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第八話 襲撃


 俺達が森の中で待ち伏せていると、ペイルへ続く道から馬の蹄の音が聞こえてくる。そちらに視線を向けると、一台の馬車が六名の護衛を引き連れてやって来る。馬車の後ろにも同様に四名の護衛の姿があった。

 同じ鎧姿の者達とそうでない者達で綺麗に分かれている。後ろの四名は兵士ではなく、護衛として雇った冒険者なのだろう。魔物が溢れているので、現在冒険者は活発に活動している。余程いい報酬か低レベルの冒険者でない限り、雇うのは難しいだろう。

 装備で判別しようと思ったが、それはできなかった。距離がまだ遠いというのもあるが、冒険者のレベルが全体的に低いのだ。装備だけ高品質のもので自身は雑魚。そういった装備に頼った強さの持ち主が、三年の旅で多く見られた。

 冒険者はランクがF~Aランクまで存在している。Cランクで上級冒険者と言われるが、そのランクはパーティー全員を含めたものであり、レベル15四人組とかでもなれるのだ。英雄街道では冒険者はAの上のSランクが存在したが、こちらではないらしい。元々存在しないのか、Sランクになれるほどの者が存在しないのかは分からないが…。


「あの馬車で間違いなさそうっすね」


 隣にいたイルが呟くと同時に、弓に矢を番える。

 今回の作戦は至極単純なものだった。待ち伏せし、引き付けてから馬を射って足を止める。それと同時に俺とリリアが飛び出し、正面から彼等とぶつかる。

 さらに馬車の後方にはクロとシロが待機していた。こちらはどさくさに紛れて逃げられないようにするためだ。馬がいなければ、走って逃げたところで追いつけるのだが。後ろからクロとシロが襲い掛かってもいいが、ここにいる者を誰一人逃がすつもりはなかったため、後方の見張りを頼んだのだ。


「そろそろいくっすよ」


 イルが馬に狙いを定めて弓を引く。俺達はいつでも飛び出せるように身構えた。


「ひぃいひぃぃ!!」

「何だ!」

「どうした!?」


 見事に矢は馬を捉え、二頭いた内の一頭が悲鳴を上げながら倒れる。その拍子に御者をしていた男が御者台から転げ落ちた。


「敵襲だ!!」


 馬に刺さった矢を見てようやく理解した兵士が、後ろの冒険者にも聞こえるように大声を上げる。


「何だ貴様ら!」

「止まれ!!」


 俺とリリアが同時に兵士に襲い掛かる。止まれと言われて止まるはずもない。イルは森の中で場所を変えながら、後ろにいた冒険者を狙い撃っていく。


「がっ!」

「カーマイン様!!」


 俺の大剣が兵士の体を両断し、リリアも自身の持つ剣で斬り伏せていく。彼女は盾も持っているのだが、一度も使うことなくこちら側は終わってしまった。


「後ろも問題なさそうだな」

「はい。後は馬車の中の者達だけかと」


 馬車の後方には弓で射抜かれて倒れている者が四人。全員頭を撃ち抜かれていた。最初の一撃ならば兎も角、どの方向から狙われているか分かっている相手の頭を射抜くのはそう易々とできるものではない。

 彼女の技量ならば、気を抜いている時なら俺ですら一撃で射抜かれるかもしれない。そう思わせるくらいの力があった。


「がっ!」

「ひぃぃ」

「…」


 馬車の中には三人。いや、今殴り捨てた者を抜くと二人か。

 俺が馬車の扉を開けた途端に、男が短剣を持って突撃して来たのだ。まあ何の障害にもならなかった訳だが。

 女が震えて蹲り、それを守るように男が無言でこちらを睨みつけていた。こいつがカーマイン・アノーブルか。


「何だ貴様ら」


 こちらに尋ねてくるが、どうせ殺す相手に態々話してやる義理もない。


「終わりだ」


 そう言って大剣を突き刺す。


「くっ…ぅぅ」

「あ…ぁ」


 どうやら刃が男を突き抜け、背後に守っていた女にまで到達したようだ。

 大剣を引き抜き、動かぬ二人を背に馬車を降りる。


「ご主人様」

「ああ」


 リリアが両手を出してくるので、俺は彼女の手に大剣を乗せる。それを受け取ると、彼女は刃に着いた血を丁寧に落とし始めた。

 基本的に武器の手入れは彼女とイルがやってくれる。初めは使い捨てにしていたのだが、イルが手入れの方法を知っていたのだ。リリアも彼女に習い、今では使い続けても新品と遜色ない状態にまで戻る。


「次は屋敷ね」

「そうっすね。屋敷の方は邪魔する者だけ殺すんすよね」


 クロとシロがこちらへ近付いて来て、イルへと話しかける。


「ああ。全員、仮面を用意しておけ」


 俺の言葉に、皆が頷いて答えた。

 屋敷の中は全滅させる訳ではない。ターゲットは領主のみだ。目の前に出て来て邪魔をするのならば遠慮なく殺すが、遠くから顔を見られる可能性も十分にある。そのための仮面だった。今俺達の顔が広まり、リストア家への復讐に支障をきたす訳にはいかない。


「襲撃は今夜ですね」


 シロの言葉に俺は頷いた。



 黒く染まった空の下、俺達は屋敷の近くに集まっていた。仮面は先に潜入していたイルがこの街で用意したものであり、全員同じものを付けている。この仮面はこの街では誰でも手に入れることができるため、犯人の特定は不可能だろう。

 月明かりが照らす薄暗い中、目元だけ切り抜かれた真っ白な仮面を付けた五人。傍から見たら、非常に不気味な集団に見えるだろう。


「それでは、できるだけ人が少ないルートをお願いします」


 シロが屋敷内部を先導する役目のイルに言う。


「分かってるっすよ」


 イルが彼の表情を見て苦笑を浮かべながら答えた。

 彼は必要ならば、たとえ人だろうが殺す。俺が何を言わずとも、スラムの中で育ってきた彼はそれが必要だと知っていた。だが、不必要な殺しは好まないのだ。

 今回の件は俺のただの復讐だ。俺には必要なものだが、彼にとっては不必要な殺しに他ならない。俺はそれを知っていたので、この件は手伝はなくていいと言ったのだ。それは勿論、クロにも言ってあった。

 だが、二人とも手伝ってくれている。特にクロなんかは、俺の役に立てると勇んでいた。

 シロは今でも昔の出来事を引きずっているようだ。それは彼の行動を見ていればわかる。彼は山賊や盗賊といった存在を絶対に許さなかった。

 何処かに現れると聞いては、勝手に討伐に出向いていた程である。その行動と彼のイケメン然とした容姿から、彼に助けられた者達から勇者の再来とも言われていた。まあ、勇者は職業なので絶対に違うと言い切れるのだが…。

 彼が勝手にいなくなることにより、レベル50にするまで時間が掛かったのだ。本来なら、リリアとイルが上級職になる辺りでレベル50にするつもりだった。実際、クロはその時すでになっていたのだから。


「それでは…」


 イルが先頭に立ち、皆が屋敷へ向かって歩き始める。俺も思考を切り替え、その後ろを着いていく。


「止まれ!」

「何者だ!!」


 正門の前に辿り着いた。俺達は正門から堂々と入ることに決めていた。態々奇襲を仕掛ける必要もない。夜にしたのは、単純に領主の居場所を絞り易いからといった理由であった。

 門番の二人はすでに武器を構え、臨戦態勢を取っていた。仮面を被った五人組、というあからさまに怪しい集団なので当然である。だが、堂々と近付いてくる俺達に少し戸惑っているようでもあった。


「させませんよ」

「何!?」


 彼等の後ろ、一人の男が屋敷へ伝えに行こうとしていたところで、リリアに回り込まれる。


「くっ…嘘だろ…」


 後ろに下がったところで、彼は呆然と呟く。後ろからクロが近付いて来たからだ。当然クロが来たということは、途中にいた門番二人はすでに倒されたということ。


「かっ」


 喉を切られてそこから鮮血が噴き出し、彼は後ろへと倒れる。


「やっ!」


 クロがそれを見て、悲鳴を漏らして後ろに跳び退った。


「汚いじゃない!」

「すみません」


 彼女の怒声に、リリアは言葉だけで答える。彼女が頭を下げずに謝罪の言葉を述べる時は、一切謝る気がない時であった。つまり、彼女は分かっていてやったのだ。


「こんな場所で喧嘩するな」


 俺が諫めると、クロは仕方なくといった様子で引き下がる。


「それでは行くぞ」

「こっちっす」


 俺の言葉と共を聞いてイルが先行する。その後ろをクロが一番に着いていく。




「はぁ…子爵家ではこんなものか」


 俺は溜息と共に目の前の男を見る。右肩から左脇腹へと流れた俺の大剣によって、彼の体は上下に別れていた。

 屋敷の中で対峙した兵士は十人程度しかおらず、簡単に領主の下まで辿り着けてしまったのだ。勿論イルの正確な情報によるものも大きいが、練習としては役に立たない。

 リストア伯爵家は兵の数も屋敷の大きさも数倍はある。兵の質もそうだが、確か懇意にしている冒険者のパーティーがあったはずだ。

 要は貴族のお抱えと呼ばれる冒険者であり、すぐに駆け付けることができるようにはしているはずである。お抱え冒険者は、貴族が自ら声をかけて雇い入れるのだ。そのため基本的には高ランク冒険者であることが多い。


「誰一人逃さず復讐を果たすためには、もう少し人数を増やした方がいいか…」

「どうしたの?」


 俺の独り言が聞こえたのか、隣を歩くクロが尋ねてくる。


「…少しな」


 そう言いながら彼女の頭を軽く撫でる。彼女は嬉しそうな表情を浮かべ、さらにこちらへ近付いて来た。

 リストア家への復讐の前に、戦力をもう少し補給しないとな…。そのようなことを考えながら、騒がしくなり始めた屋敷を後にした。

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