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第十六話 幼馴染とのデートの後に

「二人で映画観に行くの久しぶりだよねー。超楽しみ♪」

「そうだな」

 電車に乗り、燈子と二人で映画館のある街まで着く。

 田舎だから映画を観に行くにも遠出しないといけないんだが、それよりもだ。

「あのさ、いちいち何で腕組んでるんだよ?」

「え? 別に良いじゃん。こうしてればカップルに見えるでしょ?」

「カップルじゃねえし。暑苦しいから、離れてくれ」

「いいじゃない。私みたいな可愛い子、街を歩いていたら、すぐにナンパされちゃうでしょ。だから、あんたが彼氏役くらいしなさいよ」

 何だそりゃ……別に燈子が他の男にナンパされようが知った事じゃないが、こんな所を知り合いに見られたら、誤解されるからさっさと離れて欲しいんだけど。


「あんたもさー、こっちも沙彩のことで色々気を遣ってやってんだから、ありがたく楽しみなさいよ」

「はいはい。知り合いにみられて変な噂が広まっても知らないからな」

 俺に気を遣ってくれてるのは嬉しいけど、だからってカップルの真似事までしなくても良いだろうに。

 まさか、燈子の奴、本当に俺の事を?

 あんな同棲までした夢だか未来を見てしまったから、どうしても意識してしまうけど、あれは本当なのかまだ確信が持てなかった。

 沙彩と付き合っていたのが夢なら、燈子と付き合っていたのも夢なはずだしな。


「あっ、ここだよね。えっと……」

 燈子と腕を組みながら、シネマの中に入っていく。

 あまり映画を楽しむ気分ではないんだけど、少しでも気晴らしになればと思い、二人で館内に入っていった。

「席はここかな? 何か飲み物でも買ってこようか?」

「いいよ。もう始まるだろ」

 真ん中より少し前の席に二人で座り、映画が始まるのを待つ。

 今日見るのは人気アニメの劇場版なんだが……子供の頃は好きだったけど、俺は最近、このアニメ見てないから、ストーリーに付いていけるかどうか。

「ふふ、楽しみよねー」

「お前、アニメとか好きだったっけ?」

「たまには見るわよ。むしろ、哲史の方が詳しいんじゃないの。あんた、オタクだし」

「別にオタクじゃ……」

「そうじゃない。だって、あんたの部屋も漫画とかラノベばっかだし」

「うるせーな。人の事、言えるかよ」

 失恋で傷心中の幼馴染をアニメ映画に誘っておいてよくいうよ。

 ま、内容はともかく映画が始まれば少しは現実を忘れられるか。


「うーん、楽しかったねー。屋上でのシーンも作画、めっちゃ綺麗だったよね」

 二時間ほどの映画が終わり、燈子は満足そうに映画館を後にする。

 まあ結構迫力あるシーンも多かったし、楽しめはしたかな。

「あんたも結構見入ってたじゃない。気に入ってくれたようね」

「まあな。お礼に昼は俺が奢るよ」

「本当? 悪いわね」

「ファミレスでもいいな?」

「うん。へへ、じゃあ行こうか」

 燈子がまだ俺の腕を組んで、引っ張るように歩いていく。

 またカップルの真似事か……まさか、沙彩の代わりに燈子が付き合ってやるとか、そんなことは考えてないだろうな?

(まさかね……)

 流石に燈子もそんな理由で俺と付き合うことはないと思いたいが、今日の燈子はやたらとベタベタしてきているので、それが気になって仕方なかった。


「うーん、楽しかったわね」

 それから昼飯を食った後、色々と繁華街を回ったりして、日が暮れたころに電車に乗って最寄りの駅に到着する。

 何だかんだで楽しくはあったな……本当なら沙彩と行きたかったんだけど、それはもはや叶わぬ夢なのか。

(てか、俺は沙彩とは一回もデートしてない気が)

 沙彩と付き合っていたはずの世界ですら、俺はデートを一度たりとも体験していないんだが……やっぱり、あれは夢なのか?

「ねえ、哲史」

「何だ?」

「私とのデート楽しかった?」

「まあな」

「そう。だったら、また付き合ってあげても良いわよ」

「ああ、気が向いたらな」

 別に燈子と二人で遊びに行くこと自体は昔からなので、沙彩にフラれてしまった今はいくらでも付き合ってやるわ。


「気が向いたらじゃなくてさー。何なら、毎週デートしてやってもいいわよ」

「はあ? 付き合っている訳じゃあるまいし」

 いくら幼馴染だからって、毎週二人で遊びに行くとか流石に恋人でもない限り無理。

 燈子だって他に友達がいるわけだし、それはいくら何でもおかしい。

「付き合っても良いわよ」

「は?」

「だから、私が哲史の彼女になっても良いわよ」

「…………」

 歩きながら、さり気ない口調で燈子がとんでもないことを口にし、呆気にとられる。


「は、はは……冗談は止せよ」

「冗談じゃないんだけどなあ。哲史、私の事、嫌い?」

「き、嫌いじゃないけど……あのなあ、俺たちは幼馴染で」

「だから? 今から付き合って、彼氏と彼女の関係になろうよ」

 俺の手を握りながら、頬を赤らめて俺にそう迫ってくる。

 えっと……これって、燈子から告白されている?

 状況的にそうとしか思えないんだが、マジで言っているのかこいつは?

「いやいや……だって、俺は……」

「まだ沙彩の事、諦めきれないの? それならしょうがないけど」

「さ、沙彩の事はもう……」

 諦めるというか、まだ吹っ切れってもいないが、沙彩に告白してまだ一週間も経ってないんだぞ?

 それで付き合ってくれとか……。


「私、哲史の事、好きなんだ。だから、付き合って」

「お、おい……本気?」

「うん」

 誤解の余地もないように、燈子がハッキリと俺に告白をしてきて、交際を迫ってくる。

 く……なんだよこの展開は?

 どうしてこんなことになっているのかも理解できなかったが、これではあの夢だか未来と同じ。

「駄目なの?」

「その……ちょっと、考えさせて。いきなりすぎて、気持ちの整理が付かない」

「そう。じゃあ、後で良いから。出来る限り早く返事頂戴ね。哲史に少しの間だけ私をキープさせておいてあげるから。じゃねー」

 頭の中がグチャグチャになってしまい、保留の返事をするのが精いっぱいだったので、そう答えると、燈子も手を放して俺の前から去っていく。


「な、なんだよこの展開は……」

 まさか、燈子に告白されるなんて……あいつが俺の事、好き?

 じゃああの夢っていうか未来は本当の事なのか?

 人生で初めて女子からのしかも燈子から告白され、胸の高鳴りが収まりきらないまま、家路に着いていった。


「はあ……燈子か……」

 自宅に帰り、机の引き出しにしまい込んでいた卒業アルバムを開いていく。

 ああ、小学生の頃の燈子はこんなだったな。

 この前の夢で見た燈子とまんま同じ姿の燈子をアルバムで見つめる。

 白のワンピースを着た十歳くらいの燈子。

 まさかあいつの仕業か……このころの燈子がどんな性格だったか……いや、断じてあんな上から目線の性格ではなかった。

 明るくてやんちゃな性格の女子で、今と大差はない性格だったと思う。

 でもこのころの燈子となんかあったかな……?

 思い出しても何かあったようには思えず、突然の告白に悶々として眠れぬ夜を過ごしたのであった。

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