その5
のり子さんがこの占い師の件を正式に依頼として受けてから、数日後。
オレは忠司さんの運転するレンタカーの助手席に座っていた。オレは特に何も聞かされぬまま、IFCの会社に向かっているところである。きちんとアポイントを取ったのだろうか…?
「大丈夫だ、俺に任せろ。あの女社長が今日オフィスにいて、しかも予定が空いていることは確認済みだ。」
ところで忠司さん、霊感商法詐欺の可能性があると言っていましたが、そうしたら警察に通報するんですか?
「いや、霊感商法は詐欺の中でもかなり立件しにくいんだ。なにせ霊や占いを信じるも信じないも、あくまで個人の自由だからな。市販のどこにでもある普通の壺を1万円で買い1000万円で売りつけた、のような分かりやすいボッタクリであれば簡単だが、なにせ詐欺する側も捕まりたくないからな。うまく法律に引っかからないラインを狙ってくるんだよ。」
話している内に目的地についた。近くのコインパーキングに車を停め、俺と忠司さんは歩いてIFCのオフィスに向かう。当然倉庫とオフィスは別の場所にあり、今オレが立っているのはビルが整然と並ぶオフィス街である。平日の日中ということもあり街を歩く人もほとんどがスーツ姿だ。
IFCはとあるビルのワンフロアを間借りしてそこをオフィスとして使っている、まぁよくあるパターンだった。1Fの正面ドアから入ると受付嬢が二人並んでいる、ドラマなどでよく見る光景だ。こういうとき、ほぼ毎回忠司さんの方に視線が行くのがちょっと悔しい。彼は背が高い上に顔も整っているからである、だからこの人と並んで歩くのは正直嫌だ。
「IFCの社長に用があって来ました、俺はこういう者です。」
忠司さんが名刺を渡すと、少々お待ち下さいと言いながら受付嬢がそれを見ながら電話をする。5分もしない内にOKが出たようで、エレベーターで4FにあるIFCのオフィスへ行くよう指示された。
オレはやり手の女社長だからきっとのり子さんより気が強いのかな、などと余計な心配をしながらエレベーターに乗り込んだ。
4Fに着くと新入社員だろう、かなり若い男性が応接室へ案内をしてくれた。3畳ほどのスペースに机一つを挟んでパイプ椅子が対面に2つずつ、応接室と言うより面談室だ。他にはキャビネットや棚があるものの、もちろんすべて扉が閉められており中身は見えない。
ほどなくして女社長が入ってきた。
「あら~八重島さん、こんなに早くお会いできると思いませんでしたわ。先日はどうも。」
オレの第一印象はTHE・マダムという感じだった。ゆったりとした喋り方だがどこか気品がある。見た目はちょっと厚めの化粧にセミロングの茶髪、服装はパンツルックのスーツ姿でスタイルは良い方だろう。本人も自覚があるのか靴はその自信を表すかのように高めのヒールだ。名刺をもらうと、そこには柳生美紗恵と書かれていた。オレは初めて見る苗字だ。
「すみません、突然押しかけてしまって。実はとある仕事の件で、柳生社長にお話を伺いたくお邪魔させていただきました。実は先日お仕事をご一緒したとき、チラリと社長の行動予定が書いてある紙が目に入ったものですから。お会いするなら予定の空いていた今日しかないと思いまして。」
そうか社長の予定は確認済みってそういうことだったのか、オレは余計なことを言わないよう対面に座った女社長を見ながら黙っていた。
「いやだわ、なんだか気を使わせちゃって悪いわねぇ。でも八重島さんでしたらワタクシいつでも予定を空けますわよ?だって八重島さん、男前ですもの。」
これがアニメなら女社長の言葉の所々にハートマークが付いているだろう、だが忠司さんはもう慣れているのか動じずに対応を進める。
「実は俺の後輩の雅樹が最近占いに凝っておりまして、ぜひ社長の話を聞きたいとうるさいんですよ。ホラ挨拶しろ。」
もちろんオレが特別にせがんだ訳ではないのだが、会うための口実みたいなものだ。そしてここからが勝負、占い師田山澄子との接点をうまく作らなくてはならない。
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