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勝手にしやがれだわっ!

 カクヨムの夏祭り参加で書いた長編版。御笑覧あれ♪


「……もう一度、おっしゃっていただけますか?」


「……愛妾に子供が出来た」


 ……なんということでしょう。


 唖然とする応接室。豪奢なビロード張りのソファーに腰掛ける二人は、この国、サザライト王国の王太子と妃である。


 といっても肉体関係のない清い間柄。


 聖女召喚などというベタな展開で拉致られた少女を妃に迎えただけの王太子、トリスター.トリスナー.フォン.サザライト。金髪碧眼の王子然とした如何にも王族そうな人物である。当年とって満二十一歳。

 複雑な顔で俯く彼の前には、おっとりとした黒髪黒目の妃がいた。どちらかというと綺麗系でなく、可愛い系で愛嬌がある顔立ちの彼女は名前をマドカといい、当年とって満十九歳。

 突然の異世界召喚で日本から拉致られ、これまた、いきなり聖女として崇め奉られ、あれよあれよと言う間に王太子の妃にされた気の毒な元女子高生である。


 なんでも古い伝承で、異世界より招いた聖女は国を幸福にするとか何とかの言い伝えがサザライト王国には残されていて、魔族との戦後で荒んだ国を癒やしてもらおうと、伝説でしかない聖女召喚に挑んだというから手に負えない。

 正直なところ半信半疑。眉唾だと思う者も多かったが、やるだけならタダだと試してしまったらしい。


 どんなことにも不具合の起きるパーセンテージは奇跡のパーセンテージ同様、等しく存在しているというのに。天秤が釣り合ったとして、そのパーセンテージはいったい如何ほどだったのか。

 例えば、釣り合った天秤の奇跡と不具合がそれぞれ一パーセントも可能性がなかったとして、残る『何も起らない』という九十八パーセントの可能性をぶち抜いたのだ。ある意味、強運と言わざるをえない国である。


 だがそんなことは後の祭り。本当に召喚されてしまった少女を見て、顔面蒼白な少数の人々と喜色満面な大勢の人々。その間で勃発する、あらゆる問題。




『申し訳ありませんっ!!』


 残念無念な結末によって異世界召喚されてしまった現役女子高生のマドカ、十六歳。実年齢よりも幼く見えるマドカを戦々恐々な面持ちで眺め、開幕、テーブルに頭を打ち付ける勢いで謝罪した王太子トリスター。これが彼と彼女の初対面だった。


『まさか、本当に召喚出来てしまうとは……… 戦で暗く落ち込んだ我が国に少しでも希望を持たせようと…… お祭り気分の延長のような気持ちで……』


 ……そんな理由で?


 冷徹を遥かに振り切る辛辣な眼差しの少女様。そりゃあそうだろう。彼女にしたら青天の霹靂。理由を聞いても、ふざけろよ? の一言に尽きるに違いない。

 極寒の雰囲気を隠しもせずに脚を組んで座るマドカ。怒っているのだろうと周りは思った。それだけの理由があるとも。

 しどろもどろに説明する王太子も、さすがに弁明の余地がなく、ひたすら平謝り。


 一人の人間の人生を台無しにしてしまったと懊悩する彼はマドカの後見人になり、自分が一生面倒を見ますと断言してそのまま彼女を娶った。

 周りの圧力も存在したのだろう。せっかく招いた聖女だ。国に貢献して欲しい。そんな思惑もあったに違いない。

 かくして大々的に結婚式をあげて妃となったマドカだが、一年たち、二年たち、今年で三年となるにもかかわらず、彼女は何の力も発現しなかった。

 何かしらの恩恵を期待していた王宮の人々は落胆し、マドカに対して少しずつ疎ましげな雰囲気を醸し出す。


 勝手だよなぁとマドカも思うが、それも人情。


 一般庶民で特別な知識もないし、特に優れた美貌でも妖艶な身体なわけでもない。後ろ盾すらない、ないない尽くしの世間一般に埋没しそうな自分が、王太子の傍らにいるのが変なのだ。

 

 だからこうして王太子が別の人間を懸想したとしても、なんとも思わない。元々聖女との清い婚姻だ。彼が別の女性に慰めを求めたとしても致し方のないこと。

 これまでだって、夕げの渡りとその日の報告という談笑くらいしかしていない間柄の二人である。大した関係もないし、離縁に不具合も起きない。


 顔が見えぬほど項垂れた王太子に軽く微笑み、マドカは天使のラッパを聞いた気分だ。


 むしろ気が楽になった。これにて御役御免、あっさり退場できると。


「勝手にしやがれですわ。承知いたしました。お幸せに」


 ばっと王太子が顔を上げるが、その視界には扉から出ていこうとするマドカが映るだけ。


「ま…っ!」


 驚き立ち上がる王太子を余所に、無情にも扉が閉められる。マドカがニヤける顔を必死に隠そうとしていたなど、今の王子に知るよしもない。


 御気に召しましたら、いいねやお星様をもらえると喜ぶワニがいます♪


 ♪ヽ(´▽`)/

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― 新着の感想 ―
[一言] 新シリーズ読破に向けて、新たな第一歩を踏み出しました。 楽しませて頂きます。
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