私のもうひとつの顔
強いフラッシュと共にシャッター音が鳴り響く。
周りの大人たちは偉そうに腕組みをしながら、
ジッと見つめている。
「い〜ね〜!」
私にはもう一つの顔がある。
「はい!お疲れ様〜!OK!」
この仕事を始めたのは14歳の頃だった。
自立したい一心で受けたオーディションに運良く合格し、この頃には雑誌の表紙を飾り大人たちの期待を一心に受けていた。
「なっちゃん!なんか最近色っぽくなったよね?!彼氏とかできたの?!」
「いえ、できてませんよ!」
私は苦笑いで答えた。
「そうかなぁ〜俺の目は誤魔化せないよ〜!大事な時期だから気をつけなね!今勢いあるんだから!ね!」
「もちろんです!ありがとうございます。ではお疲れ様です。」
この世界が向いているとは思っていなかった。
ただ自立してやっていくには今はこれしかないと思っていた。
仕事が終わるとすぐに携帯を取り出し彼にメッセージを送った。
『今終わったよ!』
すぐに返事が届いた。
『お疲れ様!』
彼はずっと待っていてくれたのだろうか…
「なつ〜!ほら次の現場行くから挨拶してきて!」
「あ、はい…!」
私は返事を返せないまま、
また次の現場へ向かった。
彼はどう思っているだろうか。
またずっと携帯の前で待ってくれているのではないだろうか。
でも彼にその答えを聞くことができなかった。
私には答えが分かっていた。
彼はきっと良くは思っていないだろう。
だけど、私にはこの道しかないんだ。
幸せになるためには誰よりも早く大人になる必要があった。
『ごめんね…』
そう心の中で彼に謝り携帯を握りしめた。
とても不安だった。
本当は今すぐ会いたい。
今すぐメッセージを返したかった。
私はそのうち週に3日ほどしか学校には行けず、
働きながら学生生活を送っていた。
お陰で相変わらず友達は少ない。
久々に登校すると男子生徒たちは少し距離を置き、
女子生徒は自分が好きなアイドルについての質問を繰り返す。
やっと1日を終えて放課後のチャイムがなると、
私は誰よりも早く教室を出て彼のとこに向かっていく。
彼は私が来ることを知っていて、
いつも背中が微笑んでいる気がした。
「よし〜!」
私が呼ぶといつものニコッとした笑顔で振り返った。
「帰るか!」
「うん!」
私たちは学校の中でも構わずに手を繋いで歩いた。
周りの生徒たちは私たちに一目置いていた。