Ⅱー3
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XRのバランス調整の模擬試験をやる事に成って、私は悲鳴を何度も叫ぶ羽目に成ってしまいました。
「高難度ステージとして武器を使ったら、辺りの粉塵が暴発するエリアを敵からの攻撃を避けつつ突破しろとか、真面目に何なのですかねぇ」
放送からティソーナ・ローダーさんに笑いを堪えた様な声で窘められます。
『要は極力武器を使わず敵地を突破しろ。武器を使ったら適宜ペナルティが発生する。と言うだけに成るワケ。ペナルティが爆発でなく、近くの敵に気付かれる、なら、スニーキングが絡んだゲームで既に有りそうなネタだと思うワケ』
「ティソーナさん、それだと気付いた敵も一掃したら自分はノーダメで行けるけど、武器を使う=ライフを犠牲にするだから、色々とアレでは?」
『それに付いてはスニーキングに失敗するのが悪いワケ』
「……失敗したプレーヤーを刈り取る想定の強さ設定で徘徊する敵モブを造るのだったらスニーキングをもっとし易くして下さいよ」
『エネミーのAIが馬鹿過ぎてもリアリティが損なわれてアレだと私は愚考するワケ』
「……ってか、リアリティと言うならプレーヤー側は武器を使うと爆発するのに何で敵モブ側は爆発しないのですか」
『粉塵は敵モブ含めて能力で制御されている設定だから、敵モブの行動では暴発しない様に制御されて居るだけのワケ。だからステージ内部の何かしらのギミックを使い不意を突けば敵モブを暴発に巻き込む事で一方的に倒す事は可能な設定なワケ』
「……それをもっと詳しく説明して、と、言いたい所ですがそれを模索するのもゲームの内、ですよね。さて、再開します」
『じゃあ行ってみよーってワケ』
様々なパターンをひたすら繰り返してギミックの調整を繰り返して行きます。
爆発する粉塵とか元ネタ何処なのですかね……と思ったらどうやら粉塵が爆発する能力を持つ訳では無く、設定上、爆煙龍の鱗粉に依る粉塵爆発的な物を能力で起こした物をゲームに落とし込む上で劣化させた物な様で。
まあ、そうでも無いと粉塵に満ちたエリアを歩き回れる余地も無く爆殺されていますよね。
……しかし、最適解が解って居る上でのプレイと初見プレイでの行動はかなり差異が出ると思うのですが、……と言ったらスニーキング用の障害物の内の一部がランダム配置にしようとされました。……鬼畜仕様にしたい奴なのですかね。ティソーナさぁん……。冗談でしょう?私は一つのステージを千回以上繰り返してバランス調整をひたすら行いました。……まじかー。
それで休憩に缶コーヒーを飲んで居たら、ティソーナ・ローダーさんが直で来ました。彼女の見た目は水色の髪の水色の瞳で整った顔立ちの女性で、胸元が大胆に空いたニットワンピース……つまり、いわゆる童貞を殺す服に金色でアクセントを加えた衣装と白色のブーツを履いている感じです。ちなみに既婚者で、エアデー・ローダーさんと言う人の嫁なそうです。
「まだ終わりじゃ無いけど、とりあえずお疲れ様」
「……追加でもっと有る流れですか?」
「ランダム配置の障害物の配置にもある程度規則性を持たせないと無理ゲーな配置の回とかも出るからそう言う配置を除外しないと、と言うってワケ。あくまでもゲームだから、それにランダム配置の総当たりもまだしきれて無いからまだ頑張って。ってワケ」
「具体的にどれだけやれば良いのですか?」
「これに付いてはエネミーのAIが意識を逸らしている時間で障害物の影から障害物の影に移れないと倒す前提にしないと成らなく成るから、まだ今やらなくても良いってワケ」
「そうは言いますがね」
「体力有る状態前提のタイムを、アトラクションをやって体力がある程度削られている人に当て嵌めるのは酷だから、それに付いては幾つかのステージを造ってから通しでやる際に調整するワケ」
「解りました」
「休憩は終わりにしましょう?ってワケ」
「……はーい。再開します」
とは言え、明らかにエネミーを倒す前提にしないと無理な配置の物は除外する以上、最初の想定に比べたら極端に多すぎる数を熟す必要は有りませんでした。
実情としては話し合った結果、ランダム配置の物は使わなくともクリア出来る感じに成った為、ランダム配置の障害物は攻略ルートを邪魔する物を除き、基本的に只のボーナス要素に成った為です。まあ、安全地帯が増えると言えば増えるにしても、RTA狙いの人には強制的な回り道検案なので……。ライト層には良い物だとは思いはするのですがね。
「じゃあ、ランダム配置の障害物のサイズを小さくしようか。それなら迂回時間で文句を言われにくく出来るってワケ」
「ゲームでよく有る敵の位置や向いている方向とか解る奴が無いと今度はライト層がやりにくく成るのでは?」
「じゃあアトラクション開始前に傾向を変更出来るって奴で良くない?」
「それで行きましょう。それなら難易度選択の範疇でやれると思うので」
「じゃあ次は大量の雑魚敵が居る場所にアイテムが落ちている(ボス戦サポートアイテムなので取りに行かないと次のボス戦がキツイ)的な物を考えて居るってワケ」
「良いですね。只、サポートアイテム無しで倒すボスよりはある程度雑魚敵の集団が弱くないとプレーヤー側としてはそのギミックは無視安定なので、そのステージの難易度は一番高い難易度でもボス戦よりは抑え目でお願いします」
「やり込み勢のやり込み要素として難しくするのも有りだと思うワケ」
「……ならそれは何方でも良い奴ですね。それはともかく、ティソーナさん。何でそんな服装着ているのです? 私は同性だからともかくとして、男性スタッフも一応居るのですが」
「この後夫とデートだから先に着ているってワケ」
「……直前に着替えれば良いじゃ無いですか」
「あら、ネイトさんはこう言う服はお嫌い?」
「……そうではなく、男性スタッフを性的に煽るのは流石に控えた方が……」
「それで恥も外聞も捨ててどうこう出来る奴ならシェリーさんの方に移住したから、此処に居る人は自制心くらい皆有るワケ」
「ああ、人工惑星の付喪神と融合したシェリーさんがエロ売りをやったそうですね。……それに価値を感じるなら……いや、なんでも無いです」
「じゃあそれはともかく、次の調整行ってみようか」
「……いやまあ、此処に出向させられた名目が能力鍛錬の為に鍛錬に使える仕事を熟せ、なので、大量に仕事を宛がわれる事自体に否は無いのですが……」
「なら何が不満なワケ?」
「不満と言うか、アトラクションの調整としては初見プレイの人達の感覚とやり込み勢の感覚は結構違うのは忘れないで下さいよ?」
「それに付いてはいわゆる先行体験会的な機会を設けてアンケートを義務付けるつもりだから安心してってワケ」
「ふむ……守秘義務を負わせた状態で何回か初心者にやらせる感じですか……」
「まあ、そんなワケだから、構わずやっちゃってね? と言うワケ」
そんなこんなで出向初日が過ぎて行きました。終業時間にティソーナさんに話し掛けてみると。
「お疲れ様ってワケ。鍛錬の為にとは言え、かなり仕事を割り振ったけど、大丈夫だった?緩い様なら増やすワケだけど」
「あ、いや現状の量で大丈夫です」
「そっか。これから歓迎会と行きたい所なのだけど、……と、携帯に連絡が来たワケ。ちょっと待ってワケ」
ティソーナさんが少し離れた場所で通話をして、戻って来ると、少し呆れた様な顔をして言います。
「私の夫がネイトさんに会いたいって言っているワケ」
「……何でまた?」
「私の夫は経営陣の一人だから、ネイトさんへのちょっとした聴取がしたいのだと思うワケ」
「……わ、解りました。しかし、経営陣とご対面、ですか」
「私の夫は経営陣の中ではさほど位高くないワケだけどね」
「ですが、経営陣なのでしょう?」
「クラフトライト社は一族経営企業だから若造は立ち位置が弱いってだけと言うワケ」
「……ん?なら、ティソーナさんも経営陣と言う事ですか?」
「一応ね。只、大した権限は持ってないワケだけど」
場所を変えて会う事になり、居酒屋に個室の予約を入れ、居酒屋でエアデー様を待つ事に成ったのでティソーナさんと雑談して待って居たらエアデー様が来ました。見た目は東洋人風の浅黒肌なイケメンですね。
「君が海原さん、か」
「はい、そうです。エアデー様、わざわざ機会を設けていただきありがとうございます」
「そう言う堅苦しいのは良いから……しかし、海原さん、君、ルクトから聞いた話と力が違うな? 何故だ?」
「ネイトさんから助言を頂いた結果、使い道が解りまして」
「なら今回君がクラフトライト社に出向して鍛錬する意味有る?」
「……貰い物の力が強いだけで私自身は三下なので、鍛錬はしたいですね」
「ああ、天使関連の力は完全に貰い物なのは聞いているから解るが、天使関連の力を得られた理由も貰い物って感じか」
「はい、そうなりますね。ですから地力を付けたいので今回の出向はありがたい話です」
「ルクト以外から力は貰ったとか有る?」
「いえ、そう言う物は無いですね」
「うーん、なら、そうだな。他の一部の奴から力を貰わない制約を受け入れるなら、俺から君に能力を自力開花させてやろう」
「! ……条件の人達は誰ですか?」
「水霧、水霧の嫁達、十津、スプリンガー辺り、かな」
「……派閥でも有るのですか?」
「派閥とかじゃ無く、水霧と度々個人的に俺は対抗していてね。それ関連で。だから力を渡した結果、今上げた奴等と敵対しろと言う意味では無い」
「……それで得られる力は何ですか?」
「マーヤー、幻力とも言う。ブラフマーなどが用いる神の力・神秘的な力……を、元ネタにした力。既存創作から例えるなら、実体を持つ幻術、だね」
「……それは四つ以上の力を得ない対価を払うに足る物ですか?」
「小難しい能力の再現を望まなければ、ある程度のレベルまでの創作存在を見た目上は使役出来るぞ」
「は?」
「ん? 解らんのか?」
「いや、実際に本人を使役した訳では無いですよね?」
「他人からすれば視野情報的には十分使役したと言えるが?」
「もしそうだとしても、既存創作で扱われていると言う事はそれなりにメタも既に造られて居るのでは?」
「幻術と一言で言っても、大枠で言うにしても敵個体に直接掛けて騙すタイプと、空間自体に掛けて間接的に騙すタイプ、設備やアイテム等が騙す対象のタイプ、虚実混ぜるタイプとか色々有るが……」
「……使役したい人に似せた操り人形を造れるだけでは?」
「マーヤーを見破った奴は解脱するって話が有ってね?偽物だと他人が根拠を持って事実確認出来たならそいつらは等しく解脱するさ」
「は? つまり、幻術なのに幻術を破ると死亡トラップ付き?ふざけすぎでは?」
「仮にもインド神話の主神の力モチーフの力だし、これくらいはね」
「……そんなインチキが許されるなんて、そんな馬鹿な」
「解脱って宗教だと目指す所扱いされている奴だし、扱い的にはプラス効果だから、それで死んでも只の自滅で自殺扱いだけどね」
「……この能力が攻略出来る奴なんか居ない、ではなく、攻略出来た奴は全員自滅する能力、ですか……えげつないですね」
「それで、どうする?」
「ぶっちゃければ能力で自力開花狙ったら良いので、断る……と言いたい所なのですが、理解の過程で幻術破りをしちゃって死にそうなので、如何した物ですかね」
「幻術で出した奴はある程度セミオート制御が可能だから、疑似召喚魔法としても普通に運用が可能だが、自分が好きな奴を召喚して使役したくない?」
「……伝授の過程で普通に死にませんかね?」
「これ以上は契約してから、だね」
「……お願いします」
「よし。じゃあ契約を結ぶとして、書類にサインしてね」
「は、はい」
契約書にサインをすると、
「理屈はとても簡単で、君は天使と交信出来たのだから、その交信を自分の身体相手に天使の立場からやるだけだよ?天使と交信出来た事は君の才能と言っても差し支えないと思うけど」
……天使に身体を使わせる云々の話ってその為ですか。
「……つまりデメリットを被ろうが問題無く活動出来る様に出来る、と」
「そう言う事」
「ですが、それだと死んでいません?」
「精神的には死なないよ。只、普通の奴には元の自分の身体との交信手段が無いし、適切な準備もしてないから、特殊な存在を見られる奴以外には不可知不干渉な存在に成るから死んだのも同じに成る上、自我を保っていられず自滅する訳だし」
「宗教家が聞いたら激怒しそうな事を言いますね」
「適切な準備もせず肉体から精神抜けて死なないとか言われてもアレだし、あくまでも元ネタでしか無いと前置きしているから、解脱と言うのはこう言う物だ、と言うのは要らないけどね」
「……該当の自分の記憶を消すなり取り除くなり何らかの手段で忘れない限り、時間巻き戻しとか、リスタートとかのやり直し系能力も戻した瞬間にまた死にますね、それ」
「そう言う事だな。さて、天使と交信して貰うよ。伝授を始めよう」
「はい、お願いします」
それで、幻力を伝授して貰いました。
「さて、此処からは仕事関連の雑談を少ししよう」
「何を話すのですか?」
「いや、まあ、XRの話。ルミナント姉さんが聞けって煩くてさ。……実際XRを体験して、如何だった?売れると思う?」
「FPSのPVEやサバイバルゲームが好きな人は絶対買うべき、と言える事が出来る可能性は感じます。只……」
「只?」
「設備投資をかなりしないと成らないので、一般に普及させるには敷居が高過ぎます」
「それに付いてだが、既存のゲームなんかだとソロゲーで安価で凄いグラフィックを実現出来ている所は有る。何故だと思う?」
「企業努力、ですか?」
「それはそうだけどそれじゃなく、もっと具体的に」
「……何故ですか?」
「簡単な話、ゲーム機器に掛かる負荷がオンライン化して大量にプレーヤーが参加する場合に比べて軽いから余裕なリソースでグラフィックを盛れる、らしい」
「それが如何したのですか?」
「いやさ、つまり、XRをやる上でプレーヤーの一人一人にアクセサリーレベルに小さいパソコンを造り、身に着けさせてサーバー側の負荷をプレーヤー毎に分散させればある程度のゴリ押しは行けるはず」
「は? つまり、小型のサーバーをプレーヤーに配り、それでサーバークラスターを造り、どうにかする、と?」
「まあ、そんな所」
「いやいやいや、理屈上は可能かも知れませんが、普通に考えて配った小型サーバーのデータを丸ごと抜かれますよ?」
「それはそもそもアトラクション施設でのみ使える非売品扱いにしようかと」
「能力で不正されませんか?」
「それを言いだしたら何も造れん」
「……出来たら最高だとは思います。只、実現にハードルに持ち運びが苦に成らない上に多少の衝撃には耐えるレベルの小型サーバーレベルの高性能パソコンを用意する事が増えていますけど、そんなレベルの端末を?」
「ふふふ、ネタに走るなら、出来らぁ」
「ゴホン、冗談はともかく、実際は如何なのですか?」
「小型AIなら今君の使って居る極光役者の自動制御とかも有るし、ナノマシンにAIを載せる技術が有って、出来ないと思われるのは心外だな」
「……そしたら、凄く良いですね」
「ま、ついでに予想して置くと、画像生成AI周りの技術とかの革新により秒で3Ⅾステージ生成設計とかまで行けちゃうと、XRのリアルローグライクゲームとかも出来るだろうね」
「それはえげつない気配がしますね」
「さて、長々と悪かったな、他の皆に合流しておいで」
「あ、はい、わざわざありがとうございました。それでは、また」
エアデー様と別れた後、ティソーナさんと一緒に、私の歓迎会に行く事にしました。