第十一話 初デートでとんでもないことに
「あ、哲史君。おはよう」
「おう。おはよう」
教室に入ると一足先に教室に来ていた沙彩と挨拶する。
普段通りに挨拶したつもりだったが、今日から沙彩との関係は友達から恋人に変わったんだ。
まだ信じられないなあ……本当に沙彩と付き合う事になったのか?
これが夢ではない事を祈るばかりだが、昨日のラインの履歴もバッチリ残っているから、夢では絶対にない!
「何、ニヤニヤしているのよ?」
「別に。何だって良いだろ」
なんて思っていると、燈子が訝しげな顔をして声をかけてきたが、表情にでてしまっていたか。
「ま、気持ちはわかるけど、ここは学校だからあんまり羽目を外しすぎないようにね。沙彩もおはよー」
「うん、おはよう、燈子ちゃん」
二人が挨拶を交わし、燈子が鞄を置いた後、沙彩の前に座って話し込む。
この辺りはいつも通りの光景だが、なんとか学校でも沙彩と二人きりになりたいので、昼休みにでも誘ってみるかな……。
「あのさ、沙彩」
「なに?」
「えっと……昼休み、空いている? よかったら一緒に……」
「あ、ゴメンね。昼休みはちょっと……放課後なら空いているから……」
「そ、そう。じゃあ、しょうがないな」
早速、橙子と話していた沙彩を誘ってみるが、あっさりと断られてしまった。
「ふふ、残念だったわね、哲史」
「うるせー。じゃあ、放課後にな」
「うん」
昼休みに一緒にランチする約束は断れてしまったが、放課後は一緒に帰る約束を取り付けられたので、まあよしとする。
ふふ、放課後デート楽しみだなー……日曜の予定もしっかり話し合っておかないとな。
放課後――
「あ、こっちこっち」
「ゴメンね、遅くなって」
約束通り、沙彩と放課後一緒に帰ることになり、一足先に校門の前で待っていたら、沙彩が駆け寄ってきた。
「じゃあ、行くか」
「うん」
といって二人で並んで通学路を歩き始める。
これも何度か経験しているはずだけど、やっぱり緊張しちゃうな……。
「あの、燈子ちゃんにはすぐに私たちが付き合い始めたこと報告しちゃったんだけど、まずかったかな?」
「え? いや、別に。あいつにも色々相談に乗ってもらったからさ」
「そうなんだ。燈子ちゃん、すごく面倒見のいい子だからね。くす、一応誰にも言わないでとは言っておいたけど、しばらく燈子ちゃん以外の人には内緒にしておこうか」
「だな、はは」
別に内緒にするようなことでもないと思うけど、しばらくは三人だけの秘密にしておいた方がスリルがあるわな。
(ああ、やっぱり好きな人と二人きりってのはいいなー)
幸せってこういうことを言うんだろうな。
しかし問題はここからだ。
どうも俺が沙彩を束縛し過ぎて、別れてしまったとのことらしいが、束縛し過ぎないようにどう気を付ければいいんだろう?
毎日ラインでやり取りとか、うざがられるのかな……。
「なあ、今度の日曜だけどさ」
「あ、うん。遊びに行く約束していたよね」
「そうそう。何処に行きたい?」
「う、うーん……まあ、取り敢えず二人で食事とか……」
「だな、はは」
この辺は田舎だから、あんまり遊ぶ場所もないし、そのくらいしか出来ないか。
せめて映画館とか近くにあればなー……くそ、田舎なのが憎いぜ。
早く卒業したら、東京とか行きたいなー……って、この前の燈子との同棲生活の夢は一応、東京の近くだった気がするが、大学は田舎だったな。
まあ、あんな夢の事は気にしても仕方ない。
「じゃあ、十一時に駅前に集合するか」
「うん」
日曜日の集合場所と時間を決めた後、二人でしばらく他愛もない雑談をしながら歩いていく。
沙彩との初デート、失敗しないようにしないとな。
ピピピピっ!
「哲史、起きなさい」
「う……」
「ほら、起きる。今日は出かけるんじゃなかったの?」
「もうちょっと……はっ! そうだったっ!」
スマホのアラームとお袋の声でようやく目を覚ますが、今日は沙彩との初デートの日だったことを思い出し、飛び起きる。
しまった……沙彩とのデートなのにギリギリの時間まで寝てしまっていた。
「朝ごはんはいいの?」
「いいよ。行ってきます」
すぐに着替えて財布やスマホを手に持ち、家を飛び出す。
うひー、このままじゃ時間ギリギリだよ。
何でこんな時間まで寝ていたんだか……。
「はあ、はあ……何とか間に合ったか」
約束の時間の五分前くらいに着いたが、沙彩の姿は見えなかったので安堵する。
まあ、あいつより先に来ても仕方ないんだが、とにかく初デートで遅刻とか格好悪いからな。
「髪型は……うん、大丈夫かな」
急いで寝癖を直したので、変になってないか心配だったが、手鏡で一応確認しておく。
うー、今日は沙彩との初デート……緊張しすぎて、胃がキリキリしそうだよ。
「ごめーん、待った?」
「あ、いや今来たところ……へ?」
ようやく沙彩が来たかと思って振り向いてみると、そこには思いもよらぬ人物が俺の目の前に駆け寄ってきた。
「はあ、はあ……ゴメン、ちょっと着替えに時間かかって」
「いや……燈子、何でお前がここに?」
「は? 何でって、今日デートする約束していたでしょう?」
「…………デートって、誰と?」
「私と」
「…………」
一瞬、燈子が言っていることが理解できず、呆気に取られてしまう。
何を言っているんだこいつは?
今日は俺と沙彩のデートだってのは燈子も知っているはずだが……というか、何かやけにおめかししてないこいつ?
「んもう、私達、二人で遊びに行くことはしょっちゅうだけどさー。やっぱり、付き合ってからの初デートじゃない。だから、着ていく服とかちょっと迷っちゃって」
「いやいや、だからさ……お前、何言ってるんだよ?」
「ほら、行くよ。時間は有限なんだから」
「あ、おいっ! 今日は沙彩と……」
「ん? 沙彩? あの子とはもう別れたんでしょう?」
「…………はあっ!? な、何を言って……」
衝撃の言葉をさらりと言い、思わず燈子に食って掛かる。
「何を言っているって……沙彩とは何か月か前に別れたってあんたも言ったじゃない。まさか、未練がここに来て出てきちゃった?」
「おい、お前さっきから何を言って……」
「そういや、ちょうど去年の今頃だよねー。哲史が沙彩と付き合い始めたのも」
「――っ? え……きょ、去年の?」
燈子の言っていることが理解できず混乱していたが、更に驚くべき言葉を燈子が告げ、頭が真っ白になる。
去年ってなんだよ……俺と燈子が付き合い始めたのはまだ三日くらいしか……。
「もう沙彩も受験で予備校通いが忙しいらしくてさ。私も沙彩とは遊びに行けなくなるし、その分、哲史の相手してあげるから、安心しなよ。高校生活も一年切っているんだし、来年はどうなるかわからないんだから……」
受験? 高校生活が一年を切っている?
さっきから何を……まさかっ!?
「お、おい今日って何月何日……」
「え? 今日は五月の二十一日じゃん」
「五月……何年の……っ!?」
今が何年なのかスマホで調べてみると、衝撃の数字が飛び込んできた。
もしかして、これ……一年後に飛んでいるっ!?