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第八十一話 最後の四天王


 リーラ達と別れ、一人で広大な城の中を歩き回る。


「ここにもいないか……」


 彼女達から教えてもらった国王の自室や執務室を見て回ったが、何処にもそれらしき影は見当たらなかった。

 俺達の目的は城の奪うことではない。恐らく魔族と関わっているであろう、この国の国王を討つことが目的だ。

 もしも隠し通路等があり、俺達の知らない間にすでに逃げられていたら…。

 この国を得ることは可能だろうが、不穏分子がいつまでも残ってしまう。それでは、俺も安心してスローライフを送ることができない。


「あれは…?」


 数分歩き回っていると、開けた庭に人影が見えた。

 今は使用人すら一切見かけない城だ。間違いなく国王かそれに関係する者だろう。

 そう考えて近付いていくと、人影は二つあることに気付く。


「一人は国王だよな……」


 一度も姿を見たことはないが、リーラ達からある程度の特徴は聞いている。

 そのため、間違いないだろうという確信は持てる。

 だが……。


「すでに手遅れか…」


 国王は全くと言っていい程体を動かさない。瞼一つ動かさず、その表情を変えることもない。その顔には生気が一切なく、すでに操り人形と化していることが分かる。

 しかし、城内にいた三人の兵士のような悪魔の呪い(デモンズカース)に憑かれた様子はなく、本当にただ操られているだけなのだろうと感じる。

 そしてそんな国王の近くにいるもう一人。

 そいつは見たことがある相手だった。かなり見た目は変わっているが…。


「四天王、陰術の悪魔か」


 俺がそう言いながら出て行くと、相手がこちらを見た。

 まるで、今気付いたというかのように。


「懐かしい名前だ。貴様は何者だ?」


 やはりそうか…かなり風貌は変わっているが、四天王の一人だったようだ。

 四天王、陰術の悪魔。

 ゲーム内で四天王の一人として登場した敵だ。

 奴は四天王の中では最弱。裏から魔物や魔族を操り、何度も勇者パーティーの邪魔をしてきた暗躍が得意な悪魔だ。

 四天王の中では最弱と言うだけで、本人もある程度の力は有している。

 だがしかし、奴だけは魔王城攻略戦に参加していなかった。

 他の四天王達は魔王城攻略の際に倒したが、一人だけ魔王城に辿り着く前に戦ったのだ。暗躍している四天王の居場所を突き止め、退治するという形で。

 その結果、用意周到な奴は勇者パーティーに負けても逃げ延びた。討たれる前に潜んでいた研究所を爆破し、それに乗じて逃げ出したのだ。

 それ以降奴からの邪魔はなくなり、完全に居場所の特定ができなくなった。

 ゲームでは魔王を倒した後、エンディングが流れる。そのエンディングムービーで勇者達は国の英雄として凱旋するが、その後に奴がどうなったのかは語られなかった。

 この世界の勇者の物語にも四天王達は出てくるが、勇者達の記録に逃げた陰術の悪魔を討伐したといった記録は書かれていなかった。

 今まで生き延びていたのだ。いや、生き延びたと言っていいのだろうか。

 奴の現在の姿は骸骨。明らかに生命を捨てた見た目をしていた。


「あの三人を倒したのか? それとも仲間を犠牲にして抜けて来たのか……?」


 奴はブツブツと言いながら考え始める。一見隙を晒しているように見えるが、そんなことはないだろう。


「いつまで一人芝居をしているんだ?」

「一人芝居だと? いや、まあいい。あれだけ隙を晒しても来ないのだ。気付かれているのだろうな」


 そう言って奴は肩を竦めた。

 依然として国王は突っ立ったまま。全く動きを見せない。


「やはり操った死体で視界の共有ができるのか」


 国王は一切動かないのだが、こちらに向いた瞳だけは常に俺へと固定されている。

 そして用意周到な奴のことだ。こんな何もない場所にいたということは、すでに周囲へ罠を用意してあるのだろう。

 奴はまだ俺に気付いていない。そう思って奇襲を掛けようと飛び出すと、手痛い反撃を受けることになる。


「ネタが知られたら、この傀儡は役には立つまい」


 そう言った途端、国王がその場で崩れ落ちる。


「私はもう陰術の悪魔ではない。不死者の王であるリッチになり、寿命を超越した私はこの数百年間自分を鍛え、研究を続けた。今では魔王様と同等…いや、それ以上の力を持っている!!」


 興奮気味にそう語る陰術の悪魔。悪魔の呪いを自由に人間に与えることができるのは、研究の成果という訳か。それに、リッチは不死者の王。死体を操ることができる能力は、奴の暗躍が得意というスタイルと相性が良いだろう。


「私のところまで来たのは見事だが、残念ながら貴様は死ぬ運命にあるのだよ」


 そう言ってこちらへ指先を向ける。


「フレア」


 指先から俺を焼き尽くさんとばかりに炎が放たれる。


「行くぞ!」


 飛んでくる炎を躱し、そのまま奴との距離を詰める。罠は関係ない。炎の影響で、周囲の罠の殆どが使えなくなっている。すでに気付かれているから捨てたのだろうが、おかげで楽に近付けるようになった。まあ、罠があっても気を付ければ問題ないのだが…。


「おらぁぁっ!!」

「ッッ!?」


 まさかここまで簡単に距離を詰められるとは思っていなかったのだろう。

 奴は咄嗟に後ろへ跳んだ。


「そうであった。私には効かぬよ」


 後ろへ跳んだ奴は俺の大剣を回避しきれなかった。そして俺の大剣は奴の右腕を斬り付けたのだが、ダメージは一切ない。不死者には打撃等の攻撃は効き難いのだ。効き難いというだけで、効かない訳ではない。

 だが、奴も元々最弱とはいえ四天王。ただ斬り付けただけではダメージを与えられないようだ。


「アイススパイク」


 奴へもう一度叩き付けてやろうと思い、飛び出そうとした俺の足元から氷の棘が出現する。

 俺は右に跳んでそれを回避し、大剣を構え直す。

 奴の攻撃は魔術とは異なった力だ。そして、陰術の悪魔時代そして現在のリッチの使える攻撃を用いることができる。手札が多いというだけで、かなり面倒だ。


「フレア、サンダーボルト」

「次…次と……」


 次々と放たれる攻撃を俺は淡々と躱していく。


「まだ近付いて来るか…。しかし、貴様の攻撃は私には通用しない」


 攻撃を躱しながら時には後退し、だが着実に近付いていく。


「アイテムボックス」


 俺は愛用の大剣をアイテムボックスへとしまい、一本の片手剣を取り出す。


「それはまさか!」


 俺が近付いても余裕綽々としていた奴が、俺の取り出した剣を見て慌て始める。


「遅い!!」


 距離を取ろうとするが、すでにかなり近付いている。今更逃がす訳がない。


「ガァァァッッ!!」


 俺の剣が奴の体を掠り、その瞬間叫び声が上がった。


「ウアァ……」


 呻く奴の斬られた体から煙が上がり、黒い靄が溢れ出ていた。黒い靄は不死者の血みたいなものだ。

 俺の持っている剣は不死者に特効を持っている剣だ。

 不死者以外にはあまり攻撃力は高くない。しかし不死者に対しては、見て分かる通りかなりの効果がある。


「クソッ! 聖剣か!!」


 奴は俺の剣を聖剣だと思っているようだ。聖剣は勇者が持っていた剣であり、不死者への特効ではなく聖なる力が付与された剣。

 その二つは似ているようでかなり違う。

 俺の剣は不死者にしか効かないが、聖なる力は普通の闇の力を持った悪魔や魔族等にも効果がある。

 ただし、勇者が持っていた聖剣よりも俺の剣の方が純粋な攻撃力は高い。


「それが貴様の切り札か……」


 先ほどまで苦しんでいた陰術の悪魔だが、突然笑みを浮かべた。


「確かに強力だ。しかし、私にも切り札はあるのだよ!」


 そう言った時、奴の背後に強大な力を持った悪魔が現れる。

 それは悪魔の呪いのようで、悪魔の呪いではない。悪魔の呪いよりもさらに禍々しい力を感じる。


「これが研究の成果だ! ただ人間に悪魔を憑かせるだけだと思ったか? 私は、自身にも憑かせることができる程の悪魔を生み出した!!」


 悪魔の呪いは自身よりも圧倒的な力を持つ者には憑りつかない。憑りつけないのだ。

 そのため、強力な魔物が悪魔の呪いに憑かれてさらに強力にとはならない。

 だが、奴の体に悪魔が憑りついていく。

 そうして四天王、陰術の悪魔は自身が悪魔でありながら悪魔憑きとなったのだった。

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