家庭教師?
ジルは頭に「はてな」が浮かぶほど理解出来てなさそうだった。首をこてんと傾げる仕草に、思わずかわいいとときめく…
(顔が良いから、余計に可愛く見える…)
「えー…もしかして他がよかったなーとか?」
「あ。全然!うどんなんて出てくるとは思わなかったし、凄いな〜って!」
「っ!!
でしょ〜〜〜!ウチのお兄ちゃん凄腕料理人なんだよー!リクエストがあったから、もっと凄いの作る、ますよー!」
ぐはあああああぁ!?かわいいっ!!
水を帯びた小動物のように、満面の笑みを浮かべて、ドヤっている。キラキラエフェクトもつけて、まぶしいー!
乙女ゲームをするくらいなのだから、私だって偏差値高い美男子には弱い…!
しかも…この世界で転生してから愛するキャラクターにひどい扱いをされてしまい、その思いが枯れたと思った。
でもどうやら、自分に被害を与えた人間意外ならそんな感情が持てるようだ。
「あっ、やけどしない様に小鉢も持って来ましたよー。よそいますか?」
「大丈夫。アツアツで食べたいの。」
「はいー」
この国では、風邪を引いたら牛乳を煮詰めたパン粥しかない。パン粥がまずいとは言わないが。
風邪引いた時は必ずお粥やうどん、下手したらゼリーを食べて寝ていたい…と思っていたところだった。
うどんをすすり、油揚げを囓ると。あのチェーン店で食べたうどんを思い出し、懐かしくなった。
気持ちが「ホッ」として「美味しい…」と呟いた。
ジルは嬉しそうに安心した顔で見守っていた。目を見れないし、何を思っているのか分かりにくいが、悪意でも、怪訝でもなかった。
そこには愛情だけがあると経験上わかる。
焼きおにぎりを頬張る時は涙目になるのをグッと抑えれた…と思う。
だって泣き出したら“拒絶”だと誤解されて仕舞うかもと知れない、と思ってた。でも今は風邪引いていたのも相まって、涙腺が弱い。
スルスルと食べていく私を見すぎたと我に返ったジルが、ハッとしてアワアワとして「見つめすぎましたー」と照れだした。思わず私も笑みが溢れて2人で照れた。そしてすぐにこの人は信用出来そうだと悟った。
「すみません。何でもおいしそうに食べるものでしたからー、ヴァン帝国の料理って素朴だし、奥深いので美味しいですよねー。グレースお嬢様はヴァン帝国の料理を食べたことがありますか?」
「あっ!ええっと!シュナプシュ様のを食べたのが初めてで!ほとんど本からの!知識なんです!」
「本かぁー、あー!もしかして世界の料理って本ですよねー!ジブンもあの本好きなんですよー!作り方も詳しく書かれてて嘘もない!ジブンも大好きですー!」♡♡♡
「ん!?」
ジルが喜んだ時に何やらキラキラとしたエフェクトが流れたのが、しっかりと目でわかった。
何今の?
いや!見覚えがある………!
乙女ゲームである。「攻略キャラが好感度上がるたびに光る」やつだッッッ!
「おめでとうございます!初のチュートリアルまる1!を終えました!」
バーン!と勢い良く扉を開け、高らかに入ってきたのは一度も見たことない、やたら顔の良い美青年だ!
攻略キャラにも負けないくらいキラキラしたイケメンで、例えて言えば妖麗!
金髪・金の瞳の片目隠しのサイドテール男性が、茶色いスーツに胸元にペンを差し、雰囲気が教師のようでその姿だけでもときめく!
ジルはまた首を傾げて頭上に“はてな”を飛ばしてそうな可愛らしい仕草を見せた。
「ちゅーとりあるー…?」
「まあまあ、コッチの話です!
初めましてグレースお嬢様、私はムロン・ハニエルズです!今日からグレースお嬢様専属の家庭教師として配属しました!よろしくお願いいたします♪」
「え!?あっ!」
もしかしてジルがきつねうどんを出す時に言ってた、家庭教師って彼のことかも!そう思っていたら「ええー!?初対面だったんですかー!?」とジルは手を口元に当てて驚いた。
口ぶりからして知り合いそうだと思われているな〜と思ってたようだけど、本当に初対面だ。
なんなら顔が好み過ぎて忘れないだろうくらい、見惚れてしまう程のイケメンキャラ。こんなキャラが乙女ゲームの世界でうもっていたなんて考えられないくらい!最高のキャラデザだ!
ぜっったい!人気キャラクターランキングが覆される!勿論ジルも…まあシュナプシュも入るとしたら、何人かが土俵を下りるだろうよ。
「まあまあジルさん、例え初対面でも。教え子の事を把握するのも、家庭教師のお仕事です。
お嬢様が何に興味を持つのか、何が苦手とし、何を得意としていくのか!それを理解して導いていけるのかが腕の見せ所です!
ジルさんは入りたてですので、お嬢様を素晴らしいレディーにする為、貴方も磨かせてあげますからね!
わかりましたか?」
「おおー!ジブンも!?光栄ですー!ジブンもお嬢様のお力になりたいと思っていたので、たくさん、学んで!お嬢様を支えさせて頂きますー!」
「ウンウン、いい返事です!勿論その為にもお嬢様の体調が戻り次第です!お嬢様ーーー」
「は。はい!」
「髪飾りは、常に身につけて下さいね♪お約束、ですよ☆」
「は…………」ゾクッ!
「では、それだけです。すみません!突如押しかける感じで入りまして。お大事にして下さいませ!」
「あー。ありがとうございますー!」
嵐のように消えていった家庭教師、ムロンは。
髪飾りについて話した時…なんだか…なんと言えばいいのか…猛獣のように鋭く笑った。ように見えた…
話の流れで流してしまったけど、さっきチュートリアルって言った?
ゲームの世界の住人から、そんな言葉が出てきて。思考回路が動かなかった…
なにか得体のしれない存在が私の前で現れて、意味深な事を口にする。
気にならないわけがなかった。
全身が一気に寒気だし、鳥肌が止まらない。
一度目の人生と大きく違ってきたからか、先が読めない出来事に、私は口を摘むんで。ジルから貰った薬を飲む。
苦味を感じられないくらい、私は感覚が麻痺している。