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ラストページ

生徒会室の隅を借りた、小さな一角。

夏希、陽輝、詩織の三人は、机を囲んで「なつひか展」の準備を進めていた。

「展示のタイトル、どうする?」

詩織が聞くと、夏希はペンをくるくる回しながら言った。

「“心のとなりにある図書館”ってどうかな」

「……それ、すごく“らしい”」

陽輝が頷いた。

「じゃあ、展示内容の構成は――」

詩織がホワイトボードに書き始める。


展示構成案:

1. なつひか図書館のはじまり

 ・病院時代の写真(ナースに頼んで提供)

 ・貸出ノートの複写

 ・星の王子さまコーナー(未来セレクション)

2. 心に残った3冊

 ・夏希・陽輝・詩織それぞれの“人生の1冊”

 ・選書理由と短い感想

3. しおりの手紙ポスト

 ・来場者が“今、誰かに届けたい本”を紙しおりに書いて貼る掲示板

4. ラストページの約束

 ・未来からの手紙(原文)

 ・三人の共同メッセージ


準備を進める中で、陽輝は静かに一冊のノートを開いた。

それは、病院で使っていた「なつひか図書館ノート」。

一ページ目に、あの日の貸出記録。

“借りた人:未来  本:星の王子さま”

夏希が、そっと覗き込む。

「こんなに古くなってるのに……なんで、こんなにあったかいんだろうね」

詩織が、少し笑って言った。

「たぶん、想いが詰まりすぎてて、紙にしみこんでるんだよ」

陽輝がノートを閉じながら言った。

「……これ、ラスト展示に置こう。“読んでもいいけど、声に出さずに読むこと”って注意書きつけて」

「え、なんで?」

「泣くから」

三人の笑い声が、部屋に響いた。


その日の最後、夏希が封筒を一枚取り出した。

「未来から、最新の手紙。展示で読んでって言ってた」

詩織が代わりに開いて、声を出す。

「ねえ、“なつひか”ってさ、

誰かが泣いたあとに本を貸す図書館だったと思うんだ。

誰かがつらかった記憶を、物語でそっと包む場所。

だからきっと、“読む人が一人でもいれば”、まだ続いてるよね。

未来より」

三人は、言葉を失ったまま、しばらく沈黙の中にいた。

でも、その沈黙が、とてもやさしかった。

図書室の一角は、手作りの装飾と優しい光に包まれていた。

入口の看板には、小さな字でこう書かれていた。

『なつひか展 〜心のとなりにある図書館〜』

「読む人がひとりでもいれば、この図書館は生きています」


開場とともに、生徒や先生たちが次々と訪れた。

写真や本を手に取りながら、ゆっくりとページをめくるように歩いていく。

未来の書いた“星の王子さま”の感想カードには、何人もの生徒が足を止めていた。

「“本当に大切なものは目に見えない”――これ、私も好きです」

「泣きそうになった……」


一番奥の展示スペース。

そこには、夏希・陽輝・詩織、それぞれの「人生の一冊」が並んでいた。

夏希の本の紹介カードには、こう書かれていた。

「入院中、泣きたいのに泣けない夜、この本が代わりに泣いてくれました」

陽輝のカードには、

「誰かと読むことで、ひとりじゃないって気づけた。

本のとなりには、いつも“ひと”がいる。」

詩織のカードには、

「私はふたりの物語の“あと”に出会ったけれど、

その続きを一緒に書いていけることが、いまの私の誇りです。」


展示の最後に置かれたのは、例の「なつひか図書館ノート」。

そっとページをめくる生徒たち。

“読むけど、声に出さない”という約束を守るように、皆、静かに涙をにじませながら目を落としていた。


そして、展示の終盤。

詩織が来場者に向けて、マイクを手に取った。

「私たちの展示は、ただの思い出ではありません。

これは、読んでくれた“あなた”とつながるための新しいページです。

だから……よかったら、“あなたのしおり”も、残していってください」

その声に導かれ、

来場者たちは「しおりポスト」に、“自分が誰かに届けたい一冊”を静かに挟んでいった。


夕方、来場者が引いたあと。

三人は並んで会場を見渡していた。

「これで、本当に終わりだね」夏希が言った。

「いや、たぶんここが“始まり”だと思う」陽輝が返す。

「……図書館って、そういうとこだもんね」詩織が微笑んだ。


その夜、展示スペースに最後の一冊が置かれた。

表紙に書かれた題名は、

『なつひか図書館 〜未来と過去が同じ棚にある場所〜』

そして、その見返しには、三人の名前と、こう書かれていた。

「この本は、読まれ続ける限り、終わらない。」


物語は、終わらない。

ページは静かに閉じられ、

けれど心の中では――今日も、誰かがそっとページを開いている。


fin

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