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第八十六話 男爵家令嬢の苦悩 ~リルフレア視点~


「おいリルフレア! 喜べ! お前の嫁ぎ先が決まったぞ!」


 お父様であるデルドア・シュネーが嬉しそうな表情を浮かべて、私の部屋へと唐突に入ってきました。そして私の反応を一切待たずに、再び口を開きます。


「お前の相手はセイン・リストア辺境伯だ!」

「リストア……辺境伯?」


 私の記憶でセイン・リストア辺境伯という名前に、一切思い当たる人物が存在しませんでした。リストア家であれば、伯爵家だったはずです。さらに言えばリストア伯爵家は何者かに一族全員殺害されてしまい、お家取り潰しとなったはず。

 リストア領は今、王国の領地として国に管理されていると聞いています。偶然同じ名前だったとしても、辺境伯という特殊な爵位の方であれば名前を知らないはずがありません。


「あの…お父様?」


 私がお父様に話を聞こうと声を掛けた時には、すでに扉の外へと出て行くところでした。

 私にはただ報告に来ただけ、という感じです。

 お父様にとって、辺境伯との繋がりがほしいだけなのでしょう。お父様は私を不要な存在と思ってるのです。

 シュネー家は男爵家であり、本来であれば辺境伯家の方に嫁げる身分ではないのです。下級貴族は下級貴族と、上級貴族は上級貴族との結婚が普通です。

 例外は子爵家と伯爵家という近い爵位の者同士の場合。ですが、それもあまり聞くことはありません。やはり下級貴族と上級貴族の壁は大きいのでしょう。

 他にも家同士の繋がりといった例外もありますが、我が家にそのような繋がりなんてあるはずがありません。

 私も昔は外に出て、情報を集めることができました。その頃は、お父様に大事にされていましたから。ですが、今はお父様に不要な存在とされ、外に出ることすらできない状態です。

 新しく領地をもらった方ならば、私が知らない可能性もあります。リストア辺境伯とは、新興貴族の方なのでしょうか?

 いえ、それはないでしょう。突然辺境伯という爵位を賜ること等ありえません。

 オルレア帝国との戦争で、類稀な功績を残したのでしょうか?

 それもありえませんね。外に出られない私でも、オーレン王国がオルレア帝国に完敗したという情報は耳に入っております。

 最初から辺境伯という爵位を賜ることができる程活躍した方がいたのであれば、もう少し善戦していてもいいはずです。

 困惑した私は、頬を掻こうと手を伸ばします。そして、その手は仮面によって阻まれました。

 私はある時から、常に仮面を着けることになりました。突然仮面を着け始めた私にどうしたのか? と心配して声を掛けてくれた者達には、酷い火傷で醜い顔になってしまった…だから見せられないと伝えました。

 それが原因でお父様に不要な存在とされましたが、未だに外すことができません。

 私は火傷を負っていなくても、私の顔は罪深いのです。





 あれはまだ、私が幼い頃でした。

 私は両親から愛され、可愛い可愛いと言われて育てられてきました。

 そしてそれは、決して親の贔屓目等ではなかったのです。

 ある日突然、お父様と共に社交界の場に出ることになりました。お父様は男爵で、下級の中でも下級の貴族です。あまりそう言った場に呼ばれることがないため、人目を惹く私を一緒に連れて行くことにしたのです。

 本来であれば、十歳から社交界デビューするのですが、私はその時まだ八歳でした。

 そしてその場で、私は注目の的になりました。

 私の顔は思っていた以上に整っていたようで、その場の誰もが私に惹かれ、何人もの殿方に婚約を申し出られました。

 お父様はその中でも爵位が高かった、伯爵家の方の子息と私を婚約させました。

 それだけで終わればよかったのですが、その方はすでに侯爵家の令嬢と婚約していたそうです。お父様はその辺りのことに詳しくなく、あまり気にしないまま婚約の話を進めてしまったようです。普通ならば子爵家の私が、伯爵家の方と婚約ということ自体有り得ないことです。お父様が張り切ってしまったのも、無理のないことだと思います。

 そして私に婚約者を取られた形となったその方から、壮絶な嫌がらせを受ける日々が始まりました。

 その日々は私にとって、まさに地獄そのものでした。相手が侯爵家の御息女です。お父様が私を助けてくれることは、一度もありませんでした。

 結婚してしまえば、伯爵家との繋がりができる。それまで耐えろと言うのです。

 この顔が憎くて仕方がありませんでした。あの時お父様について行かなければ、あの時誰も私に言い寄って来なければと何度も思いました。

 ですが、私がその御息女の婚約相手を奪ってしまったのは事実なのです。

 嫌がらせは日々を重ねるごとに酷くなっていきました。やがて、命の危険を感じるものにまでなりは始めました。

 それでも、お父様が助けてくれることはありませんでした。

 私は家の中にできるだけ籠るようになりました。

 そこで私は、ある部屋で一つの仮面を見つけました。

 私は仮面を着けて生活するようになりました。人前では絶対に外すことがありません。すると、伯爵家の方から婚約破棄を申し渡されました。

 当然です。婚約者の前でも、私は頑なに一度も仮面を外さなかったのですから。

 私はその理由に、酷い火傷を負ったと言いました。その理由を付けるために、最初の数日は家出をしていました。

 誰にも顔を見せることができない程酷い火傷。私の容姿に惹かれていただけだったようで、他の殿方もシュネー家から離れて行きました。

 折角の伯爵家との繋がり、それを台無しにされたお父様は怒り狂いました。お父様からしてみれば、勝手に家出をして帰って来たら酷い火傷を負って仮面を着けているのです。私に対して怒るのは当然だと、その時は思いました。

 その頃から、お父様は私を不要な存在として扱うようになりました。そのような扱いを受けても、私は素顔を隠し続けたのです。





 またお父様は、私を政略結婚の道具にするようです。

 今回も私は、仮面を外すつもりはありません。

 仮面を外せない程の酷い顔と知れば、相手はまた婚約破棄を申し出てくるでしょう。そうしたら、今度こそお父様は諦めてくれるでしょうか?

 こんな罪深い私と婚約させられたセイン・リストア辺境伯に、私は少し同情の念が湧きました。

 どうか私を早く見限って、貴方は幸せになってください。

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