もう遅いからまた今度だ⋯
ミルキィは。悪役令嬢の妹だ。
乙女ゲームの主人公の手助け、もとい魔王の弱点を見つけてくれるお助けキャラとなる。
ストーリーではグレースが体が弱い妹をよく虐めてきて、姉に対して強く言えないと設定されていた。
しかし、私が悪役令嬢になって、メイドとして働き出してからミルキィとの接近なんてなくなったとしても。ミルキィは
『おねえさまが私の悪口を言った。病気で羨ましいって⋯!ミルクは好きで病気になってないのに…!』
『ミルクの足をひっかけて、転ばせようとしたぁ〜!』
『ミルクのベットに雑巾を…!』
と言ってきて、メイド長に平手打ちをされて。鳥小屋に移されたんだっけ。
そうだ。そうだ。
はぁ~…
考えない。考えない…
「………で、どうしたの?もう寝る時間じゃない」
「ごめんなさいおねえさま。あのね、あのね、おねえさまに会いに来た…異国の」
「ああ。シュナプシュ様ね」
「シュナプシュ様というのね!あっ、ですのね!可愛らしいお名前…!シュナプシュ様…」
そう。ミルキィは窓越しに見えた、黒い髪に黒い着物を着こなした凛々しい横顔を見て、一目惚れしてしまう。叶わぬ恋心だと思っていたが。
攻略するとミルキィが皇女として責務を全うし、シュナプシュと結婚したって描写があるんだよね。
口も悪けりゃ意地も悪い。趣味も悪くてドSサイコパスとの結婚は、続きを見なくても不幸になりそうで「ザマァ」感あるが。
「もしかして会いたい?明日また来るって話をしてたようなー…」
「本当!?わぁ〜…」
「………いっしょにいくぅ…?」
「え!?おねえさまの邪魔になっては悪いしぃ〜…」
あーイライラするぅ…
「じゃあ私の代わりに会いに行く?」
「え…それは…私だけじゃあ⋯会っても⋯」うじうじ
「じゃあ会わなくても良いんじゃない?」
「おねえさま!どうしてそんなイジワル言うのっ!ミルクだけじゃシュナプシュ様にお会いできないの知ってるくせにぃ!」
「だあああああああああああああ!!!黙れ黙れ黙れっ!!!うじうじうじうじとぉ!
会いたいから私に会いに来たんだろ!どうしたいのかハッキリと言わなきゃ会わせられないぞ!どうなの!?会いたい!会いたくない!どっち!?」
「ふぇええええ⋯会いたいのぉ〜!いっしょにきてよぉ〜!」
「でも残念だけどお父様の許可なしに会いにいけないから、私じゃなくてお父様に言ってきて」
「えええ!?今のやりとりはぁ!?」
「時間の無駄でした。ほら寝た寝た。」
「うわあああん!おねえさまのばかぁ!家出の事愚痴ってやるぅう!」
「あっ!テメェ!!」
なんか捨て台詞を言って泣きながら家へ戻っていった。ドッと疲れてしまった。
そして気がついた時、私の目に涙が流れていた⋯
「え?なんで涙なんか⋯」
なんか体調不良なのだろうか?
「⋯⋯⋯⋯今日は諦めよう⋯」
鳥小屋に戻ったら鳥たちがみんなして私の顔を伺っていた。一番仲がいい「ハナ」が頭を近づけて顔に擦り付けた。
「キューン⋯キューン⋯」
「うぶっ。ふふっ、大丈夫だよぉ〜ありがとうね。
なんか疲れが出てたかも。
⋯次の日にはここを出ていくよ。寂しくなるけど⋯
ここは私の居場所じゃない。本当だったらハナちゃんと同じ小屋で人間は寝ないんだよ?知ってた?
雪が降ってた日、ハナちゃんたちが私が寒がっていた時に輪になって温めてくれたよね。とても助かったんだ。現実世界でさぁ、家に居られなくて新宿の溜まり場で寝なきゃいけなくなった時でも、こんな暖かくて気持ちいいのは今までなかった。
だからずっと⋯この家で⋯頑張れたんだ⋯」
「キューン⋯」「キュキュー…」
「なんでループしたんだろ?何をすればいいの?次がわからない⋯
わからない⋯⋯⋯」
水色の黄色と赤と細長い白いトサカを持ったハナは、羽を広げて抱きしめようとしていた。動物特有の匂いだが、ふわふわして暖かく。まさしくそこに愛があるように感じた。目元を見ると、長いまつ毛から涙の粒がかかっていた。
それが泣くはずない鳥が、涙を浮かべているように見せる。
「ハナちゃんの目に私の粒がついちゃったね」
優しくハナの目元を拭って、今日は抱かれて眠りについた。
また冬が近づいてきた。
その時に雪になったら鳥たちの温もりは、ないだろう⋯