その21
なぜ田山澄子は家を飛び出したのでしょう?彼女が霊感持ちならそれこそ真弓さんと二人三脚で霊媒師をすればいいし、それとも長女以外は家を追い出されるしきたりでもあるんですか?
「そんなことございませんわ。事実私のおばあちゃん、つまり先々代も姉妹でしたが屋敷で私達と一緒に住んでいましたから。今はもう二人とも亡くなっていますけれど。」
それならなおさら気になるな。しかも成人と同時に家を飛び出すなんて、澄子さんはその数年前からずっとタイミングを図っていたのではないだろうか?
考えをまとめようとするオレに真弓さんが話しかけてくる。
「それよりも、固くなるといけませんわ。そのお団子召し上がってみて、お手伝いの加屋が毎朝仕込んでおりますのよ。」
そういえば、ガツガツしていやらしく思われたら嫌だなと思ってまだ手をつけていなかった。オレはいただきますと言って食べてみた。みたらしは塩気と甘さのバランスが絶妙で意外とさっぱりした味わいだが、団子の方にほのかに甘みがあるため一緒に食べるとすごく美味しい。しかも団子の一粒一粒がかなり大きめだ、コンビニなどで売っているお団子の2倍くらいある。真弓さんに進められるままストーブの熱でちょっと炙ってから食べると、みたらしと団子の両方がやわらかくなりよりおいしく感じた。
「よかったらお土産に買っていって、加屋も喜びますわ。」
オレは忠司さんとのり子さんにもあげようと思い、10個入りを2つお願いした。帰るときに持ってきてくれるらしい。
あのー、失礼ですけど加屋さんってめっちゃかわいいですよね。とオレが真弓さんに言うと、彼女は笑いながらこう答えた。
「おほほ、あの子モテるのよ。先日いらした男子大学生の集団も、加屋の連絡先を知りたいと言ってきましたの。でもあの子は和菓子屋の御曹司とお付き合いしているからダメですわ。なんでもその方が将来独立して、自分のお店を持つようになったら結婚するんだとか。」
くっそー、ダメか。しかも婚約済みとは。悔しそうなオレをよそに、真弓さんはお土産と精算の準備をしてきますと言って外へ出ていった。チラリと外が見えたが、いつの間にか夕方になっていた。そういえばこの座敷には時計がない、スマホが手元にないこともあって完全に時間を忘れていた。
少しすると加屋さんが紙袋を持って現れた。オレは相談料とお土産料を合わせて払い、領収証とお土産を受け取った。そして一つだけ加屋さんに、ここの敷地はすごく空気が冷たい感じがするのはオレの気の所為でしょうかと尋ねた。
「いいえ。この屋敷はいわゆる"この辺りで最も磁場が強い場所"に建てられているのだそうです。分かりやすく言うと霊媒師の霊力が一番強くなる場所を選んだために、昔からこんな不便な山奥で暮らしているのだと聞きました。きっとその影響があるんだと思います。おかげで夏は冷房がいらないほど涼しいですが、そのかわり冬はストーブがあっても肌寒く感じるほどです。」
そのまま加屋さんに出口の門扉のところまで送ってもらい、門を一歩出たところで加屋さんがキャリーケースのロックを開けてスマホ2台を返してくれた。電源は切られたままだし、特別触られた痕跡もなかった。
タクシーは既に呼んでくれているそうで、もう少しで到着しますからと言われ門の前で待つことにした。加屋さんが失礼しますと一礼して門を閉めた少し後、かけ金のかかる音がした。
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※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。




