その32
教えられた部屋の前でノックすると、ロックが開けられどうぞという声と共にドアが開く。オレは緊張しながらも部屋に失礼した。
「あら、あの子は?」
きっとあの弟子の女性の事だろう、オレはちょっとあなたと話したいことがあるので自室に待機してもらいましたと伝えた。何かを察したのか彼女は何も言わなかった。
オレが泊まっていたホテルと違い、ここは洋室だ。よくあるシングルルームで、部屋の隅にベッドがある他は反対側に小さな冷蔵庫や備え付けのテレビが壁にあるくらいだ。そして部屋の真ん中にやはり小さな丸テーブルと、向かい合うように椅子が2つ置いてある。恐らくだが片方は弟子さんの部屋のものだろう。
「お話ってなにかしら?占いよりも大切なこと?」
促されるまま椅子に座ると、そのまま向かいに座り笑顔を作りながら話しかけてくる田山澄子。それに対して、オレは何か気になることありませんか?と返してみる。
「気になること?うーん、そのトートバッグのことかしら。昨日は持ってなかったわよね?」
やっぱりこの人…。
オレは単刀直入に、草津温泉へ来る前は田山流霊媒堂へ寄ってきたことを告げた。その瞬間、彼女の顔が凍りつく。
「そう。わざわざその話題を出すってことは、あそこが私の実家だと知っているのよね?占い師として活動してからもう数年経つけれど、実家に寄った人と対面したのはこれが初めてよ。」
さっきまでとは打って変わって無表情で、とても冷たい物言いに豹変した田山澄子。その口ぶりから怒りや動揺などの複雑な感情が入り混じっているのを感じる。だがオレも怯むわけにはいかない。
澄子さん、昨日相談者の夢を自分の霊力で紐解くと仰っていましたね。しかしそれはウソだ!あなたに霊力はない!
「…どうしてそう思うのかしら?私は田山家の女よ、出産もしていないから霊力は失われない。あなたもしかして私をインチキ呼ばわりする気かしら?姉真弓に何を吹き込まれたの?」
なおも無表情のまま冷たく言い放ってくる。オレは真弓さんに、自分に守護霊が憑いていることを会ったその瞬間に看破されたことを伝えた。それはとても良い霊で、オレのことをずっと見守ってくれている、大切な人だと言い返した。すると突然、オホホホと口に手を当てて高笑いしだした。
「そんなの最初から私にも視えていたわ。ただ私は愚かな姉のように、みだりに霊力をひけらかしたりしないの。聞かれなかったから答えなかっただけよ…そう、私には昨日お会いしたときからちゃんと視えていたわよ。あなたのそばで微笑むおばあさまの霊が。」
ダウト。オレに憑いている守護霊は、昔実家で可愛がっていたハスキー犬のゴン太だと真弓さんは言っていた。しかもオレのおばあちゃんはまだ生きている!
オレはそう言い放った。忠司さんからインチキ占い師は情報を引き出そうとするということを聞いて、あえてウソをついたのだ。本当にこの女に霊力があって守護霊が見えるのなら、真弓さんのように簡単にウソを見破ってくるはずと踏んでいた。
「…騙したわね。」
彼女はオレをキッと鋭い眼差しで睨みつけていた。
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※この話は一部フィクションです。




