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第八十九話 学校


 俺はリルフレアと共に学校へと向かう。

 彼女を俺が連れて来た訳ではない。彼女が自身の意思でついて来たのだ。

 彼女は、一人でいるとき以外に仮面を取らないというかなり特殊な人物だが、貴族としてはしっかりとした考えを持っている。今回彼女が俺についてくるのも、当主のサポートをするのが妻としての有り方だと貴族の文化故である。

 俺とは違い、彼女は貴族の女性らしくかなり豪華なドレスを着ている。

 今日着ているドレスは淡い黄色に赤が混じったドレスだ。貴族は見栄えを大事にするため、外出時や何かの集まりにはドレスやコート等の特に一目で高価だと分かるものを身に着けておくらしい。

 それに同じものを着続けるというのも他の服を買えない貧乏貴族と思われるらしく、一週間分のドレスを持っている。

 俺は本当に着なければいけない場合を除いて、今まで貴族用の服を着たことがない。この世界の貴族用の服は、どれもこれも凝った造りをしているので一人で着ることができないのだ。

 そもそも貴族は自分で身の回りのことをしない。世話を侍女等に任せるのが普通なので、自分で服を着るということがないのだ。

 リルフレアも最初は自分で全てをこなす俺に戸惑っていた。だが、今では慣れた様子で側にいる。いつまでも仮面を着けたままだが、俺の考えを尊重してくれるそんな彼女だからあまりその辺りは気にならないようになった。

 やはり人は外見ではなく中身が重要なのだ。

 貴族は見栄を重視するので、俺のこの考えとは相容れないだろう。しかし、これだけは日本にいた頃の名残なので仕方がない。

 それに俺は元々貴族だと言っても、殆ど放任されてきた存在だ。今では貴族としてよりも、クロ達と共に世界を旅して来た時間の方が長いくらいだしな。


「セイン様、リルフレア様、ご訪問歓迎いたします」


 俺達が学校へ着くと、先生生徒一同が出迎えるために集まっていた。

 急に向かって驚かせるのも悪いと思って事前に伝えていたのだが、領主が訪問するのであれば当然出迎えることになるだろう。伝えたのは失敗だったかもしれない。

 俺が授業に戻れと言えば、すぐに生徒達が校舎内に入って行く。


「貴方達も早く戻りなさい」

「「「はい」」」


 残っていた先生も、授業のない先生達に教室へと戻される。


「それでは、セイン様達は私が案内します」


 そう言って他の先生よりも一歩前に出たのは、真っ赤な長髪を後ろに流し、切れ長の瞳が少しきつく見える女性。細く見えるがしっかりと筋肉がついており、引き締まった体をしている。

 彼女はたしか……キルレアだったか?

 学校の教師は、皆学校の卒業生である。そしてその中でも商人クラス、戦闘クラス、従者クラスの卒業生は領主の屋敷、つまり俺の家へと卒業後に来ることになる。領主への顔見せのためだ。

 それだけ分岐した三クラスの卒業生は優秀であり、俺達に期待されているということでもある。また、分岐する三クラスの教師には、そこの卒業生しかなることができない。

 なので何とか覚えているのだ。

 キルレアは戦闘クラスの卒業生である。かなり優秀だったので兵士になるか冒険者になって外に出ていくと思っていたのだが、本人の強い意思で教師として学校に残った。


「いえいえ、ここはわたくしにお任せ下さい」


 そう言ってキルレアに張り合うように俺の後ろから出て来たのは、肩まである緑の髪の女性。こちらはキルレアと対照的でおっとりとした雰囲気を纏っている。

 だが、彼女の雰囲気に騙されてはいけない。彼女はレリーヌといい、従者クラスの卒業生だ。

 純粋な戦闘力では戦闘クラスでも優秀だったキルレアには及ばないが、他の戦闘クラスの者達と互角に戦うことができるだけの強さを持っている。

 それに何より凄いのが、従者クラスの卒業試験の監督はリリアなのだ。つまり、従者クラスの卒業生は全員リリアに認められた者達だということになる。


「レリーヌが一緒だったとはな。小さすぎて見えなかった」

「見つけることができなかったのは、貴方の目が節穴なだけなのでは? 戦闘クラス失格ですね」


 互いに罵り合って睨みあう。二人の間には、バチバチと火花が散っているように見える。この二人は同期だったりする。そして二人ともが優秀だったため、何かと張り合って学生生活を送ってきたらしい。

 そのおかげでより成長できたのだろうが、どうやらその関係がまだ続いているようだ。

 レリーヌは学校側の人間ではない。彼女は俺達と共に、侍女としてやって来たのだ。

 つまりキルレアが案内してくれるとしても、レリーヌは侍女として俺達の側に着く。それならば、彼女に案内してもらった方がキルレアの時間を無駄に取らずに済む。


「今回はレリーヌに案内してもらう」

「はい! 精一杯案内させていただきます」

「…かしこまりました」


 俺の言葉にレリーヌが嬉しそうにし、反対にキルレアがつまらなさそうに返事を返す。

 真っ赤な主張が強い髪、切れ長の瞳、高身長、そしてしっかりと筋肉の付いた体。一目見ただけで気が強い印象を受けるのだが、意外と彼女は子供っぽいところがある。

 それが面白くて彼女を見ていると、俺の側にいたリルフレアが口を開く。


「キルレアにも共について来てもらいましょう」

「本当ですか!?」


 リルフレアの言葉を聞いて、キルレアが表情を変える。


「彼女は戦闘クラスを優秀な成績で卒業した方です。今後、彼女の力を頼ることがあるかもしれないでしょう? 学校にいてはあまり情報も入って来ないでしょうし、少しキルレアと話をした方が良いと思いますよ」


 嬉しそうにしているキルレアを無視し、リルフレアはそう俺へと言ってくる。

 今後と言うのは、レベティア神国のことだろう。

 オーレン王国とオルレア帝国の同盟が締結して以降、他国からの攻撃は一切なくなった。元々素早い同盟締結だったため、殆どの国は同盟締結の情報と共にオーレン王国が敗北したと知っただろう。だが、それでも攻撃して来た国もあった。

 その中でも一番ちょっかいを掛けてきていたのが、リストア辺境伯領が面している国であるペストリグという国である。

 その国へレベティア神国が攻撃するための大義名分を与えたのだ。ペストリグだけではない。同じ情報を得たのは他の国もだ。

 レベティア神国はリーラが魔物憑きであることを知った。他の者達に比べて明らかに色素が抜けた白い肌や髪、そして赤い瞳。アルビノの特徴はかなり目立つ。知られるのは仕方がないことだった。

 そしてそれを知ったレベティア神国は、オーレン王国は魔物憑きを王とする魔王側の国だと言い出したのだ。

 レベティア神国は昔から職業が神官の者を他国から集め、神官を独占している国だ。そのため、かなり他国への影響力がある。

 オルレア帝国は真っ向からそれを否定した。周辺国も同盟国であるオルレア帝国が否定したことで、息を潜めている。

 だが、オルレア帝国とは反対に位置するペストリグは大義名分を得て何度もオーレン王国へと兵を出してきた。

 まあ、その度に返り討ちにしてきたのだが…。

 今もクロやルゥが兵士を連れて、ペストリグから侵攻して来た軍を返り討ちにしているところだろう。

 今は小国であるペストリグだけだから、それほど大きな侵攻はない。

 しかし、レベティア神国の影響で他の国も参戦を始めた場合、かなり大きな戦いになることは間違いない。

 その時には、リストア辺境伯領にいる戦闘力を持った者達全員で迎え撃つことになるかもしれないということだ。

 リルフレアなりに考えての言葉だったらしい。

 俺はいつまでも守りに徹するつもりはない。だが確かに、今はこちらから攻めることはできないのも事実。

 彼女の言葉に、俺は素直に頷いておいた。

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