第八十八話 自身の変化と周囲の変化 ~ヒーロ視点~
私は大事なお兄ちゃんを、そして良くしてくれたお兄ちゃんの仲間達を亡くしてしまった。一人になっても生きていけるなんて歳じゃない。
お金も持ってないから、お兄ちゃんがいないと住む場所や食べる物すら得られない。
そこに現れたのは、お兄ちゃんの仲間の友達として一度来たセインさんという人だった。
セインさんは怪我をして療養しているお兄ちゃんの代わりに、お兄ちゃんのパーティーへ参加していた人だという。
そしてお兄ちゃんの仲間が、お兄ちゃんに対してお金を渡しつつ活躍を語る。怪我をして依頼に参加できないお兄ちゃんは、本来ならば報酬を得られない立場だ。
仲間と言っても、危険を冒して依頼を達成している。それに対してお兄ちゃんは安全な場所で療養中。報酬を得られる訳がない。それは幼い私でも分かる。それでも、お兄ちゃんの仲間達はお金を渡しに来てくれる。
お兄ちゃんが妹の私を育てていると知っているから。お兄ちゃん自身のためだけではなく、私のためにお金が必要だと知っているからだ。
お兄ちゃんの仲間達は皆とても優しい人達。私はそんな皆のことが大好きだった。
そんな皆が今語っている話は、殆どがセインさんが活躍している話だった。
嘘を吐いている訳でも、依頼を手伝ってくれているセインさんに華を持たせている訳でもないのは、皆の表情を見ていて分かった。
そしてそれはお兄ちゃんにも伝わったようで、初対面なのにお兄ちゃんは楽しそうにセインさんと話していた。
私は初対面の男の人ということで、少し緊張してあまり話ができなかった。でも、お兄ちゃんやお兄ちゃんの仲間がセインさんと話しているのを聞いているだけでもとても楽しかった。
そしてその話の中でお兄ちゃんは、セインさんに自分に何かあれば妹を頼むというような会話をしていた。
それは私にも、そしてお兄ちゃんの仲間やセインさんにも冗談の類の話だということが分かった。何となく雰囲気で言っただけの言葉。
当然お兄ちゃんが本気で言った訳ではないということは妹の私には分かっていた。セインさんもそれが分かっているから、軽く了承の言葉を吐いでいた。
だけどその後、お兄ちゃんとお兄ちゃんの仲間達が依頼から帰って来なかった。
それを知ったセインさんは、お兄ちゃんとの約束を律儀に守って私を迎えに来てくれた。それも、あの話は冗談だと分かっているのに。
その後セインさんは私の我が儘も聞いてくれた。危険を承知で、私をお兄ちゃんや仲間達の捜索へ連れて行ってくれたのだ。
お兄ちゃんが、そしてお兄ちゃんの仲間達が死んだ。捜索へ出掛けてそれを理解した私は、ようやく理解すると共に後悔もした。完全に死んだのだと理解できたことで、もしかしたら生きているという希望が完全に消滅したからだ。
そんな私に、セインさんは優しくしてくれた。
だから私はセインさんを、お兄ちゃんとの約束を守ろうとしてくれているセインさんを受け入れた。お兄ちゃんが私を託すと言ったんだ。だから私もセインさんについて行く覚悟を決めた。
流石にお兄ちゃんと呼ぶことはできなかった。セインさんの年齢はお兄ちゃんに近い。だけどお兄ちゃんを亡くしたばかりの私には、どうしてもできなかった。
だから私は、家族と認めたという意志も込めてセインさんをパパと呼ぶことにした。セインさんに嫌がられたらどうしようとか不安に思っていたけど、セインさんは普通に受け入れてくれた。
パパは色々とやることがあるらしく、とても忙しそうにしている。
オルレア帝国へと私を連れて行き、パパの仲間という人達に会った。
パパも凄いけど、パパの仲間も全員がとんでもなく強い人達らしい。らしいというのは、私自身が他の人達の強さを知らないから。
お兄ちゃん達も、幼い私を依頼へと連れて行くことはなかった。だから、私は他の人達の強さを知らない。
私が知っているのは、パパと共に私の訓練をしてくれたリリアさんとクロさんの二人。パパは私に自衛のための強さを身に着けて欲しいと言って、訓練とレベル上げをしてくれた。
私には三人共とても強く感じた。それこそ私がどれだけ頑張っても、絶対に追いつけないと思う程の強さだ。そしてあまりにも強さが離れていたために、三人共同じくらい強いと感じた。
リリアさんとクロさんはパパが一番強いと言う。だけど私には、どれだけ強さが違うのかが分からない。
レベル上げにと戦った魔物も、全てが私にはかなり強く感じた。レベルが上がって訓練も身に付いてからはそうでもなかったけど、強さが身に付いたことによって三人の強さがより一層感じられた。
私はまだまだなのだと、そう感じられるようになった。
それを訓練の時にリリアさんに言うと、力の差を理解できたのは強くなれた証拠だと言ってくれた。
私はお兄ちゃんとお兄ちゃんの仲間が目指していた、Aランク冒険者になりたいと思っている。お兄ちゃん達はAランク冒険者になって、龍の宝具を探しに行くのが夢だと言っていた。
龍の宝具はお伽噺に出てくるような代物で、本当にあるのかどうかも分からない。だけど龍が守っているとされる物で、Aランク冒険者相当の実力がないと手に入れることはできないらしい。
私はお兄ちゃん達の夢を継ぎたいと勝手に思っている。
だから冒険者になって、Aランクを目指したい。自衛のためとパパは言っていたけど、訓練は私にとってとても有難かった。特にクロさんの訓練は厳しかった。だけどAランク冒険者になるためと思えば、頑張ることができた。
だけど、私はまだまだだ。
それだけは分かる。
私はまだ、商人にすら勝てない。オルレア帝国内の商人は、取引で商品を得ているのかそれほど強くもない。
だけど帝国に来ていたニラヤさんというパパの知り合いの商人。彼女は私よりも確実に強い。
私もレベル上げの際に職業に就いた。剣士であり、戦闘系と呼ばれる職業だ。本来であれば非戦闘系の商人よりも強いはずである。だけど、私は商人よりも弱い。
だから私はもっともっと強くならなければならない。そして、やがてはAランク冒険者になって龍の宝具を探し出す。
龍の宝具を見つけたらお兄ちゃんの墓に一緒に埋めるか、それともここまで育ててくれたパパにあげるのか。それはまだ決まっていない。
決まっていないけど、今すぐに決める必要はない。それはまだまだ先になるだろうから……。
パパは仲間達と共にオルレア帝国とオーレン王国との戦争に出かけて行った。私はニラヤさんと共に留守番していた。
少し心配だったけど、ニラヤさんはパパ達ならば問題ないと言っていた。
だから私は待ち続けた。
私が次にパパと会った時、それはオルレア帝国とオーレン王国が同盟を結んだ後だった。そしてパパは何と、オーレン王国の辺境伯となっていた。
それを聞いた時にはとても驚いた。当然だ。出かけてから半年も経っていないのに、自分の親が他国の貴族様になっていたのだから。それも下級貴族ですらない。
「パパが結婚する!?」
次に驚かされたのはたった二か月後のことだった。パパは領地の開拓に忙しいらしく、私は王都でパパの仲間だという人と生活をしていた。その時にパパが結婚すると聞かされたのだ。
相手は子爵家のお嬢様だという。まだ結婚ではなく婚約らしい。正式な結婚は、最低限領地に住める環境が整ってからだという。
私は貴族の親を持つことになる。パパがすでに貴族となっているけどそれはそれ、これはこれ。パパは生来の貴族ではないから、お貴族様っぽくない。それに比べて、パパの結婚相手は完全にお貴族様なのだ。
これからパパの側にはその人がいることになる。私はその時、その人とどのように接していけばいいのだろう?
全く分からない。そもそも、平民の私はその人に受け入れてもらえるのだろうか……。
最近はそのようなことばかりを考えるようになっている。
パパの結婚だ。祝わなければいけないと思う反面、快く思っていない自分もいる。
これから私はどうなるのだろう。
そういった不安ばかりが、私の中で大きく膨らんでいった。
「ヒーロさん。今日も訓練をしていたのですか?」
「はい。クロさんと一緒に森へ行ってました」
「あの森は危険なのでしょう?」
「クロさんがいれば大丈夫です。パパにも…いえ、お父様にも同じようなことを言われました。ですが、リリアさん達も問題はないだろうと。お父様が過保護すぎると言っていました」
「そうですか。リリアさんがそう言ったならば、問題はないのでしょう」
お父様の妻となったリルフレアさん。今の会話からも、私のことを心配してくれているのだと分かる。昔の、不安で一杯だった私に大丈夫だと言ってあげたい。
だけど私は、リルフレアさんとの距離を測りかねている。リルフレアさんは常に仮面を着けていて、どう接していいのか未だに判断が付かない。
お父様は普通に接しているし、リルフレアさんが良い人というのも分かる。
それでも接し難いものがある。リルフレアさんもそんな私に、どう接していいのか考えている節がある。互いに接し方が分からない状態となっているのだった。
この話から次の章へと移ろうと考えていましたが、年月が経った後の話となる第八十七話から第三章とすることにしました。




