その8
「やっぱりあの女社長が鍵だったのね、さすがアタシね!」
事務所へ戻りのり子さんへ一部始終を報告すると、得意げにそう言ってきた。そして忠司さんによれば、女社長にはのり子さんのことも話したらしく3人分の枠をファンクラブへ作ってくれたそうだ。それより忠司さんって占いを信じていないのに、女社長にバレなかったのかな。
「いや気づいていたと思うぞ。ただ俺の場合は仕事で仕方ないと話したからじゃないかな。」
応接室での女社長の態度から考えると、忠司さんのことがタイプだからじゃなかろうか。いわば男前だけに許された特別待遇なのでは?
「何はともあれ、これで第一目標の澄ファン加入はクリアしたも同然だわね。」
オレたちの分のコーヒーも用意してくれながら彼女は上機嫌だ。そういえばオレは彼女がほしいから占い師に会いたいけど、のり子さんは何を占ってもらう気なのだろう。
「アタシ?雅樹くんと一緒で恋愛運よ、彼氏募集中ですもの!それにもう一つ、占い師の手腕をこの目で確かめたいのもあるわね。ほらアタシも趣味で占いをやることがあるから、田山澄子から何か学べるものがあると思うの。」
のり子さんは学生時代から遊び半分で占いをやっているのだが、彼女の占いは当時から不思議と当たると評判なのだという。
あ、オレいいこと思いつきました!田山澄子がインチキかどうかを確かめる簡単な方法があるじゃないですか。オレがのり子さんと田山澄子、両方から占いを受けるんですよ。それでどっちが当たるか確かめる。どうですか?
「ハッキリ言って微妙ね、少なくともアタシの占いは必中をウリにしてないし。」
そうか、よく考えたら確かめるなら両者が同じ条件でなければ検証にはならないか…。
そこでいつものパソコン席に座っている忠司さんが割って入ってくる。
「しかしこの田山澄子、ほとんどクレームというか悪評がないのも納得だな。インターネットでいくら検索しても当たりました!すごいです!のような良い評価しか出てこないが、ファンクラブの存在を知った今なら納得だよ。そもそも田山澄子とその占いを信じる者だけが彼女に近づけるのだからな。」
それについてはオレも同感だ。澄ファンに加入した人間は、憧れの田山澄子に占ってもらえるというだけできっと感動モノであろう。そのような人たちが、わざわざインターネットで田山澄子を評判を落とすような書き込みをするわけがない。あのファンクラブは彼女の人気や評判を維持するためにも存在しているのだ。
「だって社長に就任した直後に業績を回復させたやり手の女社長がファンクラブ制にしましょうって進言したんでしょう?きっとそこまで計算ずくだったのね、仕事のできる女って同じ女性として憧れちゃうわね。」
翌日、早速事務所の郵便受けに1通の封筒が投函されていた。そこには澄子様ファンクラブのサイトへアクセスするためのQRコードが印刷されており、その下に注意書きがあった。このQRコードは発行の度に内部のURLを変更させることで、図柄が毎度微妙に異なっているらしい。
「要するにファンクラブでない者にこのQRコードを勝手に見せびらかしたりする等、裏切り行為をすると誰が犯人か即分かるシステムになっているようだな。キミたちも十分気をつけるように。」
忠司さんに言われ、オレとのり子さんは黙って頷いた。もし裏切ったらどうなるんだろう…なぜだかオレは背筋が少し寒くなった気がした。
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