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青い空、黒髪の男

大砂海アズはフーリア大陸の南西部に位置する帯状砂漠地帯である。南のキンバルと西のグロス領群に挟まれたこの雄大な砂の海は、かつて大陸を統一した王の住まう宮城があったという伝説がある。最も古き龍が生まれるずっと昔のこと、空が漆黒に染まるほどの莫大な悪魔の軍勢をしたがえた王がいた。大陸を手中に収め、刃向かうものは勇者であろうと魔王であろうとその圧倒的な力でねじ伏せた。王はこの世の全てを知り、奪い、殺し、屈服させたいと願い、悪魔たちもまたそんな王の飽くなき欲望の果てを見てみたいと考えていた。最後まで抵抗を続けた北の大国を滅ぼし、王の君臨は永遠のものになるだろうと、そう人々は考えたに違いない。ある夜、王はいつものように城の一番高い尖塔から眼下の風景を眺めていた。どんなに厳しい戦いの後であっても、王はこの習慣を欠かしたことはなかった。吹き荒れる風の中でこうしていると、未知への欲求がいくらでも湧き出てくるのだった。しかし、その日はいつまでたっても、王の心には何の欲望も浮かんでは来なかった。「全てを手に入れてしまった」それに気づくと、全てが色あせ価値がなくなっていくような気さえした。欲しい物も、成し遂げたい偉業も、もう何も残っていないと気付いたのだ。


夜明け、旅人が宮城を訪れたがそこには何もなかった。はてしなく続く砂の海だけが広がっていた。





(アズ王の伝説か懐かしいな、母さんが昔よく寝る前に聞かせてくれたものだ)

在りし日の懐かしい時間が一瞬、脳裏をよぎる。だが、数秒後には彼女の瞳は現実を見ていた。

場所は大砂海アズ、グロス領群の街まで約30キロほどの位置に彼女はいた。キンバルから大砂海を横断して、グロス領群まで旅をしていた。隠れる場所の少ないこの地で、常に警戒の糸を張り巡らせながら移動していた。

グロス領群国境まであと少し、という所で奇妙な人物を発見してしまった。


(中肉中背、身長は私とほとんど変わらない。黒髪で耳に特徴なし、ノーブルの男だろうか)

これと言ってなんの特徴もない、フーリア大陸の数パーセントを占めるであろう一般的なノーブルだ。服装が少し珍しいが、まったく見ないほどではない。北方の服飾商人が、中流階級向けに新しく売り出したと噂に聞いている。

ここが、上級都市の市場であったならなんの違和感もなかっただろう。だが灼熱の砂の海では、彼の姿はあまりにも無防備だった。

(おそらくサラ=ジャンド、砂海の亡霊に誘拐されたのだろう。やつらは、あらゆる種族を拉致してキンバルで人身売買を行っていると聞いたことがある)

見たところ、ほとんど装備らしいものは持っていないようだ。もうずいぶんああして歩いてきたのだろう、顔は土気色で生気がなく足元もおぼつかない様子だ。すぐにでも日陰に避難させて水分を取らせるべきだろう、幸いなことに水も食料もまだ余裕がある。



男は巨岩の陰に身を押し込んでじっと耐え続けていた、ゆらゆらと力なく頭を揺らしていたが数分前にうつむいてからピクリとも動かなくなった。

(助けるべきだろう、どう考えても彼は遭難者だ。無力なただの遭難者だ、分かったらさっさと助ろ……!!)

彼女と男との距離は1mを切るほど至近距離にいた。助けなくてはいけない、十数分前から答えは既に出ていたはずだが体が動かなかった。

しきりに脳裏を過るのは追手の影、すでに2度襲撃を受けていた。もう次はないかもしれない、罠だとしたら……。

「……ぐぁッッッ……」

「…………!!!」

彼はまだあきらめていない、絶望に身をゆだねるのではなく苦しみながらも希望を見つけようとしている。


(ああ、そうか。私も覚悟を決めよう、どうなってもこの決断を後悔はしない)



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