砂上の蟲
「ぐぁッッッ……!!!」
猛烈な頭痛と吐き気を感じる、倦怠感が全身を支配していて体を起こす事にさえ体力を浪費させられる。
「はぁ……はぁ……っよっと」
巨石を背に座りなおす。体調は依然最悪、むしろ少し悪化しているだろう。だがほんの少し気絶したおかげで思考は遥かにクリアになり、冷静に回りを見渡せる。
「(さっきのは走馬灯というやつだろうか。とにかく今は状況確認と、水、そうオアシスが必要だ)」
周囲には見渡す限り岩と砂しかない。いわゆる砂漠というやつだろう、息を吐くたびに体の水分が吸い取られているんじゃないかと錯覚させられるほどにカラカラと乾燥している。オアシスの存在などもってのほかだ。こんな時、どうするべきだろうか。
海外のサバイバル番組などでは、ありきたりな日常のアイテムから生存に必要なツールを作成して窮地を脱しているのをよく見たがはたして出来るだろうか。現在の装備、黒のスラックス、白のTシャツ、ダークグリーンのブルゾン、スニーカー、下宿の鍵、本革二つ折り財布(所持金:二千百三十円)、飲みほしたミネラルウォーターのボトル。水が湧き出るかもしれないと鍵を使って地面を掘ろうともしたが、砂の下は硬い岩の層が広がっているらしく、僅かな希望も早々に断たれた。打つ手がないなら、このまま岩の陰に身を潜めて夜まで体力を温存して砂漠の脱出を目指すべきだろう。
「(無理だな、あまりにも体力を消耗しすぎた。あてもなく歩きすぎたんだ、暑さで冷静な判断が出来なかったのが最悪だった)」
自身が置かれている状況はよくわかった。絶望的、そんな言葉がぴったりだ。
結局、焼き尽くすような熱砂に囲まれて、ミミズのように影に身を潜める以外やれることはなかった。耐え続ければ事態は好転するかもしれない、通り雨が降って助かるかもしれないし、純白のローブに身を包んだラクダの王子様が助けに来てくれるかもしれない。奇跡に縋ることでしか希望を見いだせなくなっていた。
何時間たったかわからない、汗すらかかなくなった。あとどのくらいで日没だろうか、さっきまで影はくるぶしくらいだったのが、つま先まで伸びている。あとどのくらいなのかわからない。思考がどんどん濁っていくのが分かる。血がどろどろになって、頭がまわらない。
視界がぼやけていく、さっきのように都合よく覚醒することはできないだろう。どうしてこうなったのか、なぜこんな目に遭わなければならないのか、こんな訳の分からないまま死んでいくのか。
意識を手放す刹那、自身の無力さと世界を恨んだ。