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第七十六話 悪魔降臨 ~クロ視点~


 オルレア帝国の南方へ進み、国境付近までやって来た。

 国境付近で先に滞在していた部隊は、すでに満身創痍といった様子。何度かオーレン王国の軍から攻撃受け、防戦一方のまま何とか凌いでいたらしい。

 相対するオーレン王国の軍は、今は数キロ先まで引いている。かなり防衛していた部隊が小さくなっているらしいけど、全滅していないのは全軍で襲ってこないからだという。まだ相手も様子見といったところなんだろう。

 それでもかなり人数差がある戦いだったらしく、まだまともに戦える者が果たして部隊に何人いるのか…。

 次に攻撃を受けていたら全滅していたと、部隊の者達が口々に言う。


「俺達が来たから、心配するな」

「そうだぜ」

「そうだ」


 一緒にここまで来たオルレア帝国軍の隊長がそう言い、周囲の兵士も今まで頑張ってきた彼等を励ますように言う。

 隊長はオルレア帝国の騎士団の中でも副隊長を務めていた人物。それなりに人望もあり、実力も知られているはず。

 それなのに、励まされた兵士達は苦笑をするのみ。

 恐らく自分達は助からないと思っているんだろう。オルレア帝国の軍が負ける。彼等がそう思うのは、仕方がないことだと思う。

 大群の魔物と戦ったことがあるから分かるけど、数の暴力というものにはただそれだけで圧がある。たとえ敵がそれほど強くなかったとしても、数が多いだけで過剰に危険だと見えてしまう。

 それに何より、こちらの軍が合流したとしてもオーレン王国の軍の方が数倍の人数を有している。


「明日の朝、本格的に攻撃を開始する。それまでは待機していてくれ」


 行軍して来たばかりなので、すぐには進軍しないみたい。

 隊長の指示により、皆が身体を休める。数日後ではないのは相手が動いてくると分かるから。こっちの戦力が増えたことは、流石に向こうも気付いている。

 行軍して来たばかりの部隊を休ませるほど、彼等は甘くはないだろうという判断だ。

 常時相手の動きを把握するため、常に数人の兵士がオーレン王国の軍を監視している。


「一応何かがあった時にすぐ対応できるようにしてろよ」

「分かってる。少人数で奇襲を仕掛けて来たら、返り討ちにしてあげる」


 シロが注意をしてきたので、そう返す。

 周囲の兵士達がそれを聞いて頼もしそうしている中、元々ここにいた部隊は見慣れないクロ達に困惑している様子。

 そして周囲の兵士達からクロ達のことを聞き、驚愕した表情を浮かべていた。


「クロが敵全員斬ってあげる」

「頼むぞ!!」

「よっ!」


 本気にしていない様子で、兵士達が声を上げる。

 とても不快…不愉快。だけどクロ達の実力を知っているので、そこに馬鹿にしたような雰囲気は含まれていない。

 馬鹿にしていたらクロの強さを体に刻み込んであげたのに…。クロは大人だから、これくらいでそんなことはしない。


「良かったですね。オーレン王国と戦う前に全滅しなくて」

「はは…そうだな」


 シロの軽口に、隊長が苦笑で返す。彼は本気でクロがそんなことをすると思っていたのか、冷汗まで流す始末。本当に失礼な…。

 シロは完全にクロのことを馬鹿にしているので、後でお仕置き決定だけど……。






 そして翌朝、こちらが進軍したのを見てオーレン王国の軍も進軍して来た。それも、今度は全軍で迫って来ている。

 ん? 何か一箇所だけ、少し遅れているところがある。

 軍が固まって動いている中、一部隊程が後続との距離を開けて進軍していた。遅れているというよりも、わざと距離を開けているという感じ?

 よく分からない。


「何かの作戦かもしれない。あの部隊には警戒しておいた方がいいかも」


 シロに聞いてみたけど、クロと同じで何故かまでは分からないらしい。一応警戒はしておくけど、戦いが始まればその部隊が何処にいるかは確認できなくなる。

 後方から確認してもらうか、一気に敵軍を抜けて先にその部隊を潰すか……。


「取り敢えず、今は目の前の敵に集中いた方が良い」


 隊長もそう言った。圧倒的に人数差が開いている状況で、全ての敵を把握するのは難しい。なので警戒はするけど、取り敢えず今は無視という考えに至ったらしい。


「魔導士達よ!」


 隊長の掛け声で、魔導士達が前へと出る。オーレン王国の軍でも、同様のことをしている。まずは魔導士達の魔術の撃ち合いが始まった。

 クロからしたら、どの魔術も弱すぎる。全く話にならない。

 だけど、隊長も周囲の兵士もこれが普通という表情をしている。大魔導士であるビビアの魔術を見慣れているクロ達の感性がおかしいのだろう。

 セインなんてクロより近接戦闘が強いのに、ビビアと魔術でも渡り合えるというのに…。


「これなら、ビビア達は余裕でオーレン王国の軍を潰せるだろうね」

「そうでもない。流石にビビアでも、数万の兵士を相手にしては魔力切れになるだろう」


 クロの言葉をシロが否定する。

 クロはビビア達と言った! 誰も、ビビア一人で全滅させるとは言ってない!


「まあ、リリアやデールもいるし問題はないだろう」


 不服だったので視線を送っていると、シロがそれに気付いたのか言い訳するように言ってきた。

 いつもクロのことを馬鹿だと言ってくるけど、今回はシロが悪いのに…。今、少しイラッとした。


「そろそろ魔力切れか…」


 隊長がそう呟いた数分後、こちらの魔導士達が攻撃を止めた。魔力切れとなり、魔術を使えなくなったようだ。

 やっぱり弱すぎる。威力も距離も、範囲も全てが弱い魔術。その上、撃てる回数も少ないなんて…。

 だけどオルレア帝国は実力主義なだけあって、オーレン王国よりはマシだった。

 こちらの魔導士達が魔力切れになる数分前には、向こうは魔術が止んでいた。そして一方的に魔術を撃たれていた。

 そしてようやく両軍が再び動き出す。これから接近戦へと移行するのだ。

 一方的に攻撃されていたオーレン王国側は、ようやく攻撃に移れると言わんばかりの速度でこちらへ近付いてくる。

 対してこちらの進軍速度が落ち、やがて止まった。

 オーレン王国側から見てみれば、こちらは待ち構えているように映っただろう。実際に数の差は圧倒的なので、ただ突撃するよりも固まって守り気味に戦う方がいい。

 だけど、今回は違う。


「今だ!!」


 隊長の声と共に、一斉に革袋がこちらへと向かってくるオーレン王国の軍へと投げられる。

 そして革袋が兵士の頭上や地面へと落下すると、戦場を真っ赤に染め上げた。


「何だこれ!?」

「目がっっっ!!」

「痛ぇ!」


 オーレン王国側の軍が阿鼻叫喚となる。投げたのは悪魔の血液。

 デッドペッパーを使ったセイン特製の武器は、オーレン王国の兵士達にその牙を剥く。


「ごはっ!」

「げほっ! ごほっ!」

「い…きが…」


 最初に浴びた兵士達が、その場に次々と倒れて行く。

 訓練場ではこの武器は痛みを与えたり視界等を奪うだけの武器だったんだけど、今回はさらに酷い展開となった。

 多量だったため、悪魔の血液は空気すら真っ赤に染め上げた。

 それを吸ったオーレン王国の兵士達は、喉や肺をやられて呼吸すらまともにできていない。

 白目を剥いて倒れる兵士。泡を吹いて倒れる兵士。中には苦しみのあまり、漏らしてしまっている者達も。

 まだ距離があるため、こちらまでは来ていない。だけどもしこっちにも真っ赤な空気が来たら、確実にこちらの兵士にもダメージが来る。

 それ以前に、クロがあんな危険なものを吸いたくはない。


「風の魔術を使え!」


 隊長の言葉で、魔導士達が風の魔術を使う。魔力が殆ど残っていないので、ちょっとした風程度の弱い魔術。それでも、真っ赤に染まった空気がオーレン王国側へと流れて行く。

 そして悪魔の血液が染み込んだ空気が霧散した頃には、三分の一近くのオーレン王国兵が倒れていた。

 流石セイン。吸い込んだりしなくとも、目や鼻の粘膜に染み込んでとか言っていた。よく分からなかったけど、とんでもない武器だ。倒れていない兵士の中でも、目を押さえている者、涙を流しながら鼻を押さえている者等、戦力になりそうもない兵士も数多くいる。


「突撃!!」


 一瞬で戦線が崩壊したオーレン王国側へと、オルレア帝国の軍が突撃を開始。


「クロが一番!!」

「流石に一人は危険だろ」


 殆ど戦闘不能と化している兵士達は無視して、距離的に悪魔の血液の被害を免れた部隊へと切り込む。 クロがオルレア帝国の兵士達を追い抜いてオーレン王国側へと攻撃を開始すると、シロが守るように近くで戦い始める。

 相手が弱すぎて守られる必要はないけど、後ろを気にせずに戦えるのは楽なので放っておくことにした。

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