婚約者との再会
茶色でフリルがついているが、明らかに安物の生地で仕立て上げられたドレスを身に纏い、仕事で纏めていた長い髪の毛を解放してあげた。
「グレース」
「ん?」
シュッと霧がかかり、反射的に顔がしかめる。
甘い香りが鼻を刺激され、ローズの香水だとすぐに理解した。
「グレースは初めてでしょ?これは香水って言うの。貴婦人が好んで体に振りかけて、体臭を良くするのよ」
「へ、ヘェ~」
「おっと!これは食べ物じゃないんだからね!それと少しだけかければいいの!今日は特別だからかけてあげただけなんだからねっ!」
「⋯⋯⋯カモミールの香水じゃ、ないんだね?」
「え?もしかして⋯香水知ってたの?
もー!早くそれを言いなさいよ!グズなんだからっ!」バシッ!
「いってぇ!」
「さあ行くわよ!シュナプシュ様が待っ⋯おっと」
もしかしてもしかしてだけど。
私はループものに入ったのだろうか?でも香水が一度目と違い、ローズだった。
私が乙女ゲームに入った時は赤ん坊からのスタートだったから、頭が混乱していた。ギロチンで死んだばかりだから混乱していた!ループ⋯!
そうだ!ループであるのなら私の結末が結局バッドエンドになってしまう!
ロロナは私に香水をかけてくれたおかげで頭が冴えさせてくれた。今から睡蓮が咲き誇る湖の⋯休憩所?な白い建物に婚約者となる人物が妖精たちをバラして実験している!
こいつが私を処刑させたわけでも、魔王を復活させたわけでもないのだが。
私にとっては避けたい人物⋯。
人の顔をした悪魔が悪役令嬢の婚約者として、待っているんだ!!
「か、勘弁してっ!まだ心の準備がぁああっ!」
「しょうがないでしょ!旦那様からグレースを勧めたのよ!もし結婚が上手くいかなきゃ⋯隣国・と・の、戦争にぃいいい〜〜〜〜なるんだからぁああ!あっ」
「ぎゃああああああっ!!!」
私が逃げ出そうとして、ロロナは力強く止めていた。ドレスを引っ張る形になったのに気がついて、ロロナは思わずその力を弱めてしまったのだろう。
私はそのまま湖にダイブしてしまい、全身浸水。
あれだけ綺麗にした姿も、湖の中では台無しだ。
私はプールの授業を思い出す。目を開けるとゴーグルをつけなきゃ何があるのか見えない、苦しいだけの水の中なのに、この世界では息ができないだけで周りがハッキリと見えていた。
蓮の花に隠れて、赤・黄色・紫などの明るい妖精と言われる魚が泳ぎ。私に驚いた人形が逃げていった。水の中はファンタジーの楽園のよう。
(⋯綺麗だ。この湖の中、こんなに綺麗だったんだ)
見とれて、息するのも忘れそうになった時。
鉄の塊のような黒い物が私にめがけて飛んでくるように襲いかかった!
「ぶはっっ!?」
息をしてしまい、水を飲み込みそうになった途端。それは私を捕まえ陸上へ打ち上げた!
頭部は鉄で作られ、剣のような一角を尖らせ、体は黒い大蛇でありながら大鷲の翼を持ったドラゴン。
「ゲホッゲホッ!」
「⋯⋯はっ、ぶっさ!こいつがケダモノの令嬢?本当にこれが皇女だとしたらこの国は終わりだなっ!」
「シュナプシュ様。そんな事をおっしゃってはいけません。」
そのドラゴンを手駒にしているのがそう⋯上から見下しているシュナプシュ・ロード。
隣国の国王候補だ⋯