第八十四話 戦後
すぐにオーレン王国の王として、正式にリーラが認められた。国王を倒してから僅か一週間での出来事だった。
それだけ俺達は、すぐに行動したということでもある。最初から動きを考えていたのだ。当然のことではあるのだが…。
実際に国王の首はあるので証拠もある。それに貴族達は、オーレン王国の軍が敗北したという情報もすでに掴んでいるだろう。
リーラを心の底から王として認めている者は少ないようだが、それでも表立って異を唱える者達は今はいない。
そう。今はだ。
流石に誰一人反対する者がいない程、この国の貴族は物分かりが良い者達ばかりではなかった。なので最初の数人は、王に反抗したとして処刑した。
所謂反逆罪だ。
これ以降、リーラのことをどうこう言ってくる者達は一人も出ていない。表立ってはだが……。
さらに数人の貴族は殺し屋等の裏の者達へ彼女の暗殺を依頼していた。
その者達も全て返り討ちにさせてもらった。リーラ一人でも暗殺者を返り討ちにできるだけの実力はある。そこへさらに四人の信頼できる従者がいる。そして今は俺達もいるのだ。
この状況で彼女を暗殺できるだけの力があるのならば、何処かの国を落とすこともできるだろう。
暗殺しに来た者達の死体は、そのまま晒させてもらった。
リーラが王となることを認められずに殺しに来た。当然の結果である。そしてこれは大々的に公言していた。刺客を送り込んできた貴族達への警告代わりとするために。
殺す前に情報も得ているし、その情報が正しいかどうかも調べさせている。これらは俺達の仕事ではなく、王に仕える者達の仕事だ。だから俺達は関与していない。
俺達は久しぶりに全員揃っていた。
クロ達はオーレン王国の軍を退けてすぐ、オルレア帝国軍を離れてこちらへ来ていたらしい。
なので城下町に滞在してリーラ達を守りながら、ゆっくりと皆で休暇を楽しんでいた。
残念なことに、リーラ達にゆっくりと休んでいる暇はない。
一週間程前に敗走したオーレン王国軍が帰って来ており、かなり慌ただしくなっているのだ。
なんと、今回は大敗だったらしい。俺はもう少しオルレア帝国軍が削られると思っていたのだが、思っていた以上に一人一人の兵の質に差があったようだ。
クロ達によって戦場を掻き乱されたオーレン王国の軍は、殆ど数の差を活かすことができずにいたらしい。
さらにオーレン王国の敗戦が目に見えるようになったことで、予想通り西方の国が動き出したようだ。今はちょっかいを掛けて来ている程度だが、王都では兵を集め始めているらしい。
さらに国境付近の街にも兵士が集まって来ているとか…。
これらの情報を集めているのはプロキオン商会の者達だ。彼等はオーレン王国やオルレア帝国以外にも商品を運んでいる。そのため、周辺国の情報を集めるのには適していた。
まあ情報を集めるために、情報網を作るために商会を作った一面もあるが……。
流石に一商会では、詳細までを探ることはできない。しかし、兵士を集めるといった隠していない情報は集めることが可能だ。
今回の戦争で、かなりの数の兵士が死んだ。俺の想像以上にオーレン王国の戦力が低下してしまった。詳細な情報を隠しているため、兵士を集めているに留まっている。だが実際は、今集めている兵士だけでも簡単に落とせる程弱体化してしまっているのだ。
北方から攻めた軍は五割の兵士を失った段階で撤退を開始。そのため、最終的には四割の兵士が帰って来ることができた。五体満足といかなかった者達もいるが…。
南方から攻めた軍は可哀想なことに、あまり良い指揮官に当たらなかったようだ。彼等は前線が崩壊しても無理に突撃し、八割近くの兵士を失ったという。帰って来れたのは後続にいた一部の冒険者とフランソワ家の兵士達だったらしい。
そして一番酷いのは西方から攻めた軍だ。俺の予想とは異なり、ビビアが相当頑張ったようだ。さらにオーレン王国へと向かった俺の邪魔をさせないため、かなり執拗に追い打ちをかけたらしい。おかげで軍は全滅と言ってもいいような状態となった。
西方の軍は本命の軍であり、規模も最も大きなものだった。そしてそこが壊滅したのだ。当然だが、オーレン王国にとって一番の痛手となった。
オーレン王国は国の殆どの戦力を今回の戦争に投入した。そして軍全体で見ると、国に戻って来れたのは二割にも満たない。
当然全員が殺された訳ではない。オルレア帝国側に捕まった捕虜もいる。しかし、今回は大軍対大軍での戦争だ。
オルレア帝国側にしても、あまり多くの兵士を捕らえておく訳にはいかない。移送や食料等といった維持費も馬鹿にならないからな。そのため、捕虜となった者達はあまり多くはない。
オーレン王国とオルレア帝国に挟まれた国家群は、全て帝国へと吸収された。軍を追い返して体勢を整えた後、オーレン王国へと進軍を開始したためだ。
そして今はオーレン王国との国境沿いで止まっている。そしてその一部だけは王都へと向かっている。その中には皇帝もいた。一週間後にリーラ達と皇帝は交渉の席を設けることになる。
これからの交渉結果次第では、国境沿いにいる軍がそのままオーレン王国内に雪崩込んでくるのだ。
俺達はその場に同席するが、交渉に参加するつもりはない。あくまでもこれは国のトップ同士の話し合いだ。
信頼ができるかは別として、リーラには政治に関して優秀な者達が付いている。国内に残っていた貴族や、他の王族や使用人と共に軟禁されていた宰相等だ。
俺は政治のことに関しては何も分からない。俺もこの世界では貴族だったようだが、リストア家の者達に嫌われていたこともあり、何も学ばせてもらえなかったのだ。
なので貴族でありながら、貴族として必要な知識は何も持ち合わせてはいない。
今回はただいるだけ。だが、それでもオルレア帝国の者達へ戦力としての抑止力にはなるだろう。話を聞く限り、今回の戦争で皆かなり暴れたようだからな。
リーラは今、交渉の席を用意する以外にもやることが山積みとなっている。その中に、自身の周囲へ付ける者達。つまり味方になる者達の選別も含まれていた。
シルベーヌをその際に独立させたようだ。彼女は同じフランソワ家だが、伯爵として独立した。つまりフランソワ伯爵家の娘ではなく、シルベーヌ・フランソワ伯爵となったのだ。
さらに本家であるフランソワ伯爵家は、戦場で生き残っただけでなく貴重な冒険者を生存させたとして侯爵家となった。
まあ、シルベーヌが本家と同じ伯爵になっては問題だからな。
今回の件はかなり強引に話を進めたようだ。シルベーヌは戦場にすら立っていないからな。
それでも押し通さなければならない程、今のリーラ達にとって信頼できる優秀な者達は少なく貴重な存在なのである。
こうして面倒事を避けた俺達が休暇を楽しんでいる間に、刻一刻とオルレア帝国との交渉という、オーレン王国最大の山場が近付いて来ていた。




