その25
翌朝。オレは朝食のサービスがある7時より少し前に起き、簡単に身支度を整えると食堂のあるフロアへ向かう。どうやら宿泊料金に朝食と夕食は含まれているらしく、それなら食べなくては損である。しかも昨日の夜はせっかく草津まで来たのに売店の軽食だった、絶対に旅館の朝食は食べておきたい。
このホテルの朝食はよくあるバイキング形式のようで、オレも自分の分をいろいろと選び席に着いた。旅館で食べる朝食と言えばやはり和食だ、白いご飯に焼き鮭・味噌汁・卵焼き・山菜とキノコのおひたし・納豆・お漬物など和のものをたくさん取ってきた。
閑散期の2月とは言えそこそこ宿泊客がいるようで、見渡せば70人分の席が用意されている全体の4割ほどは埋まっていた。さりげなくチェックしてみるが、田山澄子らしき人はいない。まぁ背を向けて食べている人もいるので全員の顔をきちんと確認できているわけではないが、いないだろう。そもそも彼女はテレビやSNSでも話題になるほどの有名人である、こういったところにいれば誰かしらが気づいて話しかけているはずだ。
その後もしばらく食休みするフリをして新しく列に並ぶ人を観察してみるが、やはり彼女らしき人物は現れない。変装しているような人物もいない。草津温泉周辺は宿泊施設がいくつもあり、違う宿に泊まっているのだろうか。まぁそう簡単に会えるなら誰も苦労しないのだが。
周辺施設のオープンまではまだ時間がある、オレは一応ロビーや売店なども様子を見に行ったがやはり彼女らしい人影はない。
えっ受け付けで聞けばいいじゃないかって?それは無理さ、施設側が騒ぎやトラブルになるのを嫌がって絶対に教えてくれないからね。警察でもなければ聞き出すことは難しいだろう、そもそも誰が泊まっているかを勝手にペラペラ暴露してしまうようなホテルは著名人側が嫌でしょ…って誰に説明してるんだオレは?
とにかく忠司さんへ、オレの泊まってるホテルでは今のところ発見できていないですと報告すると、少ししてスマホにメッセージが返ってきた。
『そんなに都合よく会えないか。まぁいい、そこのホテルは比較的周辺施設へアクセスしやすいところを選んで取った。チェックアウトまで少ししか余裕はないが探してみてくれ。温泉で羽を伸ばしすぎるなよ?』
うーん、さすが上司。オレの行動は読まれているのか最後にチクリと釘を刺されてしまった。そして忠司さんから話を聞いたのか、すぐにのり子さんからもメッセージが送られてくる。
『ちょっと、もし澄子様に会えたら次の行き先を忘れずに聞いておいてちょうだい!アタシだって占ってもらいたいんだから!』
のり子さんも来たらいいのにと何気なく返信してみると、どうやら今日は例の犬の散歩とは違う依頼が入っていてダメらしい。一番占い師に会いたい人が会えないとは、なんとも皮肉なものである。
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※この話は一部フィクションです。




