デジャブ?
「起きろケダモノ!」
バシャっと寝ていたところに水をぶっかけられた。
鼻に水が入った事で苦しくなり、強制的に頭が冴えた。手が顔に届く!
しかも馬小屋!馬鹿な…!
確か私はあの時父によって処刑されたはずじゃ…
「いつまでボーっとしてんのグレース!ほらっ!立つ!」
グイッと腕を乱暴に引っ張られ、15歳も年上のメイドであるロロナに立たされた。
この光景…何処かで見たことがある気がする。私は乙女ゲーム…「エバーテイル」という魔法と妖精たちがいる世界で山田ルミ子は転生を果たす。
学校の帰りでお決まりのトラックに跳ねられてーの転生だ。最初は漫画やアニメでよくある展開に喜んだし、悪役令嬢になった事にも喜んだ。
だけど⋯
私は水をかぶり、渡された石鹸を使って頑張って体を洗う。今から出会うのは攻略キャラたちのようなキラキラした美しいイケメンの出会いではない。
これから最悪な人物との政略結婚が待っているのだ⋯
「ロロナさぁん。妹じゃどうしてもダメですかね?私じゃ、文句言われますよ⋯」
「何いってんの!ダメに決まってるでしょ!ミルキィ様はお体が弱いですし、長く生きれるかわからない状態なのよ!それに腐っても皇族のグレースじゃなきゃいけなくなったんだから!」
なら跡取りの心配があるなら大切に扱えや、お父様。
私とミルキィは皇族の令嬢だ。
父ヘイドリックと母さん(名前不明)はとても愛し合っていたが、私を産んですぐ亡くなり、再婚してやってきたのは継母のラシェルで、2人の間に生まれたのがミルキィ。
腹違いの妹だからか、ミルキィは明るい金髪にふわふわな髪。そして誰もが好きになりそうなほど愛らしく美しく生まれた。しかし、体は丈夫ではなかったのでいつも肌が真っ白だった。
周りはミルキィに常に気にかけて「蝶よ花よと育てた娘」であった⋯まあ⋯父まで妹を大切にするのは。
母を殺した私に対しての当てつけでしかない。
一度目での事⋯
私はメイドたちと同じように働き出した頃。廊下で掃除していたら父と、父の親友とで喧嘩をしているのをみてしまったのだ。
『ヘイドリック。もうグレースを許してあげませんか?あの騒動がなければ今頃彼女は餓死していたとこだった。何日の水もパンも与えないなんて、娘に対する態度じゃない。』
『⋯⋯⋯私は一度もアレを娘だとも思ってない。
いちいちアレに金を出していると考えるだけでも腹が煮えくりかえりそうなのだ。』
『もしかして皇女様のせいで⋯』
『アレに皇女と言うな!皇女は我が娘ミルキィのものだっ!!それにアレが生まれなければ彼女は死ななかった⋯!これ以上口にすれば貴様とてクビに出来るのだぞ?』
『⋯⋯⋯失礼いたしました。』
『⋯確かに飲まず食わずにしていた私にも非がある。パーティーのごみ処理場でグレースの存在を知られてしまった以上。今度からは最低限の役割を果たせるように教育していくつもりだ。
だが、ミルキィに危害を加えた事があったと聞いては、期待は出来ない』
(ミルキィに危害?ミルキィに近づいた事もないのに?)
『⋯⋯⋯アレが。彼女に似ていたら⋯⋯⋯
せめて⋯⋯⋯
存在ごと消えて、私の知らないところで息を殺して生きていたなら。
許せそうなのに⋯⋯⋯っ』
悲痛な父の声。そして今でも母さんが忘れられず、ミルキィに縋るような彼がとても父親には見えなかった。確かに彼はとても若々しく、20歳のような引き締まりだったが。
そんな父を知ってから、妹を心配する姿が母さんと重ねている気がして怖かった⋯
メイドたちが使う鏡を使わずとも、ゲームのデザイン画でグレースを見ていた時、グレースは確かに綺麗な父親似の顔をしていたと覚えている。
そして教育として、ミルキィを虐めた罰として、メイドと同じ?ぐらいの扱いで生活をしていた。
「グレースまだ?着替え終わったらこのドレスに着替えてね!」
無造作に出されたドレスは茶色のドレス。
こんなドレスがある事にも驚くが、やっぱり何処か知ってる気がする。