その27
オレは走って隣のホテルへ向かった、なぜなら部屋に入られたら面倒だからである。そうなっては次いつ部屋から出てくるか、最悪明日の朝まで張り込まなくてはならない。少なくともこのチャンスを逃した場合、のり子さんあたりからそのような命令が飛んでくるのは容易に想像が付く。
何事かと思われ騒ぎになるのが嫌なので、一度入口で呼吸を整えてから隣のホテルのエントランスをくぐった。正面に受け付けがあり左手にエレベーターがある、しかし3基あるエレベーターは今どれも動いていない。しめた、これなら1Fに部屋を取っていない限り売店やロビーの辺りにいるはずだ。
不審がられない程度に周辺を見回すと、受け付けの右手に扉がありその先はロビーやトイレ、売店のエリアになっているようだ。どなたでもご利用くださいと書かれているので遠慮なく扉の先へ進む。
ロビーはいくつかのテーブルとソファが用意されており、言わば客同士が談笑したり待ち時間を過ごせるような空間になっている。壁際には大きめの液晶テレビが備え付けられ、雑誌やパンフレットも豊富に用意されている。さらに奥の方に売店も見える。
問題の田山澄子の居場所はすぐに検討がついた。他のテーブルは閑散としているのに10名ほどの人だかりが明らかに1つのテーブル席に集中している。オレは様子を伺おうと近くの席に座り、スマホを取り出していじるフリをしながら盗み聞きしてみる。案の定、彼氏との結婚の相性を占ってほしいという女性の声や、これから産まれてくる子どもの運勢を見てほしいなど占いに関する話が聞こえてくる。
チラリとそちらを見ると、身長170cm近いだろうか?お付きの人と思われる背の高めな女性が落ち着いた声で集まった人たちへ声をかける。
「皆様、澄子様の占いは本物でございます。だからこそ澄子様を信じる者にしかこの方の占いを受ける権利はございません。占いをご希望の方は、どうぞその資格をご提示くださいませ。」
言われた人たちはポカンとしている。一体何のことだろう?
資格というのはおそらくファンクラブのことだ、ファンクラブに入っていない者は占わないという噂は本当らしい。提示しろってことは何かを見せろってことか…物理的に見せられるのは例のファンクラブ会員用QRコードくらいだけど。
オレはさっと立ち上がり、これですか?とそのQRコードを見せると、お付きの人が自分のスマホで確認する。肝心の田山澄子はティーカップで恐らく紅茶だろうか、それを飲みながら一言も発さずにテーブルに広げた草津温泉のパンフレットをずっと見ている。
「たしかに、あなたは資格をお持ちのようです。」
オレのその様子で周囲の人も何を見せれば良いのか分かったようで、しかもこの集団の内4人がファンクラブ会員みたいだった。4人もオレと同じように次々QRコードを確認されていた。
一番最初に会員確認したオレが占われるトップバッターになりそうだったが、トイレに行きたいと理由をつけて最後にしてもらった。忠司さんやのり子さんへの報告もしたいし、何より彼女がどういう風に占いを行うのか見ておきたいからである。
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※この話は一部フィクションです。




