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第七十一話 道中2


 補給に寄った街、リポル。そこには数人の宿屋の主人と、食堂の店主が待っていた。

 彼等は皆、料理を作ろうとしているところだった。三万人規模の軍が動けば、当然遠くからでも見えるくらいには目立つ。

 この街で補給をすると考え、先に準備を進めていたのだろう。残っている人数が部隊の人数に対して圧倒的に少ないため、早くから準備をしておこうと考えていたのだ。

 この街の食料は軍が自由に使えることになっているが、だからといって美味しい料理が作れるかと言われればそうではない。食料だけあっても、彼等が料理できなければ意味がないのだ。

 そこで登場するのが、街に残った彼等のような存在である。料理を提供する代わりに、調理の代金を受け取る。

 荷物になるから軍は金を持っていないため、代金は戦争が終わった後に国から支給される。これに関して、食料の代金は発生しない。それらは彼等の食料ではなく、住民の食料だからだ。

 調理代だけだとそれほどお金はもらえないが、規模が桁外れである。この街に来たのは三万人。つまり、三万人分の調理代を彼等は受け取ることができるという訳だ。

 商人も何人か残っていた。彼等は薬等の商品を、ここで売るつもりなのだろう。戦場では武器や防具も消耗品となる。使い潰した後は、何処からか調達してくる必要があった。

 そのために彼等は商売をしているのだ。薬は今買ってもらうために。武器や防具は、今後補充に来た部隊に売るために。

 しかし残念ながら、今回に限っては的が外れてしまったようだ。

 オルレア帝国の者達は、すでにニラヤのプロキオン商会から大量のポーションを買い込んでいる。今更薬等は必要としないのだ。

 集まっていた商人達はそれを聞き、悲しそうな表情を浮かべて散り散りになっていった。まだ今後、武器や防具を売れる可能性は残っている。そちらに賭けたのだろう。街から去っていくつもりはないようだ。

 ここを補給地点とした理由は、この先に大きな街がないかららしい。この後存在するのは、小さな村や町だけのようだ。そしてそこでは、あまり残った物資を期待できない。なので、商人達もここに集まっている。

 戦争時には恒例のことなので、どうやらそれらの事情が分かっているようだ。


「騎士団長、少しお話が…」


 そう言って、一人の青年が騎士団長を連れて行く。少し焦った様子を見せていたので、何かトラブルが起きたのだろう。


「それは本当か!?」

「…はい」


 騎士団長の驚きの声に、少し顔を青褪めながら答える彼。


「どうしたんだ?」


 難しい顔をしながら戻って来た騎士団長に尋ねる。


「逃げている者が、途中で賊の姿を見かけたらしい」


 どうやらここから遠く、国境の近くの村から逃げてきた者達が、その道中で賊の姿を見かけたのだと言う。そして、この街に寄った際にその話を彼にしたらしい。

 しかし…。


「賊くらい何処にでもいるだろう。特に今は戦争で、皆が村や町を空けているんだし」


 日本でも火事場泥棒等、何か起きた際には悪人が出没したものだ。こちらの世界でも、このようなことが起きたところでおかしくはないだろう。

 特にこの国では戦争の度にこのようなことをしているようだし、賊達も当然その辺りの事情は知っているはず。まさに今は狙い目だと考えているだろう。


「普通の賊ならば、それほど問題はない」


 騎士団長が、俺の話を聞いてそう付け加えた。

 どうやら何かあるようだ。


「実は、賊が目撃されたのは…」


 彼は簡易の地図を広げ、俺に説明を始める。

 彼の話によると、村人達が目撃した賊は国境側から帝都の方向へと進んでいたらしい。


「賊も住民が帝都方面へ逃げることは知っているはず。盗みを働くために、わざわざ帝都方面に来る必要がない。何より、近くの村を素通りして進んでいたというのがな…」


 どうやらその賊達は、一直線に進んでいたようだ。近くの村を襲うのではなく、まるで最初から目的地を決めていたみたいに。


「そして極め付けは装備だ」


 村人目線なので、あまり鵜呑みにし過ぎるのも良くないが、その賊達はそれなりに良い装備をしていたようだ。

 馬に乗っているだけならば、まだそこまで怪しくない。賊は襲ったり、逃げたりする際に足が必要となる。なので、馬は金にせずに持っていることが多いからだ。

 だが、装備の質が良いというのは話が変わってくる。それだけ立派な装備、かなり稼がなければ手に入れることは不可能だろう。もしそのような高級な装備を買えるほど稼いでいるならば、もっと有名になっているはず。

 そこがおかしいのだ。


「可能性として、一番高いのはオーレン王国から来た者達」

「やはりそう思うか…」


 俺の考えに、騎士団長が同意の言葉を発する。

 国境方面から来た賊。いや、賊に見せかけた兵士か冒険者、傭兵辺りだろう。

 賊でないのであれば、装備が良いことにも納得がいく。そして何より、近くの村を素通りしたことにもだ。

 恐らくだが、周囲の地図に疎かったのだろう。だから目的地まで一直線に向かった。

 そして彼等が滞在しているのは、ワンドレイクという町だ。近くに川が流れている町のなので、水の補給には困らない。そして、国境線まで少し遠回りをして山岳地帯を通れば、あまり目立つことなく近付くことができる。

 オルレア帝国とオーレン王国の兵士が国境線上で戦っていた場合、背後を突くには丁度いい場所となる。

 どさくさに紛れて帝都へ奇襲を掛ける作戦だったとしても、それなりに良い滞在場所となるだろう。

 恐らく彼等はオーレン王国出身のため、村人達が逃げていることを知らなかった。だから目撃されてしまったことに気付いていない。

 そもそも、国境沿いに集まって来る者達に見つからないように、早くにオルレア帝国へと侵入していたのだろう。

 それが見つかる切っ掛けとなった。村人達は徒歩での移動。それも、騎士や兵士のように日ごろから鍛えていないので、移動速度はかなり遅い。結果、彼等はすれ違ってしまった訳である。

 装備を整えていたのも、ワンドレイクの住民達を逃がす訳にはいかないからだろう。帝都にでも逃げられ、報告されてしまっては作戦が台無しになってしまう。

 なので口封じをするつもりだったのだ。それに町を襲えば、食料も確保できる。水も食料も、寝床も確保できる。一石三鳥である。


「まさか、すでにオーレン王国の手の者が入り込んでいようとは…」


 苦虫を噛み潰したような苦しそうな表情を浮かべる騎士団長。

 残していては、確実に害になる存在。だがしかし、彼等を討伐しに向かうのは難しい。

 相手は武装している。そうなればこちらも、ある程度の人数を割く必要が出てくる。そしてもし見つかって逃げられては、探すのが困難となるのだ。


「馬を貸してくれ。俺がやる」


 俺がそう言うと、彼は良いのか? とこちらを窺うような視線を向けて来た。


「こっちにはリリアもいるし、問題はないだろう」


 リリア達にも先ほどの話を伝え、俺は馬でワンドレイクへと向かった。


「数は四十以上いるか…」


 十人程度と聞いていたのだが、賊に扮するために人数を分けていたようだ。同様の手口でここまで来て、合流したのだろう。

 隠れながら会話に耳を傾け、情報はすでに収集してある。

 侵入したのは、これで全員のようだ。そして今は食事中。町の周囲を一応何人かが警戒していたが、それらは全て倒してある。

 この作戦に参加している人数、食事の時間や見張りの場所を把握するのに、思っていたよりも時間が掛かってしまった。

 見張りの交代に向かわれるとばれてしまうので、この残り全員が集まっている時に倒す必要があった。誰も逃がすことなく、確実に。


「サンダーストーム」


 雷の上級魔術である、サンダーストームを使う。俺が魔術を使うと、上空から雷が雨のように次々と降ってくる。

 大魔導士で獲得できるスキルであり、広範囲にダメージを与えることができる。何よりこの魔術の優れた点は、やはり雷というところだろう。

 耐性の低い相手を痺れさせ、動きを止めることができる。


「今回は必要なかったか…」


 確実に仕留めるため、サンダーストームを使ったのだが。

 彼等は逃げようとする素振りも見せず、一瞬で動かなくなってしまった。魔術の効果が切れるまで、その後も雷はその場に降り注ぎ続けた。

 おかげ彼等の死体は跡形もなくなってしまったが…。


「しかし、良い情報を得られたな」


 彼等は魔王信奉者だったのである。だから俺は、念には念を入れて魔術を使った。


「それに、オーレン王国自体も…」


 どうやら、国王はすでに死んでいるらしい。そして今いる国王は、霊系の魔物が動かしているのだとか…。

 つまり、すでにオーレン王国は魔王信奉者達に乗っ取られていたということだ。

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