第七十七話 悪夢との再会 ~パロイア視点~
「はぁ…どうしてこうなっちまったんだ」
「仕方がないだろ。流石にあの場で断ることなんかできねぇよ」
パーティーメンバーのナルクが愚痴り、それをザンダが止める。
「そうよ。貴族だけならば兎も角、これだけ平民からも英雄視されてたら断れないわよ」
溜息を吐きながら、ワリアナもザンダに同意する。
俺達は今、オルレア帝国を攻めるために南方軍に従軍していた。
別に好き好んで戦争に参加した訳ではない。
切っ掛けは……俺達の冒険が狂い始めたのはゴブリンキングの事件が原因だった。
ゴブリンキングを討伐した者はどうやら冒険者登録をしたばかりの者達だった。それもたった三人で来ていたが、冒険者として登録していたのは二人。それも、どう見ても子供である。
俺達が説明しても納得してもらえず、結果俺達がゴブリンキングを討伐した英雄として祭り上げられてしまった。
何を言っても信じてもらえず、俺達の噂だけは続々と広まっていった。そして民衆からは、英雄として称えられてしまう。
それだけならば、まだ何とかなったかもしれない。俺達は英雄と称えられてはいたが、ゴブリンキングの討伐でCランクになった冒険者。さらに言えば実態はただのDランク冒険者であり、実力もDランク相応の実力しかない。
そのため、いずれは英雄として称えられなくなる。一過性のものだと考えていた。
しかし、そこに新たな事件が起きた。
なんと、リストア伯爵家が何者かによって襲われ、家にいた者が全員皆殺しにされたのだ。
ただの暗殺などではなく、襲撃による皆殺し。それも伯爵という大きな貴族が殺された。これにより、リストア領の領民や貴族等にとって英雄の存在は必要となった。
そこで、オーレン王国から公式に俺達が英雄と公表されてしまったのだ。こうなってしまっては、時間が解決するということはなくなってしまった。王家が英雄の存在を必要とし、俺達へと目が向いたのだから、俺達がどのような存在であろうと英雄として飾られる。間違いなく、逃がしてはくれない。
その後、何とか普通の生活を送ろうと努力していたが、今回のオーレン王国とオルレア帝国の戦争である。
大国同士の戦争ということで、国民は不安を募らせていた。実際は周辺国を動かしたオーレン王国と、単独のオルレア帝国。戦力差は圧倒的なのだが、戦いを知らない国民にとっては関係のないことだった。彼等にとっては遠い話であり、近くにいる英雄…つまり俺達の戦争参加が望まれた。
冒険者の戦争参加は自由なのだが、俺達は国王陛下に直々に頼まれてしまった。強制はできないので内容は希望者は戦争に参加できるという手紙だったが、俺達に直接手紙を出すということは、実質そういうことだろう。拒否なんてできるはずがない。
そういう訳で従軍している訳だが、俺達がいるのは後方だった。
強制的に参加させられたようなもの。そんな状況で士気が上がるはずもなく、パーティー全員やる気があまりない。
勿論死にたくはないので、戦争が始まれば死にもの狂いで戦うことになるだろうが…。
俺達が後方にいる理由は、英雄と呼ばれる俺達を妬んだ者達による仕業。特に今回は、第一王女自らが軍を率いているのだ。
彼女はこの大きな戦争で戦功を上げたいようだ。そして彼女の隣には、ガルド侯爵が付いている。普段は貴族自らが前線に出ることはないので、恐らくは彼女のサポートとして共に来たのだろう。
そしてガルド侯爵が王女の前で功を上げるため、俺達を後方送りにした。
彼は英雄視されている俺達が気に食わないのだろう。そして、そんな俺達に功を取られたくはなかった。だからそうしたのだが、こちらとしても有難い話だった。
有難いと言っても、完全に敵意を含んでいたので感謝はしないが…。
そして、俺達の他にも後方送りにされた者達がいた。
「父上! 我々も前に出るべきです! 侯爵とはいえ、戦場に立ったことすらない者がまともに指揮を取れるとは思えません!」
「そうだとしても、我々は伯爵でガルド殿は侯爵。特に今回は、命令違反を犯す訳にはいかない」
「そうですが…このまま後方にいては戦功を上げることができません!」
「チッ! 家の役に立てない妹の分際で、どこまで迷惑を掛ければ気が済むんだ!!」
妹が戦争へ参加するのを反対したとかで、俺達と同じように後方送りにされたフランソワ伯爵達だった。
フランソワ家は戦功を立てて成り上がった貴族であり、今回はかなり大きな戦争。この機にさらに戦功を上げるつもりだったようだ。
しかし、何処かから戦争への参加反対の件を聞き付けたガルド侯爵が、それを理由にフランソワ家の者達を後方送りにしてしまったのだ。
伯爵の側で喚いている二人は、恐らく長男と次男だろう。
どっちがどっちかは分からないが、片方はかなり焦っており、もう片方は焦った様子はないが妹への罵倒が止まらない様子。
家族相手にそこまで言うのかというほどであり、やはり貴族社会は面倒だと改めて実感する。
彼等の会話を聞いたパーティーメンバーも、先ほどまでの言い合いが嘘のように静かになっていた。
そして小競り合いが何度か起こり、オーレン王国側はその数の差を活かして優位に争っていた。
「本格的な戦争が始まる!! 皆の者、武器を取れ!」
王女の言葉に声を上げる兵士達。先ほど本隊と思わる部隊が敵の部隊に合流したのだ。それを見た者が、本格的な反撃が始まるだろうと予想した。そのため、こちらも全軍で進軍して迎え撃つようだ。
「伯爵様、我々は後方支援ですか」
「そうだ。ガルド侯爵は、最後まで我々を前に出す気はないらしい」
俺が聞くと、伯爵はそう答えてくれる。俺達は戦争が始まった現在、伯爵の指揮下にいた。たった四人だけのパーティーで動いてもどうにもならないので、指揮下に入れてもらったのだ。
「おい、あれ見てみろよ」
「どうした?」
パーティーメンバーの中でも一番目が良い、ナルクが敵軍を指さす。
「何よ?」
「何だ?」
彼の視力は人一倍いいので、俺達には見えない。
「見えねえか。あそこにいるの、ゴブリンキングを倒した奴だ」
「「「何!?」」」
ナルクの言葉に、全員で声を上げる。伯爵達が何事かとこちらを見てきたが、まずは事実の確認が先だ。
ナルクに特徴を聞く。
二人いて片方は黒髪の女の子、もう一人は見覚えのない白髪の男らしいが、黒髪の女の子の方は特徴が俺の記憶にいる黒髪の女の子と合致する。
皆、軽いトラウマになっているので、間違えるはずもない。
「まさか、こんなところで出会うとは…」
「他の二人がいないけど、一緒にいる白髪の男もゴブリンキングを倒せるほど強いのかも」
「これはやばいぞ」
何故こんなところで…それもオルレア帝国側にいるんだよ!
勝てる訳ないだろ!!
「どうかしたのか?」
俺達が話していると、伯爵自らが聞きに来た。まさか伯爵自らこちらに来るとは思わなかったが、彼は戦場では部下の小さな気付き等も積極的に耳に入れるようにしているらしい。
一人で広大な戦場を隅々まで見ることはできないので、そういったものが気付きとなる場合もあるそうだ。
「実は…」
俺はパーティーリーダーとして、包み隠さず彼に話した。
「なるほど……」
流石に全てを信じてはもらえなかったが、それでも一考はしてくれている。
「ふん。英雄様が及び腰かよ!」
「嘘吐いてまで戦場に出たくないのか?」
彼の息子達からは罵倒の言葉が飛んでくるが、そんなもの気にしてられない。
相手はゴブリンキングを楽々と一人で討伐するような化け物なのだ。
「後方に居てよかったと思うことになるぞ…」
「逃げる準備はしておくか」
伯爵達が離れて行ったあと、ザンダとナルクはそう言った。
そして戦争は、予想の斜め上をいく展開となった。
敵が使った何らかの道具により、半数近くの兵士が一瞬で討ち取られてしまったのだ。
そしてやはり、あの二人が出てくる。彼等は近くのほぼ戦闘不能となった兵士を無視し、まだ元気な後ろの方にいた兵士に襲い掛かる。
そこにはBランク等の高ランク冒険者もいたのだが、関係ないといった様子で大暴れしていた。
「何だ!?」
「どうなっている!?」
展開に付いていけていない者達の声が上がる。
彼等がここまで来るのは時間の問題だろう。それまでに逃げなければ。
そう思い、俺が逃げようと仲間に言おうと思った時…。
「撤退だ!!」
フランソワ伯爵が大声でそう告げた。
俺が伝えたことが功を奏したのか、彼の判断は速かった。
踵を返し、できるだけ化け物から遠ざかるために全力で逃げる。
「ふざけるな! 俺はここで武功を上げるんだ!!」
「待て!」
皆が撤退する中、フランソワ家の息子の一人が飛び出した。さらに彼へと続く者達。
そして伯爵の制止する声を無視して、暴れ回る二人へと僅かな手勢と共に突っ込んでいく。
「終わりだな」
後方を確認した伯爵がそう呟く。
後方を確認すると、戦場から散り散りに逃げて行くオーレン王国側の兵が…。オルレア帝国軍は追撃を仕掛けてはいるが、後方に居て先に逃げた俺達は無事に逃げ延びたようだ。
そして数分後、オルレア帝国軍の勝鬨がここまで聞こえてきたのだった。




