第十話 遂にタイムリープから抜け出す?
「くそ、どうすればいいんだ……」
あれから三日経過したが何事もなく日にちは進んでいった。
読み通り沙彩に告白してないと日付が普通通りに進むらしく、それから普段通りの平和な高校生活が戻ってはきていた。
が、これではダメなんだよ。
俺は沙彩と付き合いたいのに、それが許されないってどういうこと?
あの夢だと付き合っても半年で別れてしまうらしいが、
沙彩に告白したいが告白すると、彼女と結ばれない未来に飛ばされるとか、こんなんじゃ身動きが何も出来ない。
「なーに、また難しい顔してるのよ」
何てことを休み時間に考えていると、また橙子が話しかけてきた。
「別に。ちょっと考えごと」
「ははーん、沙彩のことか。あんた、いつになったら告白するのよ? あんなに意気込んでいたのに」
「うるさいな。いつかはするよ。ちょっと、心の準備が出来てないだけだ」
「へえ。土壇場になって、怖気づいたんだ。哲史もこんなにヘタレだったとはね」
誰のせいでこうなったと思っているんだ全く…….。
といっても今の橙子に文句を言っても仕方ないな。
「俺さー。意外に嫉妬深かったりするのかな?」
「は?」
「いや、何となくさ。彼女が出来たら、結構相手を束縛しちゃうんじゃないかって思って」
「ぷっ、何それ。沙彩と付き合ってもいない内から、そんな心配してるの? 哲史、ちょっとおかしいよ」
おかしいのは確かかもしれないが、やっぱり気になっちゃうんだよなあ。
というか付き合ってから考えても良いんだけ、勢いで付き合って半年で本当に別れられたら叶わないしな……。
「おかしいかもしれないけどさ。なんか、不安になっちゃって」
「そんな事、今から心配してもしょうがないと思うけど。告白するなら、さっさとしてくれる? こっちも待ちぼうけ食らってんだけど」
「さっさとする勇気が出ないんだよ」
「とんだチキンね。じゃあ、私が代わりに言ってやろうか? 哲史が沙彩の事、好きだって」
「おい、そんなの……」
「いいじゃない。今って、ラインとかで付き合っちゃおうかって軽い感じで付き合い始める子も多いしさ。何なら今日にでもあの子にラインで言ってやるわよ」
「さすがに止めてくれ。言う時は俺が言うから」
いくら何でも告白そのものを燈子に代わりにやらせるなんてことは出来ないし、仮にそれで付き合えても見返りに何を要求されるかわかったもんじゃない。
(でもラインで告白ってのもやってみるかな……)
今はそういうのも珍しくないってのは本当なのかもしれないし、味気ない告白ではないが、この前とは違う形で告白してみたらどうなるか試してみるか。
「あ、もうすぐ授業始まっちゃうよ。行こう」
「ああ、そうだな」
チャイムが鳴りそうだったので、二人で急いで教室へと戻る。
燈子と話して少しは気が楽になってきたので、今夜にでも試してみることにした。
夜中になり――
「よ、よし……」
風呂から出た後、意を決してスマホを起動させてラインで沙彩にメッセージを送る。
『今、何している?』
とメッセージを送信すると間もなく既読が付き、
『テレビを見ているところ』
と返事が来た。
俺の方から沙彩にラインを送るのはあんまりないんだけど、自然に返してくれてよかった。
それから他愛もない話をラインで続けていき……。
『なあ、沙彩。お前、今付き合っている男とかいる?』
『どうしたの急に?』
いよいよここからが本命だ。
『だったら、俺達付き合っちゃおうか?』
と軽い気持ちで書いて送信する。
既に二度も告白しているが、やっぱり何度目でも緊張しちゃうなあ……。
『え? 付き合うって……』
『沙彩の事、好きなんだ』
流石に困惑したのか、返信までかなり時間がかかったが、すかさず沙彩にそう返す。
ど、どうだ……?
『ちょっと話さない?』
と言ってきたので通話に切り替えると、
『哲史君、今のって……』
「ああ、本気だ。その、よかったら俺と……」
『え、えっと……本気なの?』
「冗談でこんなことは言わないよ」
そうハッキリ言ってやると、沙彩はまた黙り込んでしまう。
頼む……OKしてくれ……。
『そ、そうなんだ……今、返事しないと駄目?』
「出来れば」
もちろん急かすつもりはないが、今すぐ返事が欲しいのは確かだ。
『う、うん……じゃあ、いいよ……』
「本当か!?」
『私でよければ……』
よっし! 三度目の告白も成功した!
これはもうあれじゃないですかね? 俺と沙彩は運命の赤い糸で結ばれているんじゃないですか?
「じゃあさ! 今度の日曜、早速デートしない?」
『日曜日に? うん、いいけど……』
「本当か? はは、じゃあ日曜日に……そうだな、駅前に集合でいいか?」
『くす、うん』
そのままの勢いで沙彩をデートに誘い、沙彩もOKしたので、ガッツポーズする。
いいぞー、いいぞー。このまま初デートまで扱ぎ付けられたので、今度こそは成功させてやる。
「約束だからな。日曜日に、十時に待ち合わせな」
『うん』
と待ち合わせの日時も約束し、そのまま電話を切る。
「いやー、上手く行くもんなんだな」
ラインでの告白なんて味気がなくてどうかと思ったが、上手く行ってしまうものなんだ。
ま、成功すればなんでもいいか。
「ふふ、何処に行こうかなー……いや、その前に」
また二年後にタイムリープされたらどうしよう?
そうなったら意味ないが……まあ、明日になって考えればいいか。
俺にはどうにもならないからな。もしかしたらただの夢かもしれないんだし。
そう言い聞かせながら、沙彩と付き合えた喜びに浸って一夜を過ごしていった。
翌日――
「哲史。哲史、起きなさい」
「ん……はっ! ここはっ!?」
お袋に起こされて飛び起き、今、自分が何処にいるか確認すると、そこは紛れもなく自宅の自分の部屋だった。
「日付は……よし、ちゃんと一日進んでいる」
やったっ! 俺はこのヘンテコなタイムリープから抜け出したんだ!
そう小躍りしながら、起きあがり、学校へと向かう準備をしたのであった。
「あ、哲史ー。おはよー」
「よう」
いつも通り、自転車に乗って通学すると、燈子が手を振って俺を迎える。
「んしょっと。ほら、早く行く」
「あのさー、ちょっと話あるんだけど」
「なに?」
「俺、沙彩と……」
「付き合うんでしょ。昨夜沙彩に聞いたよ」
「マジで?」
燈子には報告した方が良いと思って、言おうとしたが、先を越されてしまった。
「ふふ、ラインで告白したんだって。よくそんなんでウチの学校のアイドルと付き合えたよね」
「うるせー。いいんだよ、上手く行ったんだから。というわけで、そういうことだから」
「はいはい。あ、沙彩は今日は日直だって」
ということはもう先に学校に行っているのか。
ちっ、まあいいか。
学校でもいくらでもイチャつける時間はあるんだしな。
そう思いながら自転車を漕いでいった。