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第七十五話 敗戦 ~ルストレア視点~


 父上の命を受け、僕達はオルレア帝国との戦争で前線へと赴くこととなった。父上は王族である僕達に、この戦争で戦果を挙げて欲しいのだろう。

 成果を出すことで、僕達の代も安心できると国民に思わせることができる。

 僕は長男であり、順当にいけば父上からこの国を継ぐこととなる。

 父上が過保護だったこともあり、僕は未だに父上の後ろを着いて行くことしかしていない。御披露目等の時にも、父上が用意を全てしてくれたのだ。おかげで国民は僕の名前を知っていても、僕がどのような人物かは知らない。

 一部の貴族からは、僕達が前線へ出ることに反対するという意見もでた。理由は単純で戦場は危険だからだ。特に僕は国王を継ぐ者。他の弟妹達と比べ、反対意見は多かった。

 オルレア帝国との戦争。大国同士の戦争だ。貴族同士の小競り合い等と比べ、当然だが比較にならない程激しい戦いとなるだろう。

 戦死する可能性だって零ではない。しかしだからこそ、僕達が大きな戦果を挙げるには確実な方法となる。

 それに大国同士とはいえ、オーレン王国側は周辺国の協力も得ている。その兵士の人数差は圧倒的であった。その上今回は、あの有名な雷槍の魔女の協力も得ている。

 人数差をひっくり返す要素である魔導士。その魔導士においても、雷槍の魔女がいる限りこちらの方が上。負けることなど、あるはずがない。絶対にあるはずがない。

 そう思っていたのだが……。


「何が……」

「ルストレア様! 雷槍の魔女が討ち取られました!!」


 目の前の光景が理解できない。

 僕の側にいる男。この軍を指揮する、大隊長であるデブリアが僕へと報告をする。

 雷槍の魔女は大魔導士まで上り詰めており、この周辺では最も強い魔導士だ。魔導士の魔術は、ただの魔導師と比べて威力や範囲、距離と全てが勝っている。遠距離で戦う魔術戦において、こちら側が一方的に攻撃するはずだった。

 それが、敵の弓兵に討ち取られたのだ。普通、遠距離戦に弓兵は出て来ない。矢が届く距離よりも魔術が届く距離の方が長いため、一方的に攻撃されるからだ。

 そのはずの弓兵が、雷槍の魔女の攻撃範囲よりも遠い場所から矢を届かせた。それも、魔女の防御を破る程の威力の矢を。

 そんなこと、有り得るはずがない。


「ルストレア様!」

「あ…ああ」


 デブリアに肩を揺すられ、少しだけ落ち着きを取り戻す。


「どうしますか……」

「どうすると聞かれても…」


 流石はデブリア。彼はオーレン王国でも、王国兵の二番隊隊長を担うほどの人物だった。このような状況になっても、冷静さを保てているらしい。

 それに比べ、僕は戦場に一度も出たことがない素人だ。楽勝だったら問題ないが、このような状況で指示などできるはずもない。


「デブリアならばどうする?」


 僕が良い考えを思い付くはずもない。それならば、大隊長であるデブリアに考えてもらうべきである。


「私ならば突撃します」

「この状況でか!?」

「勿論耐え忍んでからです。ですが、撤退はしません」


 撤退をしない?

 こちらの魔導士は殆どが敵の弓兵に討ち取られ、今は一方的に魔術を撃たれている。こちらは攻撃できない以上、数を減らすだけだ。犠牲が増えるだけだと思うのだが…。


「魔術はそう長く続きません。魔導士の魔力が切れれば、それこそが好機。強力な弓兵など、人数を前には無力です」

「なるほど」


 確かに、魔力が切れれば接近戦を余儀なくされる。そうなれば、こちらにも勝機が生まれる。


「しかしそれならば、一度撤退してもいいのではないか?」

「いえ、それでは敵に内部へと侵入されてしまいます。そちらの方が沢山の兵を魔術で取られてしまうでしょう」


 魔術の範囲にできるだけ入らないよう、相手に距離を取ってもらう必要があるということか。流石はデブリア。これ以上の良案を、僕がどれほど考えようと思いつく気がしない。

 こうして僕達は、少しずつ数を減らしながら必死に敵の魔術を耐え凌いだ。


「今ですルストレア様!!」

「全軍突撃!」

「「「おおー!!」」」


 僕の号令で、皆がオルレア帝国の軍へと突撃を開始する。

 数を減らされはしたが、それでもまだこちらの方がかなり人数が多い。それに突撃によって乱戦になってしまえば、遠距離攻撃は味方をも巻き込むため使えない。

 勝算は十分にある。勿論敵の魔術攻撃を耐え抜いたこちらの軍の士気は、僕からの号令もあってかなり高い。


「それでは、私も行ってまいります」

「任せた」


 デブリアが味方の指揮を執るため、乱戦になっている場所へと突っ込んでいく。僕は此処で、安全な後方で見ているだけだ。

 前線と言っても、実際に兵士達と共に戦う訳ではない。王族としてレベルはある程度上げているが、それでも戦場で戦う兵士達と比べて低い。それに、実際僕が戦ったこと等一度もないのだ。そんな僕が一緒にいたところで、邪魔にしかならないだろう。

 所詮僕は味方の士気を上げるために派遣されただけで、後方で兵士に守られてただ立っていることしかできないのだ。

 一方的にこちらへと攻撃できた敵の士気も高かったが、こちらの士気も高かった。そしてこちらの方が数が上ともなれば、たとえ敵の兵士の方が実力が上であろうと関係ない。

 実力主義で兵士一人一人の実力が高いオルレア帝国の軍を、波のように押し寄せたオーレン王国の軍が少しずつだが押している。

 敵も粘ってはいるが、長期戦になれば兵士の数が多いこちらが有利。このまま行けば勝てる。





「何故だ……」


 勝てるはずだったのだが、三時間以上経過しても敵の勢いに衰えはない。

 それどころか、少しずつこちらが押され始めている。

 こちらは確実に人数を減らしているが、敵兵が減っているようには見えない。かと言って、一方的にやられている訳でもないのだ。

 問題があるとすればただ一つ。オーレン王国の軍の内側に一人で入り込み、暴れ続けている兎人族の兵士。

 どう見ても子供で、最初はオルレア帝国が奴隷を使い捨てで使用したのだと思った。一人で内部に入り込んだのも、そちらへと意識を向けるためだと。そして囲んでしまえば、すぐに討ち取れるはずだった。しかし、実際はそうはいかなかった。

 一人で内部へと入り込み、周囲を囲むオーレン王国の兵士を斬り続けている。

 まるで全方位の様子が見えているような戦い方をしており、背後からの攻撃も一切通らないのだ。

 ただ、それでもたった一人。その兎人族が与える被害はそれほど大きいものではない。つまり、こちらが押され始めた原因は他にあるのだ。


「ルストレア様! 兎人族を討伐しに向かったデブリア様が討ち取られました!」

「何だと!? デブリアが!」


 それは不味い……。ただでさえ押され始めてるのに、デブリアの指揮がなくなれば完全に向こうの流れになってしまう。

 大隊長である彼は、当然大隊長に抜擢されるだけの実力があった。しかし、あの兎人族の戦いを見ていればデブリアが討たれたと聞いても納得できてしまう。


「くそっ!! あの兎人族は一体何なのだ!」

「押され始めたことに加え、デブリア様が討たれて士気がかなり落ちています。このままでは、ここまで押し込まれてしまいます」


 僕を守る兵士達が、戦場の様子を見てそう僕に告げる。

 このままでは危険だから、撤退しろと遠回しに言っているのだ。

 いくら僕が戦場が初めてとはいえ、この状況を見ればそんなことなど分かっている。


「撤退を開始する!」


 僕の号令で、後方の軍が撤退を開始する。オルレア帝国の兵士と戦っていた者達も、少しずつ撤退を開始し始めた。


「体勢を立て直して、必ずオルレア帝国の軍を討つ」


 そう宣言した僕だったのだが、オルレア帝国軍からの追撃。さらに撤退中の部隊へと敵弓兵の猛威が振るわれ、想像以上に兵士の数を減らしてしまった。

 体勢を立て直す頃には、敵魔術師の魔力が回復してしまっていた。

 僕達は完全に撤退し、オルレア帝国との国境から大きく離れることとなる。

 持久戦に敗れた原因が、オルレア帝国の軍が大量の回復ポーションを持ち込んでいたからだと知ったのは、この戦争が完全に終結した後だった。

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