃー、カッコいいね哲史。私が惚れるのもわかるよ」
なにがカッコイイだ、この性悪女め。
こんな女が燈子な訳が無い。
「黙れ、この悪魔め。お前は悪魔だ! 燈子の姿を真似ているだけでも深いだ」
「私が悪魔だろうが何だろうが、哲史はここから出られやしないよ。ここはあの世でもこの世でもない、異空間なの。普通の人間には絶対に入れないね。だから、帰りたければ哲史は私の言う事に従うしかないんだよ」
「へえ、自力じゃ出れないってか」
これ完全に脅迫じゃんかクソが。
しかし、自力で帰るにしてもどうすれば良いのか……帰る手段が全く思いつかない以上、このまま意地を張ってもこの燈子モドキと永遠にここで過ごす羽目になるかもしれない。
「そうだよ、哲史はここで私と永遠にクラスの。燈子にとっては最高のハッピーエンドかもね。好きな人と永遠にいられるんだから」
「お前は燈子じゃないだろう。いい加減、何者なのか教えろ」
「私は燈子だよ。それ以外の何に見えるっていうの?」
改めて少女に正体を聞くが、やっぱりシラを切られてしまった。
くそ、まさか本当に燈子がこんなことをしているのか……あいつがこんな凶悪な事をするとは思えないんだけど
「私は燈子だから好きな人と結ばれて幸せになることに全力を尽くすのはいけない事かな?」
「いけないな。俺の人生を勝手に弄びやがって」
「燈子と付き合うことをどうしてそこまで嫌がるのかなー? 何で? 理由を教えてくれる? 二人は上手くやっているじゃない」
上手くやっているとかそういう問題じゃねえって言っているんだけど、こいつには何を言っても無駄っぽいな。
(どうする……取り敢えず、燈子と付き合うと約束して元の時代に戻してもらうか?)
しかし、それで本当に燈子と付き合うことになったら、もう沙彩とは死ぬまで付き合えそうにない。
燈子と付き合ったら……あの未来のように同棲して、そのまま大学を卒業した後、就職して結婚して幸せな家庭を築いてめでたし、めでたし……そんな都合のいい未来が待っているのか?
「わかっているじゃない。そこまでの未来を見せてあげようか?」
「いちいち、俺の考えていることを読むんじゃない」
「私はこの空間ではなんでもわかるんだよ。隠し事も出来ないし、ここには私以外の人もいないの。永遠に二人きりで過ごすのも悪くないんじゃない?」
冗談じゃない。こんな何もない空間に永遠に囚われるなんて地獄も良い所じゃないか。
こいつを殺せばぬけられるのか?
「無理だよ。私を殺したら、もう最後。哲史は永遠にこの空間に囚われたまま。試してみる? ついでに、現世に居る燈子も死ぬから」
「何だと?」
思いっきり考えていたことを見抜かれていたようだが、こいつを殺せば燈子も死ぬという話を聞いて、
「だって私は燈子だもん。正真正銘のあなたの幼馴染の燈子なの。だから、私を殺すことは燈子を殺すことだよ。そんな非道なことはしないよね?」
「く……このアマ……」
本当に燈子本人かわからないが、どうやら燈子を人質に取られている状況であり、こいつには迂闊に手出し出来ないようだ。
仮にこいつが偽者の燈子でも、姿形は子供の頃の燈子そのものなので、そんな彼女を手にかけることはさすがに出来ない。
「ま、ゆっくり考えなよ。時間はいくらでもあるよ。ただし、元の時代に戻すにしても、この前の燈子に返事しようとした日の夜ね。沙彩にはもうフラれているから、どっちにしろあの子とは付き合えないよ」
「沙彩の事で思い出したが、沙彩が俺を振った原因って何なんだ? まさか、お前が何かしてないだろうな?」
「それを知ってどうするの? まさか、私があの子の気持ちを魔法で変えたとでも? 哲史は沙彩にフラれたの。これが現実。いい加減、受け入れたら」
突き放すような言い方をして、煙に巻かれてしまったが、沙彩に告白して普通にフラれてしまったのは事実なので、これは受け入れないといけない。
だからってさ……燈子と付き合わないといけない理由は何処にもないと思うんだが……。
「いつまで私とお話しする気? 戻りたいんでしょう? 私に何を言おうが状況は何も変わりはしないよ」
「わかった。俺の負けだよ。さっさと元の時代に戻せ」
「へえ、やっと運命を受け入れたんだ。でも約束は忘れないでね。燈子と付き合わないと、哲史は二度とこの空間から出れなくなるから」
「…………ああ」
取り敢えずこいつの言う通りにし、元の時代に戻してもらう事になる。
こんな奴の言う事に従うのは癪に障るが、背に腹は代えられない状況だったので、止むを得ない。
「…………はっ! ここは……」
目を覚ますと、そこは自宅の俺の部屋であった。
よかった……どうやら、元の世界に戻れはしたのか。
しかし、これからどうしたら良いのやら……燈子と付き合うしかないのか?
嫌なわけじゃないが、あいつの言う事に従うのはやっぱり嫌だ。
だいたい、あの燈子モドキは何なんだよ……悪魔か何かか?
考えても答えなど出はしないので、とにかく燈子への返事をどうするか考えないと。
「あ、哲史。おはよ」
朝、いつもの様に自転車で学校に行くと、途中で燈子と落ち合い、燈子が後ろの荷台に座る。
「へへ、哲史。返事は?」
「返事って?」
「私と付き合うかどうかの返事」
ちっ、はぐらかそうとしたが、燈子に逃道を塞がれてしまったか。
「ああ、そうだな。もう少し待ってくれない? 放課後にでも返事するから」
「放課後に返事するなら、今出来ないの? 哲史も往生際が悪いよね」
「往生際が悪いって……」
「まだ沙彩のこと、諦めきれないんだ。一回、振られてもまた告白して付き合えたって話もあるけどさ。あんまりしつこいとストーカーになるよ」
「別にストーカーになるつもりはないけどさ。まだ、気持ちに整理が付かなくてさ。なんか納得行かないんだよな沙彩に振られたの」
「納得行かないって……そんなに沙彩のこと、好きだったんだ」
そうかもしれないが、お前によく似た変な女の言いなりになるのが嫌なだけ。
と言いたかったけど、燈子は本当に知らないのかな……あいつが本当に燈子そのものなら、やっぱり燈子の仕業なのか?
「最近、俺も変な夢を見てさ。未来の夢っぽいんけど」
「なになに? どんな夢?」
「うーん、何か女子と同棲している夢なんだよ。高校を卒業したら、いきなり同棲始めちゃってるみたいでさ」
「へえ、すごい夢じゃん。んで、相手は誰なの?」
燈子にちょっと話を振ってみたが、燈子は俺の体にしがみつきながら、目を輝かせて身を乗り出す。
「お前によく似た女だったかなー」
「それ完全に私じゃない。あはは、哲史、やっぱり私の事、好きなんじゃん。私と付き合いなよ」
「嫌だって言ったら?」
「ん? 私、言ったよね? こうなるって」
「へ? うおっ!」
燈子が後ろから俺にしがみつきながら、そう言うと、急に視界が真暗になる。
「…………はっ! こ、ここは?」
「おはよう、哲史。そしてようこそ、永遠の世界へ」
「と、燈子!」
ハッと目が覚めると、目の前にはうちの高校の制服を身に纏った燈子が俺を見下ろしていた。
今までの子供の頃の燈子じゃない。
高二の……俺の自転車に乗っていた燈子だった。




