その29
どのような占いかと少し様子を見ていたが、水晶玉を取り出したりタロットカードを広げたりすることもなく、占い師本人は淡々と話しているようだ。何も変わったことが起こらないので観察しているのも飽きてしまい、気づくとテレビに見入っていた。
いつの間にかオレの番になっていたようで、お付きの人に肩を叩かれ気付いた。マスクとキャップで顔はよく分からないが、見えている目元だけ見ても結構美人だよなこの人。声の感じからしてもオレより若いんじゃないかな…そんなことを考えながら着いていく。オレが最後を希望したためもう誰もおらず、ディナータイムということもあり一般客もいない。広い空間にテレビの音だけが響き、いるのはオレ達だけ。このエリアは電気の光で明るいが、なんだか寂しくちょっと恐ろしい。
促されるまま田山澄子の対面の席に着くと、再度ファンクラブの情報確認をされる。付き人の人が何か耳打ちすると、納得したように大きく頷いた。
「あぁ、美佐恵から新しい人を紹介したと聞いていたけれどあなただったのね。始めまして、私が田山澄子です。それであなたは何を占ってほしいのかしら?」
話し方は努めて落ち着いた女性という印象だ。オレは素直にここ数年彼女がいないこと、そろそろ年齢的に落ち着くことを考え始めたので結婚を考えられるような女性と出会いたいことなどを話した。
「なるほど恋愛運ね…。ご存知かもしれないけど、私は元々夢占いを得意としていたの。夢というのはもちろん人が寝ているときに見る夢のことね。今はそれを我流に派生させて、私自身の霊力を介して夢の事象を紐解き、相談者の悩みや希望に対するヴィジョンを出しているの。私はそれをただアドバイスをしているだけなんですけれども、世間では必中だと評判ですのよ。それにしても夢って不思議なものよね、人間は寝ている間いくつもの夢を見ているわ。でも起きるとほとんど覚えていないでしょう、断片的に覚えていても、すぐに忘れてしまう。儚いわよね。」
たしかに言われてみれば、どんな夢を見たのかは朝起きてちょっとすると忘れてしまう。覚えておきたければ起きてすぐ布団の中でそのままメモや日記に書くと良いわよ、なんて前にのり子さんが言ってたっけ。
「ちょっとあなた、私の話を聞いておりますの?とにかくここ最近で見た夢で一番印象的なものを私にお話ください。いくら夢は忘れやすいものと言っても、人間インパクトの強いものはなかなか忘れないものですわ。そうね例えば…怪物に追いかけられる夢や、誰かに殺される夢。最近そのような強いイメージの夢をご覧になった?」
うーん、と言ってもオレ夢なんてすぐ忘れちゃうんだよな。朝起きたときに何か夢見てたなーくらいの感覚で、それも朝飯食ってる間にどうでも良くなっちゃうし。
「それでは答えをお出しすることができませんわね、私は夢占いを基にして占っておりますから。そうねぇあなた、明日もお会いできるかしら?あら、お隣に泊まってるの?それなら今夜必ず何かしらの夢を見るはずですわ、それを明日、もう一度私に教えてくださる?明日の朝10時にここでお待ちしておりますから。必ず夢を覚えていらしてね。」
オレは分かりましたと答えて席を立った。ものすごく腹が減った、時計を見ると宿泊先のディナーがあと1時間で終了してしまう。エントランスを出た途端に冷たい空気が全身を包み思わず身震いし、早足で歩きながらも、しかしオレはとあることを考えていた。直接確認したわけじゃないけど、あの人…。
いつも閲覧・評価ありがとうございます。感想・誤字の指摘などありましたらよろしくお願いいたします。
※この話は一部フィクションです。




