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第九話 別れ


 俺達は襲撃を成功させた後、何食わぬ顔で宿へと戻って来ていた。今は三人部屋に全員で集まっているという状況である。

 皆が無言で俺の言葉を待つ。次の標的がリストア伯爵家であると分かっているので、このままリストア領に向かうと思っているのだろう。


「もう少し戦力…いや、人数が欲しい」

「人数?」

「確かに、絶対に逃げられないようにするのならば人数は欲しいですね」

「それに、一箇所に固まっているとは限らないっすからね」


 俺の言葉を聞いてクロが疑問の声を上げ、それにリリアとイルがそれぞれの考えを述べる。俺はイルの言葉を聞き、確かにそうだなと思った。

 一箇所に固まっている時に叩けばいいと思っていたが、リストア領ではあまりタイミングを計っている時間がない。リストア領の者達は、俺のことを知っているだろう。髪色は混じってかなり変わっているが、それでも俺だと気付く者達も出てくるはずだ。そうなれば伯爵家にも情報が伝わり、襲撃がさらに難しくなってしまう。

 たとえ場所が離れていたとしても、同時に潰せるだけの人数は必要か…。

 俺もあまり考えが足りていなかったようだ。できれば母の仇であるビアリス、その息子である次期当主のべノンの二人は確実に自らの手で止めを刺したいのだが…。分かれていた場合のことを考え、どちらを担当するかも考えておいた方がいいかもしれない。


「どうやって仲間を増やすか…」


 呟きながら考える。態々口に出しているのは、他の仲間にも案を募るためだ。簡単に仲間と言っても、信頼できる者でないと駄目だ。

 一つに俺がレベルを上げることを前提に考えているからである。相手は伯爵家である。敵はかなりの数と予想されるので、こちらは近い数を用意するか高レベル者を用意するかの二択だ。そして、数を用意するのは現実的ではない。

 数人程度ならば兎も角、かなりの数を相手にするとなるとレベル35以上は欲しい。そして35レベルともなれば、クロやシロでも余裕で相手できるレベルではない。レベルでステータスが上昇する訳ではないので、共通スキル等のステータスが上昇するスキルを優先して獲れば、35レベルはステータスだけを見ると50レべルとそれほど変わらないのである。

 それを数人育成するのだ。確実に信頼できるものでないと、俺達が危険に晒される可能性だってある。俺は敵には容赦しない、だが仲間は傷付けさせない、必ず俺が守る。これが俺の矜持だ。この矜持すらなくなれば、俺はただのクソ野郎になってしまう。

 そして二つ目が、これは俺の私怨であるということだ。俺や母を簡単に切り捨てるような者達なので、探れば何か出てくるかもしれない。だが、今は外から見れば何も悪事を働いていない善人なのである。それを襲撃して、あまつさえ殺そうとしているのだ。

 これを話せる相手、そして襲撃を手伝ってくれる相手を探さなければならない。


「私達みたいに、奴隷を買ってはいかがですか?」

「いや、奴隷でも…」


 俺の微妙な表情を読み取り、再びリリアは考え始める。奴隷は確かに使い易い存在ではあるが、強制的に命令を利かせることはできない。ましてや今回は殺人である。

 犯罪奴隷ならば強制的に命令することは可能だろう。だが、国が管理しているので個人で買うことはできない。そもそも、犯罪奴隷は信用できる相手という部分をクリアできていない。


「僕に少し心当たりが…」


 そう言ってシロは話し始める。彼は山賊や盗賊相手によく首を突っ込んでいたので、俺達よりも人との関わりが多いのだ。

 彼が話すのは一人の女性。それも、貴族の女性らしい。彼女はリストア家と同じ伯爵家の次女だそうだ。上には兄が二人と姉が一人、次女である彼女はあまり良い噂を聞かない子爵家の者と政略結婚させられそうになったそうだ。

 だがそういった面倒事が嫌だった彼女は、幼い頃より自由な冒険者になるために剣の稽古を積んでいた。勿論レベルもある程度高いという。そもそもパワーレベリングはこの世界でも普通に存在する。特に兵士をかなりの数用意できる侯爵以上の者達は、兵士や冒険者を使ってパワーレベリングを自身の子供に施していることが多い。勿論パワーレベリングという言葉は知らないだろうが…。

 今回は伯爵の娘であったが冒険者を目指していたこともあり、パワーレベリングが行われたそうだ。そしてそれが事態をややこしくさせた。

 婚約者となった子爵の息子は、彼女を自分の思うがままにしようとする。だが彼女のレベルの高さ故に手を出せずにいたのだ。当然自分の兵を使って力尽くでどうこうすることはできず、自身の領にいる荒くれ者達を雇って事を起こそうとした。

 パワーレベリングを行ったとはいえ、それほどレベルに差が付く訳でもない。多勢に無勢ではどうしようもない。そこへ偶然見つけたシロが首を突っ込んだそうだ。子爵の息子は証拠を残さず逃げたこともあり、何のお咎めもなかったらしい。

 その伯爵家の女性は家を飛び出し、今は隠れながらひっそりと住んでいるという。彼女は証拠がなくて捕まえれなかったことを問題視しているようだ。殺しの専門家…暗殺者を雇おうとしたことがあるくらいだった。隠れ住んでいる彼女に雇えるほどの金はなかったようだが。

 つまり彼女は、必要悪というものを理解しているのだろう。無駄に人を殺すというのは反対されるかもしれないが、必要ならば問題ないと感じている。シロと同じような考えを持っているということか…。


「僕は彼女が何処に住んでいるのかも知っています。会うことも簡単ですし、住む場所もこだわりはないはずです。レベル上げも喜んで受け入れてくれるでしょう」


 同じ考えを持った者同士かなり仲良くなったみたいで、彼女の生活が安定するまで近くに住んでいたらしい。

 俺は全然知らなかった。シロはいつも勝手に何処かへ行って勝手に戻って来る。そのような状況だったので、あまり気にしていなかったのだ。だからこそ、突然彼が勇者だと言われ始めた時はかなり驚いたのだが…。


「そっちは頼めるか? できればレベル上げも」

「任せてください。必ず仲間と呼べるようにしてみせます」


 そう言ってしっかりと頷く。彼がそう言うからには大丈夫なのだろう。職業も戦士らしいので、リリアのレベル上げを見てきた彼ならば任せても問題ない。


「できればあと二人は欲しいな」

「…」


 俺の言葉に、流石のシロも黙って考え込んでしまった。その貴族の女性以外は思いつかないのだろう。


「仕方ない、探すか」


 今からでも、新たに探すしかないだろう。時間は掛かるかもしれないが、数年単位で時間を掛けるつもりはない。


「それでは、王都フェルレアへ行きますか? それともフルールへ?」


 リリアが俺の言葉を聞き、そう尋ねてくる。フェルレアはこのオーレン王国の王都だ。勿論伯爵領など比較にならない程の人が住んでいる。さらに入って来る者、出て行く者も多く沢山の人が見れるというのが特徴だ。

 フルールはキリュシュ子爵領にあり、ダンジョンの町、冒険者の町と言われている。ダンジョンは冒険者にとっての稼ぎ場所だ。ダンジョン内に魔物が生成され、効率よく魔物を狩ることができる。

 ダンジョンは階層を降りるごとに魔物が強くなっていく。そのため、自身の強さにあった魔物を狩ることが可能となる。残念ながら浅い階層しか攻略できていないようだが、それでも魔物の素材を求めて冒険者は沢山やって来ているらしい。

 ダンジョンは死体を食べてエネルギーに変え、それで新たな魔物を作り出すと言われている。ダンジョン内で魔物の死体を放置すると、一定時間でダンジョンに飲み込まれる。それは冒険者の死体も同じだ。そして冒険者の装備は吸収できないのか、ダンジョンの何処かへ吐き出されるのだ。

 ダンジョンに潜る冒険者にとって、それは魔物の素材以外にも重要な換金アイテムとなる。勿論自分達が使えるものは持っておくことも可能だ。

 キリュシュ領は子爵家の小さな領地でありながら、フルールの近くに四つのダンジョンがあることで冒険者が集まる。そこから発展して、そこらの子爵領とは比べものにならない程大きくなっていた。

 今でもキリュシュ子爵が伯爵となっていないのは、冒険者を纏めきれていないことが原因だろう。フルールには王国騎士が常駐していると聞く。

 さらにニットヘルムへ行くのもいいだろう。ニットヘルムはジェイド公爵領にある一つの町で、別名奴隷の町とも呼ばれている。奴隷売買が盛んであるがしっかりとジェイド公爵が管理しているため、犯罪に手を染めた奴隷商は一人もいないという。

 まあ確実にいないという保証はないが…。何処にでも目を盗んで悪事を働くのが上手い者達はいるものだ。

 ニットヘルムはフルールへ向かう途中に立ち寄ることができる。キリュシュ領はジェイド領を通過していくことになるのだ。問題はフェルレアとフルールはここから北西と北東、どう考えても立ち寄れるような距離ではない。


「そうだな…二手に分かれるか」

「「一緒に行く(行きます)」」


 俺が軽く言い放ったその言葉に二名が同時に声を上げ、話を終えるのにかなりの時間を要した。

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