その6
「それで、ワタクシに何の用かしら?」
柳生社長がこちらに向き直る。口上は要件を尋ねてきているが、その相手を見抜くような目を見てオレは察した。この人は嘘が通じる相手ではない。
オレは必中する占い師の田山澄子に占ってほしいことがあること、そのために彼女のファンクラブに入りたいことを正直に話した。柳生社長がその占いで成功したことを聞いてここに来たことも。
「薄々気づいていたけれど、やはりその話ね。ワタクシが田山様の占いをきっかけに社長の座に上り詰めたのは事実ですわ、業績が回復したのもね。」
やっぱりオレ達が何を聞きにここへ来たのか気づいていたか、と言いたげなオレの考えを見透かすように柳生社長は続ける。
「仕事関係以外でここに訪ねてくるのは、もっぱら澄ファンに入りたい方ばかりですわ。もっとも今回は八重島さんが来てくれたから招き入れましたけど、普段は受付のところでお帰りいただいてますのよ。マスコミ関係を含め、全員を相手にしていたら時間がいくらあっても足りませんからね。それでどんなことを澄子様に占ってほしいのかしら?内容によってはここでお帰りいただくことになりますけれど。」
背筋をピンと張ってまっすぐ目を見て話してくる柳生社長。机を隔てているとはいえ、あの射抜くような目で見られると妙に緊張してしまう。オレは素直に恋愛運を占ってほしいと告げた。
「それでしたら問題ありませんわ。」
その言葉にホッと胸を撫で下ろすオレ、とりあえず帰らなくて良さそうである。そんなオレをよそに忠司さんが質問を投げる。
「ちなみにどんな占い希望だとNGなんでしょうか?」
「そうねぇ、例えば健康運なんかは無理ね。たまにいるんですけどね、病気を治せだの寿命を延ばせだのと無茶なお願いをする人が、そういう類の方は即ご帰宅を告げられるわね。そういうのはお医者様に聞くべきよねぇ。」
柳生社長の言うことはごもっともである、占いで健康になれるなら誰も苦労しない。オレは妙に納得しウンウンと頷いてしまった。いや待て、考えるんだ。オレはファンクラブの紹介をしてほしくてここに来たんだ、呑気に世間話をしている場合ではない。
柳生社長に澄ファンの話を仕向けると、どうやらこの社長が澄子様へファンクラブ制にしたらいいのではないかと提案したらしい。ということは、事実上ファンクラブの始祖なわけだ。しかし肝心の紹介しましょうか?の一言を引き出せない。それさえ言ってもらえれば、オレは二つ返事で頷くだけなのに!
もう一押し…なんとかならないか。
「でもワタクシから澄子様とそのファンクラブのことを聞き出したかっただけかしら?ちょっと残念ね、せっかくまた八重島さんにもお会いできましたのに…。」
残念そうに忠司さんの方へ流し目しながら呟く女社長。コレだ、忠司さんが押してくれればイケる!オレは机の下で忠司さんの太ももを何度がグーで軽くノックする。それでやっと察してくれたのか、忠司さんが後を引き取ってくれた。
「それが社長、実は俺達正式な依頼として別のお客様からも澄ファンに紹介してほしいと仕事を請けているんですよ。つまり俺達がファンクラブに入れないと、依頼人にも顔向けできないわけでして。ここは一つ、俺達を紹介をしていただけませんか?」
「ワタクシから直接ご紹介することは稀なんですけれど、仕方ないですわね。八重島さんにお願いされたら断れませんわ。それでは後日、そちらの事務所へ書類を届けさせます。分からないことがあったらいつでもワタクシに電話なさって。」
明らかに忠司さんに向けて言っている、しかしここで不貞腐れて場を壊すわけにはいかない。オレは何も気づいていないフリに徹した。
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※この話は一部フィクションです。