その4
その後オレと忠司さんがそれぞれ事務所で作業をしていると、散歩が終わったらしいのり子さんから二人ともまだ帰らないでねとメッセージが来た。どのみち定時までまだ1時間ほどあるので帰りたくても帰れないんだけど。
そのメッセージから約30分後、のり子さんが興奮気味に事務所へ戻ってきた。
「ちょっと二人とも、ソファーのところに座って!」
大きな声でそう言われて、オレと忠司さんは何もわからぬままソファー席へ並んで座る。すぐに手洗いを済ませたのり子さんがバッグを小脇に抱えながら対面のソファーに座り、一枚の書類を出す。必然的にオレと忠司さんの視線はその書類へ向けられる。
「これ…依頼書か?しかも依頼内容は占い師田山澄子のファンクラブ加入?」
忠司さんが読み上げると、ニヤリと笑うのり子さん。
「そうよ。アタシがお散歩代行に行っているお宅の奥さんに占い師の話をしたらね、その奥様も占ってほしいって!だから奥様を澄ファンに紹介するのが成功報酬の条件で受けてきたわ。占い師に会えるかどうかはどうしても運次第になるから、ファンクラブへの紹介ってことで了承してもらったの。どう?きちんと仕事として受けてきたから、これからは堂々と業務時間中に調査してもいいわよね?」
やられた、という表情を浮かべる忠司さん。依頼を受けた以上は事務所としての仕事になるわけだから、今後は忠司さんにも情報共有をしないと。
「俺は占いには興味はないが、仕事であれば仕方ない。それに一つだけ、俺も気になってる点がある。」
なんですか?とオレは質問してみる。
「いや、まだ確信が持てないからやめておこう。君たちを混乱させることになるだけだしな。それよりまず、君たちが握っているその占い師の情報を教えてくれ。」
この忠司さん、何でも屋を始める前は刑事だったのだ。憶測や不確かな情報は先入観を強め誤った捜査に繋がると現役時代に教育されたそうで、頭にパッと何かが閃いてもおいそれとは教えてくれない。秘密主義のような感じがしてモヤモヤするが、守秘義務の厳しい仕事についていた彼にとっては当たり前なのかもしれない。
数十分後。
「なるほど。つまりその占い師の居場所を掴むにも、実際に占ってもらうためにも、まずはそのファンクラブ会員にならなければいけないわけか。しかも紹介制の。」
それについてはアタシに考えがあるわ、とのり子さんがすかさず口を開く。
「八重島さんが今日の倉庫作業に行った会社の女社長は、澄子様に占ってもらった張本人なの。時期的に彼女はファンクラブ発足前に占ってもらっていることにはなるけど、それでも彼女自身が会員か、もしくはファンクラブと何らかの繋がりがある可能性が高いわ。そこを当たってみるのはどうかしら?今のところ他に手がかりもないし。」
じゃあ俺が行ってこよう、会社の場所もわかっているしと名乗りを上げる忠司さん。しかしのり子さんは首を横に振る。
「ダメよ。澄子様のファンクラブは、占いを信じる者でないと入れてもらえないって話よ。八重島さんは占いを信じていないわけだから、なんらかの拍子にそれを看破されたら絶対に紹介してもらえないわ。そこで雅樹くん、あなた一緒に行ってきて。八重島さんより雅樹くんが交渉した方が良いと思うの。」
せっかくならのり子さんも一緒に行きましょうよとオレが誘ったものの、アタシは忙しい女だからダメよと謎の理由で断られてしまった。それに平日は誰かが事務所に残っていないと駆け込みの依頼があったときに対応できないのも事実、今回はのり子さんがお留守番担当となった。
でもどうやってアポイントを取るんだろう?占いの話が聞きたいですなどと、のこのこ訪ねてきた何でも屋を忙しい女社長が相手にしてくれるんだろうか…?
気になると言えば、一回5万円という相談料はさすがに高すぎやしないか?今まで何人が彼女の相談を受けたのかは知らないが、100人占えば一般サラリーマンの年収を楽々超えてしまうではないか。
「それだけじゃないわよ、どうやら澄子様の開運グッズなるアイテムも希望者へ販売しているみたいね。ネックレスやブレスレットにパワーストーン…まぁよくある話だけど。」
「だが相談料にグッズの販売料も合わせればかなりの額になることは明白だ。彼女の力が本物ならいいが、インチキだったら悪質な霊感商法だぞ。どうやらしっかり調査する必要がありそうだ。」
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※この話は一部フィクションです。