私の日常
ガシャン!!という音と共に悲鳴が聞こえた。
私は真っ暗な部屋で電気もつけずにドアの前に座って、
あちらの様子を伺っていた。
「なんだその目つきは!!」
またドーンと何かが倒れる音がした。
啜り泣く声も聞こえる。
神様は私に安らぎという場所を与えてくれなかった。
自分のことは自分で守るしかないと思っていた。
きっと誰かに相談しても可哀想だと同情されるだけで、
ここから助け出してくれるとは思っていなかった。
やっと静かになった頃には、
外は明るくなり始め鳥の優しい声が聞こえる。
恐る恐るドアを開けリビングへ出て行くと、
タンスは引き出しが全て床に飛び出し、
書類も物も全部がぐちゃぐちゃになっていた。
私は落ちている物を手に取り、
冷静にひとつひとつ元の場所に片付けていった。
私にとってこの光景は日常であり見慣れている。
ただ日々私の心を蝕んでいく。
ひたすらにこの地獄から早く抜け出したいと、
そう思っていた。
誰かに愛されているという安心が欲しい。
安心して眠りにつける場所が欲しい。
一睡もできないまま朝を迎え、
リビングに行くと皆が出かけた後だった。
朝食やお弁当が用意されているなんてことは、
夢にも見たことがない。
私は生きているというより、
生かされているという感覚で生きていた。
今日死んでも後悔もない。
ただ愛を知らないまま死んでいくことだけが、
心残りだと思う。
制服に着替えて、
学校までは電車だったが、
私はいつもわざと遅刻していく。
同級生が乗る電車には乗りたくなかった。
駅についてもなんだか学校に行く気分ではなく、
近くの河川敷へ向かった。
川の流れをボーッと眺めていると、
心が洗われる気がした。
その時、携帯の着信音が鳴った。
彼からの着信だった。
慌てて出てみると、
「なつ?電話でないから心配したよ!どこにいるの?」
「あ、ごめんね!気づかなくて。今日は学校行きたくなくて近くの川でボーッとしてたところ!」
「なんかあった?大丈夫か?」
「ううん!友達もいないし、嫌いな授業だったから!」
「そっか!じゃあ俺も今からそこに行くから待ってて!」
「え!?場所わかるの?」
と言って彼は電話を切ってしまった。
何度か電話をかけ直したが彼は電話に出なかった。
しばらくしてまた着信があった。
心配で待っていた私は少し怒って、
「もしもし?」
と言った瞬間、後ろから抱きしめられた。
驚いた私に、
「大丈夫」とだけ彼は言った。
何も伝えなくても全部伝わっているような気がした。
私の抱えているものを彼はどう思うだろうか。
こんな私のことを心から愛してくれるだろうか。
ふと不安になった。
「急にびっくりするじゃん」
彼はいつもの笑顔でニコッと微笑みながら私を見つめた。
「今度サボる時は俺に連絡してからにしてね。約束。わかった?」
「なんで?」
「1人より2人でいる方が楽しいからに決まってるでしょ!返事は?」
「ん…わかった!」
「よし!よくできました。」
そう言って私の頭を撫でてくれた。
私も思わず笑顔になった。
今思えばこれが愛というものだったのだろうか。
ただ私の心の中はホッと曇っていたものが消えていく。
敵ばかりに見えていた世界が暖かく見えた。
私は1人じゃないと思えた。