プロローグ
「ブレシア。石板が光らなかったのを見ただろう?」
「ですがお父様」
「ええい聞き苦しい! お前もあの女と一緒で俺に逆らうつもりか?」
「レオン様との婚約は」
「お前の義妹のサラが石板を光らせたのだ。彼女が殿下の婚約者となれば、我が家には何も問題あるまい。聖女失格と呼ばれているお前とは比べるまでもないな」
私は今、王都の大聖堂にいるのだと、思う。この建物のことはよく知っている。そして、目の前にいるのもよく知っている父。
でも、父のそばにいる赤髪の少女に私は見覚えがない。多分サラという名前なのだと思うけれど、私は知らない。
そもそも今しがた私が口にした「レオン様」とは一体誰なのか。そう思考を巡らせているうちに、前方からコツ、コツ、と足音が聞こえてくる。
父が頭を下げ、それに倣って私もまた勝手にお辞儀をした。
「面を上げよ」
「ありがたきお言葉です。殿下」
父に殿下と呼ばれた人物のお言葉に、私たちは顔を上げる。そこにいたのは金色の髪に金色の瞳という、王者の風格を漂わせる青年だった。
遅れて父の言葉に、彼が婚約者なのだと理解する。しかし、私に婚約者はいないはず。そう思って改めて彼の顔を見れば。
──知っている。私は彼のことを知っているのだと、そう直観で思った。
そこで映像がプツンと途切れたかと思えば、気づけば私はベッドの上にいた。
「おはようございます。お嬢様」
よく見知った専属メイドの声と、外から聞こえてくる小鳥の鳴き声に、私の意識は完全に覚醒する。それと同時に、私は夢のことなどすっかり忘れてしまったのだった。
新連載始めました。よろしくお願いします。
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