第二話 俺の彼女は幼馴染?
「え、ちょっと待て。同棲ってことはさ……もしかして俺、お前と付き合っているの?」
「は? まだ寝惚けてるんだ。当たり前じゃない。いくら幼馴染だからって付き合ってもいないのに、一緒に住むわけないでしょ」
「…………」
いやまあ、そうかもしれんな。
俺が言うのも何だが、燈子はそんなふしだらな女じゃない。
しかしだ。
俺はまだ高校二年のはずだが……ああ、やっぱり夢なんだな。
「ふ、ふへはははは……ゆ、夢だ、これは夢なんだよな」
「さっきから本当に大丈夫? 具合悪いなら医者行こうか? 昨日、健康診断受けたばかりなのに、その時は何でもなかったんでしょう?」
「い、いや平気さ。それで沙彩は?」
「沙彩? あの子は今、北海道の大学にいるって言ったじゃん」
「ほ、北海道?」
なんでそんな所に?
てか、ここは何処だよ?
窓から景色を見てみたら、何やら住宅街っぽい光景が見えるんだが、ここは一体……?
「ほら、さっさと着替える。バスに遅れるよ」
「わ、わかったよ!」
これは夢なんだろうが、夢でもなんでもとにかく着替えて、外に出ることにした。
それにしてはやけにリアルだけど、どうしてこんな夢を……沙彩に告白されたのがうれしくて、舞い上がってしまっていたとか?
「さ、急いで。お昼は学食で食べちゃおうか」
「あのさ」
「なに?」
「俺達って大学生なの?」
「はあ? 本当に大丈夫、今日? そんなに大学行くの嫌なの?」
燈子もおなじように着替えて、バッグを持ってアパートから出たところでそう訊ねると、燈子に頭おかしいんじゃないかって顔をされてしまい、額に手を当てられる。
嫌なわけじゃないけどさ……まだ夢に対応できないっていうか。
「昨日はちょっと夜更かししちゃったからね。哲史も疲れているんだよ」
「はは、そうかも……」
「全くこんなんじゃ先が思いやられるな―。あ、ちょうどバス来ているよ」
燈子に手を繋がれながら何分か歩いた後、どっかの駅前のバスのロータリーに到着し、二人で急いでバスに乗り込む。
バスに大学の名前が書いてあったので、送迎用のバスっぽいけど、俺と燈子は同じ大学って事なん?
はあ……夢だとしても何で沙彩と同じ大学じゃないんだよクソが。
「こんな時間でも結構人いるんだねー」
「あ、ああ……」
一番後ろの席に二人で並んで座り、スマホで現在地を調べたり大学名を調べたりしている。
何か名前だけは聞いたことあるなって大学だけど、大して偏差値も高くない大学だし、ラインの履歴とかも見てみると沙彩とやり取りしている様子が全くない。
マジで頭がおかしくなりそうだったが、これはどういうことなんだよ……本当にさ。
「まだ引っ越したばかりで、色々と疲れているんだよ。私だってまだ新しい環境で慣れないことばかりだしね」
「そ、そうだな……あのさ」
「あ、もう着いたよ」
バスに乗り込んで十分もしないうちに大学に到着し、一緒にバスを降りる。
夢にしても展開がジェットコースター過ぎて付いていけない……いつ覚めるんだよ、これは。
「てか、人多いなー……」
何だか山の中にあるキャンパスみたいだが、学食っぽい所に行くとかなり学生がおり、ごった返している。
「何にしようかなー。今日はカレーとコロッケにでもしようっと」
「ちょっと待て」
「なに?」
「いきなり大学に放り込まれても何をしていいのかわからんのだけど」
「はは、まだ先週入学式したばかりだしね。私もまだキャンパスの中もよくわからないよ」
「いや、そうじゃなくてさ……えっと……」
「早く食券買おう。後ろ閊えているよ」
燈子と一緒に並び、何だかよくわからないうちに食券で適当にラーメンを頼み、二人でカウンターへと行く。
夢でもなんでも今は燈子がいないと何も出来ない状態なので、こいつの後に付いていくしかなかった。
「ふー、何とか席空いていたね」
「ああ……今日、これから何するの?」
「まだ寝ぼけているんだ。今日は午後からガイダンスでしょう」
「ガイダンス……」
窓際にある席に二人で座り、そこで一緒に昼食を摂ることになったが、ラーメンを置いたあと、バッグの中を開けて、中に入っているものを確認する。
透明のケースの中に色々とプリントが入っており、カリキュラム表とやらがあるが何だかさっぱりわからない。
「それにしても、まさか大学まで一緒になっちゃうなんて、何だか感慨深いなー。まあ、だからこそこうやって二人で一緒に住めることになったんだけどね」
「は、はあ……というか、よく親許したな」
「だよねー。でも、私たち、幼稚園からの付き合いだしさ。哲史なら顔なじみだから、安心だって言っていたし、へへ……」
幼稚園からの付き合い……そうだ、燈子とは確かに幼稚園から一緒だった。
そこから大学まで同じって……しかも、そっから同棲ってどんだけ……いや、そうじゃないんだ。
(そうじゃない、そうじゃない。俺の彼女は……)
沙彩のはずなんだけど、どうして燈子と同棲しているんだよ。
「あのさ。俺達、付き合ってからどのくらい経っているの……?」
「もう一年になるかなー。へへ、早いよねー」
一年……となると、高三の始めくらいから付き合い始めたってこと? 何で? どういう経緯で?
スマホでアルバムを見ていると、確かに燈子と二人で写っている見覚えすらない写真がやたらとある。
これは卒業式の時の写真……?
燈子に腕を組まれて、二人でピースしている写真が目に入ったが、そこの後ろに沙彩もチラっと映っていたので、どうやらこの世界にも存在はするようだ。
「さ、沙彩とは……」
「あー、最初は気まずい感じあったけど、今はもう吹っ切れているじゃん。今もラインのやり取り頻繁にしているし、あっちで元気にやっているよ」
「気まずいって……俺と沙彩って……」
「くす、まだ気になっている? 私も最初はまさか沙彩と哲史が思ったけどさー。結局、長続きしなかったよね……」
「長続きしなかった? お、おいそれどういう……」
「確か、半年くらいで別れちゃったじゃん。あの時の哲史、すごい落ち込んでいてさ。大丈夫かなって思ったけど、それから私達、こうなれた訳だしさ」
はっ!?
半年で別れただと?
さり気なく出てきた燈子の話を聞いて、頭が真っ白になる。
だって、俺の方から告白してOKをもらって……まだ、一日も付き合っていないのに、もう別れちゃったって……いや、半年で終わったって? 何で?
「どうしたの?」
「は、はは……あ、あの……それで、俺と燈子はどうして……」
「ん? あ、はは……ラインでなんか話している間に、私の方からだっけ付き合っちゃおうかって話をしたら、そこからだっけ? もう恥ずかしいから思い出させないでよー。なんか味気ない告白だったんだしさー♪」
水を飲みながら、何やら照れくさそうに言っていた燈子であったが、それ以上に沙彩と半年で別れてしまったという言葉の方がショックで、しばらく何も手が付けられそうになかった。
そんな……これは夢なんだよな? そうであってくれと思いながら、しばらく呆然とするしかなかった。