上の立場
「ど、どうゆうこと!?これは一体!」
布はビリビリに破け、物が地面に散乱している。
全体を見回して私はあるものがない事に気がつく!
「宝石箱がない!?」
背筋がゾッとひき、手に冷や汗が出る!
こんな事、1回目には起きなかった事だ。もし強盗かなにかあれば狙われるのはミルキィか母の寝室しかない。そうじゃなくても別の場所から、泥棒の話がでてくるはずだ。
(もしかして、私に嫌がらせを!?いや、断言するには早い!他のメイドたちに聞きに回るしかないっ!)
私はすぐに出会いがしらに聞けば、一緒に犯人を探してくれるだろう。
長い廊下を小走りで探し、2人で会話しながら掃除道具を持つメイドたちを見つけた!
「あの!助けて!私の寝室が荒らされて…!」
が、まさか思わぬ対応が返された。
メイド2人が顔を見合うこともなく、わかりきったように瞬時に後ろを向き、その場から離れる。
見るからに“無視”だ。
「ねえ!聞こえてるんでしょ!一緒に犯人探しして!」
私は他のメイドも見つけ「一緒に来て!」と引き留めても、誰一人として無視を決め込み、離れるばかりであった。
心がズキズキするが、それと同時に「まだ断言できない!」とメイドたちを庇い、信じた気持ちを裏切られた怒りが湧き上がる。
「くっっそがぁあ…!舐め腐りやがってぇ!」
メイドたちの態度は相変わらず悪いのは知っていた。ロロナが目立って、私に悪態ついていたので、すっかり忘れていたのかもしれない!
絶対父に言いつけてやるっ!
1回目では聞いてくれる人間がいなかった為に良いようにされてきたが、今は多分最低、父からの援護が望めるだろう!
ロロナの時のように犯人をクビにしてやろうと考え、父がいる書類を扱う場所へと真っ直ぐに進んだ。
(きっとそこにいるはず…!)
角を曲がり、父がいる場所の扉を開けた。
それこそオーバーに!盗まれた!これは…とにかく問題だ!と言う!
………しかし。室内には誰もいなかった。
書類は片づけられており、綺麗に整頓されて長い事いない気がしてしまう。
「お父様はドコに?」
「皇帝陛下はウインディの湖へと出かけられたわ」
後ろから年期の入った声にサッと身を翻した!その声の主はこの家を管理しているメイド長。ローンチさんだった!ローンチさんはとても剣幕そうな顔をして、いつも私を睨んでいる。
そのメイド長を盾に3・4人くらい隠れているメイドもいた。
「今度は何を陛下に言うつもり、ケダモノ!」
「アンタのせいでロロナ先輩が辞めさせられたのよ!どうしてくれるの!?」
「なっ!ロロナは隣国の王子を蔑視したんです。あのまま流すことは―――」
「魔人の味方するって言うの!?」
「ロロナ先輩はアンタの事を思って止めていたって聞いた!なのにアンタは隣国の心配だなんて!ロロナ先輩が可哀想っ!」
メイド達は愚痴愚痴と「酷い」「最低」とざわついている。ロロナを思う人達がかなり多くて驚いた。
正直、ロロナが誰かと話しているところをみたことないし、それは私に色々指示していたから。…から、ともとれる…けど。
ロロナを考えたら考えたで、彼女に対して最悪な態度をしてきた事ばかり思い出す…
彼女らには悪いけど、ロロナの行動に私を思っての行動だと思った事がひとつも感じられなかった。
本人が周りに話した事よりも、私にしてきたリアルな態度が本当かどうかが真実だと思う。
彼女の美談で、またねじ曲げようとしているのかと、寒気がする。
「ハッキリと言いますけど、今度また告げ口を言うならコチラも考えがあります!
自分は皇女だと大きな顔をしないことねっ!」
「それはコチラも同じです。
私は今までケダモノとして扱われてきたけど、今では隣国と和平交渉をする為に、体を張って動いているんですよ。
私の機嫌ひとつで、メイド長たちをクビに出来ます。
皇女をやらなくてもいいドブ掃除させた不敬罪を、将来、受けたくないでしょ?」
「なんですって!?」
そうだ。私は別に自ら進んでドブ掃除なんてしてないし。父からするように言われてない…
節約を心掛けた父でも、ドブ掃除だけはしっかりと専門業者を欠かさず雇っていると1回目に…処刑される前にチラリと聞いたのだ。その時は私は学生として入学し、家から帰ってきてない時の話だ。
欠かさずだ。
欠かさず。
私がいつもドブ掃除をしていたのに、父はずっと私がいる時はドブ掃除をさせられていたなどと、知りもしなかったんだ。
そりゃそうだ。
ドブネズミは現実のような生き物ではない、戦いに慣れた者じゃないと、命に関わる大変な仕事だ。私を嫌っていたとしても、冒険じゃない人間が、顔をしれてしまった令嬢が!ドブ掃除をさせられていたと知られれば、ゴミを漁っていたよりも大問題になるだろう。
ドブ掃除する通路は何も貴族だけのものではないからだ。
ロロナとメイド長は、その専門業者分のお金をどうしたかは今も知らないけど。私にドブ掃除させて、お金を浮かせていたんだ。ホント、令嬢だと言うのに泣けてくる。
逆らったら、後ろ盾ない私にどうする事も出来ないからと、黙って従うしかないと思っていたのだからね。
メイド長達は脅しを脅し返されて、ぐうの音もでなかったようで。私は改めて彼女らに言う。
「ちょうど良い。みんなで私の寝室を荒らし、宝石箱を盗んだ犯人を見つけてきてくれませんか?
何人でも良いですよ?犯人…」
「…………ぅぐう。」
(これは確証ないけど…シュナプシュが私を虐めてくるようになったのは、本来私の物になるはずだった着物がミルキィの物になったり。
あの時みたいに、持ってきた食べ物を侮辱して何かしていたかも知れない。)
(服を新調するからとロロナを連れてきたから、運命が変わって、食べ物に被害が及ぶ前だったかも知れない…)
(そう考えたら、簡単にロロナを許せるとは思えないし、彼女らも洗い出さないと、後々危険かも知れない…少しでも。私に降りかかる身に覚えのない汚点で死ぬのはゴメンだ。)
(私は神や仏じゃないから、徹底的に骨の髄まで追い込んでも良いんだぞ?私を殺してくるクソ共)