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第十九話 幼馴染への返事は?

「くそ、しっかりしろ……」

 飯を食い終わった後、風呂に入ってシャワーを浴びながら、燈子と付き合っても良いかもという誘惑に揺れ動く。

 しかし、橙子があんなに良い女だったとは未だに信じられない。

 普段は生意気というか金に汚い感じがしたんだけど、今の燈子からは微塵もそんな気配は感じないし、顔が良く似ている別人にすら思えてしまう。

 流石に別人ってことはないと思うんだけど、あれが本当の燈子だって言うなら、やっぱり違和感あるんだよなあ。


「ねえ、哲史」

「な、何?」

 風呂から出た後、部屋に戻る途中でバッタリ燈子に遭遇し、

「私さ、明日からバイトの研修あるの。夜は一人で食べられるわよね?」

「ああ、そうなんだ。大丈夫だよ」

「そう。悪いけど、風呂場掃くらいはしといて。あんたもそろそろバイト見つけないと。あ、その前に教習所行くんだっけ?」

 バイトも教習所も今の俺にはどうでも良い話なんだが、大学生も結構忙しいんだな。

 もっと遊んでられるもんかと思ったら、そうでもないので、ちょっと進路も考えてしまうが、それは戻ってからゆっくり考えればいいだろう。


「本当ー? 哲史って、何か生活力なさそうだから、心配なんだよね」

「馬鹿にするなよ。一人でもどうにか出来るって」

「あはは、だったら良いんだけど」

 一人暮らししている学生なんていっぱいいるんだから、俺が一人になったってどうにでも出来るとは思う。

 ま、どうせすぐに元の時代に戻るつもりなので、今の生活がどうなろうがどうでもいい。

「じゃあ、私寝るから」

「ちょっと待て。今夜は……」

「え? 私、明日も早いし、今日はちょっと疲れちゃったから、ダメよ。哲史は明日、授業は何限から?」

「えっと、二限からだけど」

「そう。じゃあ、明日は先に行かせてもらうわね。学部も違うんだし、一緒の授業が殆どないのは残念だけど、しっかりやるのよ」

「はいはい。まるで、お母さんだな」

「あはは、わかる? 手のかかる子供を持つ母親の気分がこんななのかなってちょうど思っていたところなのよね」

 嫌味のつもりで言ったんだが、あっさりと肯定しやがったので、苦笑いしてしまう。


 俺、そんなに手のかかる彼氏なんかね……まあ、いきなりのタイムリープで戸惑っているってのもあるし、余計に燈子に頼っている面はあるんだけどさ。

 こいつがこんなに世話好きな女だったとは思いもしなかったが、あんまり燈子に甘えてしまうと、良くない気がしてきた。

 燈子と付き合うにしても、これじゃね……まるで、燈子に世話をされているみたいだし。

「んじゃ、おやすみ」

「あ、あのさ……やっぱり、今夜やらない?」

 一度は燈子が拒否したので、引き下がったのだが、やっぱり早く帰りたくなったので、改めてせがむと、

「だーめ。少しは我慢しなさいよ。私も疲れているんだし」

「ああ、そうだな。悪い」

 ちっ、やっぱり駄目だったか。

 そうなると、帰れるのはいつになるのやら……何日もこの二年後の世界で生き続けるのはさすがに辛いって。


「拗ねないの。今日はこれで我慢なさい。ちゅっ♡」

「――っ!」

「えへへ、じゃおやすみー」

 不意に燈子が俺の頬にキスをし、照れくさそうな顔をして、自室へと戻る。

 ああ、くそ! やっぱり可愛いな燈子の奴!

 あんなことをされたらますます……うう……でも、沙彩の事も諦めきれないし……。

 こんな気持ちのまま眠れるはずはなかったが、とにかく休むしかないと思い、


「哲史……哲史」

「う……何だ、ここは?」

 急に誰かに名前を呼ばれたので、周囲を見渡すと、そこは何もない白い空間だった。

 何でこんな所に……いや、この空間は見覚えがあるぞ。

「哲史、こっちよ」

「ん? お前は!」

 背後から名前を呼ばれたので、振り向いてみると、一人の少女がニッコリと笑って俺の目の前に立っていた。

 白のワンピースを着た昔の燈子、そのまんまの姿の少女。


「燈子……じゃないんだろ?」

「私は燈子。それ以外の何物でもないよ」

「嘘だな。雰囲気が全然違うんだよ。俺の目は誤魔化せんぞ」

 クスっとあざ笑うような笑みでそう名乗ったので、ちょっとイラっときたが、燈子は全く動じることもなく、

「私との……燈子との同棲生活はどう?」

「どうと言われてもな」

「楽しいでしょう」

「楽しいって言ったら、帰してくれるのか? お前の目的は何なんだよ? いい加減、教えろ」

「私の目的は哲史と燈子を結ばせることだよ。それの何が悪いの?」

 何が悪いと言われても、俺は沙彩と付き合いたいんだってわかっているだろうに……。

「沙彩と付き合っても上手くいかないけど、燈子と付き合えばあなたは一生幸せになれるのよ。それを何で嫌がるのかな?」

「お前が勝手にそれを押し付けているからだよ。別に俺が誰と付き合うが勝手じゃないか」

「まだ言っている。二人だけの問題じゃないんだよ、これは。燈子の事も思いっきり二人の間に巻き込ませているじゃない」

「それは……」

 確かに燈子に告白のおぜん立てを頼みはしたけど、だからって何でここまで妨害されないといけないんだよ。


 別に俺が沙彩と付き合って上手く行かなくても、こいつには関係ないじゃんか。

「大昔、私と結婚の約束したの覚えている?」

「結婚の約束だあ? そんなの全く身に覚えもないんだけど」

「へえ、忘れたんだ。四歳の頃、私とおままごとをしている時、燈子に結婚してくれって言って、私もOKしたんだよ」

「四歳……知るかよ、そんなの! 覚えてるわけねえだろ!」

 燈子とは家も近所だったので、そのころからの付き合いなんだが、そんな話は全く覚えていないし、大体、四歳の頃の約束なんぞに何で縛られないといけないんだよ。


「ひどいわね。プロポーズの約束を忘れるなんて、最低だよ」

「四歳の頃の約束なんか意味ねえだろ。大体、燈子は覚えているのかそれ」

「さあ。でも、何となく結婚の約束をしたのは覚えているわよ」

 何となくね……というか、こいつは燈子自身なのか、そうじゃないのかよくわからない。

「燈子との同棲生活を体験して、彼女との相性も魅力もよくわかったでしょう。だったら、告白を断るなんて事はしないことだね」

「ああ、確かに燈子は良い女かもな。でも、あいつと付き合うかどうかは俺が決めることで、お前がどうこう口を出す問題じゃないだろ」

「私は燈子だって言っているじゃない。好きな人と結ばれたいって気持ちは自然なことじゃないの」

 話が噛み合わないな……さっきから、燈子だと言ったり、第三者みたいな視線で物を言ったりと、都合よく使い分けて。


「帰しても良いけど、約束して。燈子と付き合うって返事するって」

「何で、お前に約束しないといけないんだよ」

「どうしてもだよ。でないと哲史、ここから出れないよ。一生……いや、永遠に私とここで暮らすんだね。私は構わないけど、哲史は我慢できるかな?」

 おいおい、脅迫かよ。

 こんな訳の分からない女と永遠にこんな空間で住むなんて御免だな。

 仕方ない、嘘でも……

「嘘ついたら、ここに強制的に転移させるから。哲史の肉体も魂も

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