賢者
最初に理っておきます。
此の物語は全くもって異世界ものなどではありません。確かにタイトルは『賢者』で、勇者とか冒険者とか魔王とかのお馴染みのワードがジャガイモの根かさつまいもの地下茎の如く繋がっているとお思いで興味を持って頂けたのかもしれませんが。
ですが、折角ですから、お付き合い頂けると有り難いです。
此の物語は私が是迄に書いた中でぶっちぎりで臭い話です。
何か勢いで書いてみたんですが……。
賢者といっても、此処で語りたいのは所謂「賢者」の事に関してでは無い。
其れは、女性でも大抵の人は知っているだろうし、男性なら全ての者が、何なら経験もあるだろう。
要はそういうことです。
一度出してしまうと男というのは醒めてまう。
好きでもない相手と勢いでいたしまった後、出した後の醒め具合ときたら、「うわー。やっちまった」「どうしてしてこんなことしちまったんだろう」と自己嫌悪に陥る――人によっては程度の差こそあろうが――とともに、ゴムを付けていなかったりしたら、「妊娠したりしないよな」とか、「性病うつされたりしないよな」とか、実に自分勝手な心配をしていたりする。相手が一見さんともなれば尚更である。
好きな人とならば、其れから暫く――元気な人ならちょっと――の間、イチャイチャとでもするのだろう。それはそれで嬉しくも楽しくあり、幕間としては十分過ぎる程に幸せな時間である。
今、私には恋人がいる。私は此の世の誰よりも彼女を愛しているし、是迄の誰よりも愛していると言える。
当然、彼女とはそういう関係である。其れはより幸せな一時である。其れ以外の何物でもない。
……なかったのだ。
幕間――賢者の時間。果てて醒めてしまうのは本能、というか、そうあるべきものであろう。なにしろそういう風に身体が出来ている。それは必然であり、そうならざるを得無い。たとえ一時的にではあっても、それはそうなのだ。醒めるのは。
ところが、である。
私は気付いてしまった。少しずつにではあるが。
私は「より醒めてしまっている」と。「冷冷と醒めて来てしまっている」と。徐々にではあるが、其れは私の中で確実に進行している。病が全身を蝕んで征くが如く。
断っておくが、それは全くもって彼女への愛情自体が醒めてしまっている、無くなってきてしまってあるのではない。寧ろ、日々、彼女のことは愛おしくなるばかりである。
それなのに……。
募る想いと、冷たく冴え征く一方の、内なる「賢者」。
今では突如として彼女への愛情が失せてしまう、遂には全く失われてしまう気がして抱きしめる事すら苦痛となってしまっている。果てた後に待っているのは、今や虚無である。彼女への愛情は其の影をより強く際立たせる。こんなものは愛を、愛情を根刮ぎ剥ぎ取られる様な恐怖でしか無い。
こんなにも彼女を愛しているというのに……。
書いてみてこんなに恥ずかしかったことはない……。
何なら以前書いた明らかなエロよりも。
あれはコメディだったけれど。
何を拵えてんだか……。
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