その3
翌日。
今日は忠司さんが朝からいない。輸入代行業者の倉庫整理に呼ばれたとかで、朝から依頼主の元へ行っている。彼はトレーニングにもなるからと、力仕事を率先して引き受ける性質がある。さすが普段からジムに通っているだけはある。
そしてオレは事務所に顔を出したのり子さんをいつものソファー席に誘い、占い師のことを話してみた。
「早速調べたのね。実はアタシもね、家に帰ってからちょっと検索してみたのよ。アタシだって必中の占い師に恋愛運を占ってほしいからね!もし運命の人が1回5万円の占いで見つけられるのならむしろ安いものよね~。」
昨日はちょっと怖いなどと言っていたけど、結局のり子さんも気になってるんだ。でも日本中を転々としているから見つけるだけでも大変みたいですよ、と言ってみる。
「そうね、アタシも検索したから知っているわ。どうやらその占い師の情報を共有するサークルの名前は澄子様ファンクラブ、略して『澄ファン』と呼ばれているそうよ。」
なんだ、じゃあ話は簡単だ!早くその澄ファンとやらにオレ達も入りましょうよ。そう提案するが、のり子さんの顔は曇ってしまう。
「それがね、そのファンクラブはどうやら紹介制らしいの。誰でも加入OKにしてしまうと占いを信じない人、いわゆる冷やかしの人も加入できてしまうでしょう?だから真剣に悩んでいる人や、澄子様を心から尊敬する人たちだけで構成したいがために、既にファンクラブに入っている人から紹介を受けなければいけないんですって。」
さすがその筋では超人気の占い師、電話一本で簡単予約というわけにはいかないか。まずはそのファンクラブ会員を見つけて紹介してもらわないとダメなんだ。
「それにね、田山澄子も現在はそのファンクラブに入っている者の占いしか受け付けていないらしいの。平たく言えば、自分を信じている人だけを相手にしているって感じね。だからファンクラブに入っていない者が澄子様を見つけても、肝心の占いは断られてしまうそうよ。」
なるほど。つまりファンクラブの存在が、インチキだと批判する者や冷やかし者に対する強力なフィルターになっているんだ。しかしこれはいよいよ困ったぞ…オレの知り合いに澄子様のファンクラブ会員なんているわけないし。そう思い悩むオレにのり子さんが声をかけてくる。
「そう落ち込むこともないわよ、逆を言えばファンクラブに入ることさえできれば一気に田山澄子に近づけるってことじゃないの。良いこと雅樹くん?この件に関してアタシは全面協力するわ、だから情報共有は常にしていきましょう。」
もう外が暗くなるころ、忠司さんが帰ってきた。ちなみにのり子さんは散歩の依頼をこなすために彼と入れ替わりで事務所を出ていった。
忠司さん、一日中力仕事をしていた割には綺麗さっぱりしているような?事務所に入ってきて早々パソコン席に座る彼に問うてみる。
「帰りに銭湯に寄ってきたからな、それに言うほど力仕事じゃなかったぞ。服の輸入販売をしている会社らしくてな、段ボールは大きいんだが中身は布やポリエステルで作られた服・タオルばかり、つまり軽いんだ。体力は使わずに済んだが、あんまりトレーニングにはならなかったな。」
どこか残念そうである。
…ってちょっと待てよ、服の輸入販売業者?なんだか引っかかったオレは、その会社名を尋ねてみる。
「確かIFC、インターナショナルファッションクローゼットという名前だったぞ。それがどうかしたか?」
その名前。オレはのり子さんにメッセージを送ってみると、案の定な回答が帰ってきた。
「それって澄子様に占ってもらって大逆転した洋服屋の名前よ。田山澄子が有名になるきっかけとなった、大きな占いの!雅樹くん、意外とファンクラブへの道は近いかもしれないわね。」
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※この話は一部フィクションです。