第七十九話 オーレン王国王都
酒場で周囲の声に聞き耳を立てながら、テーブルに並べられた料理を食べる。
「面白くない…」
「何がだよ」
「退屈だって言ってんだよ」
「仕方がないだろう……」
近くにいる冒険者達の話声が聞こえてくる。
彼等はどうやら、戦争に付いて行きたそうにしていた。退屈だと言っていた冒険者の男は、ゴブリンの討伐部位をいくつか腰に下げている。
ゴブリン程度の魔物しか狩れないような冒険者が何を言っているんだ、と話を聞きながら思った。だが、実際は違うようだ。
彼等はCランク冒険者であり、ゴブリン以上の魔物とも戦える。しかし、Cランク以上の討伐依頼がかなり少ないようだ。そのため、自分達の実力に合わないゴブリンを討伐していたらしい。
戦争のために兵士や冒険者が大勢街の近くを通った。その行程でCランク冒険者が狩れる魔物は殆ど狩られてしまい、さっさと逃げ出した低級の魔物しか見つからないようだ。
「リーダーが参加しないって言うから…」
「それも仕方がないだろう。それに、行くなら勝手に行ってもいいと言っていただろ?」
彼等のリーダーが、戦争に参加しないと言ったらしい。冒険者にとって戦争への参加は自由。だが、かなりの数の冒険者は戦争へと参加する。
戦功を立てた際の報酬が大きいからだ。
しかし、戦功を上げるためにはある程度の実力。または、相当な運が必要となる。
そして戦争は、低ランクの冒険者ほど参加する傾向にある。彼等の実力で普通に稼いでいては、生活が安定しないからだ。一種の博打である。実際に戦争で上手く立ち回り、自分の実力以上の戦功を上げて、かなり稼いだ冒険者は存在する。
今回は周辺国を巻き込んだ、圧倒的な戦力差の戦争だとオーレン王国の者達は考えているようだ。そのため、過去の戦争以上の数の冒険者が参加しているらしい。
実際に俺が手を貸さなければ、オルレア帝国はオーレン王国に一方的に負けていただろうと思うほどの戦力差があった。
「暢気なものですね」
俺の対面に座るリーラが聞こえてきた会話の内容に呆れた声を出す。
オーレン王国に潜り込んでから、リーラと従者の四人は回収していた。王都へ連れて行き、共に国王を倒そうと考えていたのだ。この後の俺が考えている展開につなげるために。
彼女は俺達が参加したことにより、オーレン王国とオルレア帝国の戦争は勝敗が確定していると思っているようだ。俺としても色々と準備もサポートもしてきた。負けるつもりは毛頭ないが、絶対に勝てるとまでは思っていない。
「仲間はもっと必要だよな……」
「?? どうかしましたか?」
俺が咄嗟に呟いた独り言は、リーラの耳にまでは届かなかったようだ。
今回の戦争で俺は仲間の少なさ、手の少なさに改めて気付いた。クロ達は一騎当千の猛者だが、所詮は一騎当千であり、今回のように万の軍を一人で相手にできる程ではない。
さらに防衛戦ともなれば、敵が攻めて来る全ての場所を防ぐ必要がある。今回はオルレア帝国の兵士がいたためにその辺りは問題なかった。
だが、俺達だけでは帝国を守ることはできなかっただろう。それだけ敵の内部で暴れても、無視して進まれれば全てを止めることができない。
それに何より、俺達もスタミナが切れる前に敵軍から脱出する必要がある。
一騎当千以上の働きができるであろう魔導士。今回の場合はビビアだが、彼女でも数千程度の数を倒せる程度だろう。
魔導士は遠距離戦に強いが、近付かれれば弱い。それに魔術の攻撃範囲も決まっているため、効率よく多数の敵を倒すには自身の近くへと敵を入れる必要がある。
ビビアはそれほど戦闘慣れしていない、元農民の娘だ。流石にそこまではしないだろう。であれば、魔術の本来の実力を全て発揮できない。
仲間を皆一箇所に纏めることができれば、オーレン王国の軍は俺達だけでも追い払うことはできたかもしれない。だがそれでは、他の二方向から進軍して来た軍によってオルレア帝国の帝都が落とされてしまう。
三方向に分けた結果、一つ一つの実力は小さなものになってしまった。今回は仕方がなかったと思っている。思っているが、やはり自分達の自由を守るためには人数を増やすべきだ。
オーレン王国へと入ってから三週間もかからない内に、俺達は王都へとやって来ていた。
その間にいくつかの町や村を通って来たが、何処も普段と変わらない生活をしていた。やはり国民全てが、今回の戦争は勝つと確信しているようだ。
俺はオーレン王国に入るまでは、冒険者の仕事をしながら近付いていた。そのため無駄に時間が掛かったのだが、オーレン王国に入って以降は普通に移動している。
国の兵士の殆どを戦場へと向かわせたのだ。防衛力はかなり落ちているはずだが、あまり警戒しているようには見えなかった。
単純にこの国の者達の考えが甘いというのもあるが、貴族達は自分達のいる街、さらに言えば屋敷には戦力を隠して配置していたのだ。国に隠して戦力を残す。そのため、人数自体はそれほど多くはなかったが。
自分達が安全ならば問題ないと考えているのだろう。屋敷だけを守っている様子を見ると、考えていることが即座に分かってしまう。
そして王都はさらに警戒が笊だった。城の中には、情報にあった謎の兵士が三人いるのだろう。だが、城下町に警備の兵士が一人もいない。貧民街がすぐ側にあるにも関わらずだ。
一応城壁が隔てており、簡単に入ることはできないようになっている。しかし、それさえ突破してしまえば貧民達の暴動が起きる可能性が十分にある。それを分かっていないのだろうか……。
いや、分かっていないのだろう。
兵士がいないので、少しくらい大胆な行動をしても問題ない。
そのため、高レベルによる身体能力を活かして堂々と城壁を上って抜ける。
「本当に父上は……」
王都の現状を見てリーラが悲しそうな顔をする。そしてそれを見た従者達は、リーラのことを慰めようと口を開きかける。
「私が何とかしなければ!」
気合の入った彼女の声。気持ちを入れるために言った一言なのだろうが、その一言を聞いた従者達が開きかけた口を閉ざす。
彼女自身が、自分で成長しようとしている。それを邪魔しないようにと考えたのだろう。
先ほどのリーラの一言は、自身に王族の血が流れている。自分も王族だから言った一言。王都から追い出されたのに、彼女はこの国をどうにかしようと頑張っているのだ。
「一人じゃないだろ」
「……っ!」
俺の言葉を受け、彼女は周りを見回す。
リーラに付いて来た四人の従者。そして俺へと視線を向ける。
「そうですね。私には仲間がいます。そして何より、セイン様がいます」
彼女の表情には、突如として自信が現れた。先ほどまでは頑張ってどうにかする、といった様子であったのに。
一度彼女達の窮地を救ったことがあるからか、俺ならどうにかしてくれると思っているのだろう。俺への信頼が篤過ぎる気がする……。
だがしかし今回の戦争。俺が思った通りに進めば、彼女にとっても最高の形で終えることができるだろう。
そのためにも…仲間のためならば、俺もとことん頑張ってやる。
他の王族や貴族が不幸になるとしても、それでリーラ達が幸せになるのならば全力を出す。
「行くぞ」
「「「はい!」」」
気合を入れた後、俺達は城下町を抜けて警備がいない城へと向かうのであった。




