その1
年も開けて早1ヶ月が経とうとしている、時の流れが年々早く感じるようになってきた。そして12月より1月の方が寒いと感じるのは、きっと気の所為ではない。今日は曇っているせいで、午前10時なのに気温は6度しかない。
「ほぉ、"絶対に当てる占い師"か。俺は占いは当たるも八卦、当たらぬも八卦を楽しむものだと思っているんだが。百発百中とはすごい自信だな。」
先輩の八重島忠司さんに話すと、彼はパソコンで日課のニュースチェックをしながら答える。目線はパソコンへ向けたまま。
「そもそもそういう話は川島田と雅樹、お前達のほうが好きだろう?」
オレはなんでも屋で働いている、諏訪野雅樹。彼の口から名前の出たもう一人は、川島田のり子というこの事務所で働くもう一人の先輩であり、女性だ。
お客様から依頼を受け、日々それをこなしていく毎日。依頼がない日は駅や住宅ポストにビラ配りしたり、SNSで宣伝活動をしている。
必ず的中する占いなら、株も宝くじも思いのままじゃないですか!オレはなおもパソコンでニュースチェックに夢中な彼にそう言ってみる。
「金運ってそういうものなのか?俺はあくまで金の流れを掴めるかどうかという感じのイメージを持っているんだが…。まぁわざわざ話題に出すということは依頼でも受けたのか?その占い師関連の。」
いや依頼は受けていない、だが気になるのだ。なにせその占い師には、オレにはなぜ彼女ができないのかを占ってほしいからである。いやむしろどこへ行って何をすれば彼女ができるか、を占ってもらう方が早い。本当に必中の占いなら、その占い師の言う通りにすれば彼女ができるというわけだ。フフフ…とほくそ笑むオレの内心を読んだように忠司さんが声をかけてくる。
「別に依頼なしでも調査するなとは言わないが、だったら業務時間外にやってくれよ?プライベート時間に何をやっていてもそれは君の自由だ。だが仕事時間に調査したいのであれば、誰かから正式な依頼をもらってこい。でなきゃ時間の無駄だからな。ホラ、仕事仕事!」
ド正論である。オレはとりあえずへーいと生返事をし、ビラ配り用のデザインを考えながら頭の中で作戦を立てる。
(この話、占い好きなのり子さんならきっとノってくるはず。一度話してみよう。)
彼女は昼過ぎに事務所へ顔を出した。のり子さんは最近、ご近所の著名人が飼っている犬の散歩係を定期で引き受けている。依頼を受けていない日は空いた時間をその散歩に当てているらしく、今日も朝・昼・夕方と3回その家に行くのだそうだ。オレは早速その占い師の話をもちかけてみる。
「そういえば最近SNSでも話題になっているわね、その人。アタシもその占い師が気になったから、動画を保存したのよ。ホラ…。」
そう言いながら彼女はオレに自分のスマホを渡す。そこには必中する占い師の元を訪れた人たちがそれぞれ、ホントに当たるんです!と証言している動画が映し出されていた。こうして実際に占ってもらった人たちがいるとなれば、否が応でも信憑性は上がるというものである。
「でも必中の占いなんて、ちょっと怖いわよね。どうしてかって?だって『あなたは明日、落雷事故に遭います』なんて言われたらどうするのよ。必ず的中するってことは、悪い事まで当たってしまうじゃないの。」
そう言われれば、確かに。占いとは何も良いことばかりを占うものではない。オレだって『あなたには一生彼女ができないでしょう』なんて言われたら、立ち直れないかもしれない。
ちょっと気が引けてしまったものの、それでもオレの好奇心は消えることはなかった。
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※この話は一部フィクションです。