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第七十話 道中


 周囲には鎧が擦れるガチャガチャという音が響く。

 俺達は兵士に囲まれて歩いていた。これは連行されているという訳ではない。ただ共に歩いているだけだ。

 オルレア帝国の北方、西方、南方それぞれの配置が決まり、俺達は戦場となる国境線付近まで足を運んでいる最中である。

 俺とリリア、デールとビビアが西方。獣人三人組が北方。残りのクロとシロが南方にそれぞれ向かっている。

 ニラヤやヒーロは帝都に残してきた。ニラヤは商人だし、ヒーロはまだ子供。それに何より、相手の数はかなり多い。何処からか抜けて、帝都まで侵入される恐れがある。その際皇帝を守るのは残った兵士の務めだが、一応彼女達にも任せてあった。

 周囲の兵士は殆どがオルレア帝国の兵士であり、義勇兵は少ない。

 募集に集まった冒険者や傭兵達の殆どは、北方や南方に送られている。西方に送られてくる敵兵が、オーレン王国の本隊だからだ。周辺国の兵士も含め、数は六万人以上。対するこちらは三万人程度。一人頭二~三人倒せばいいだけの話だが、そこまで上手くはいかないはず。なので多人数を相手にできるビビアを西方へと連れて来た。

 北方にもオーレン王国の派遣した兵士と周辺国の兵士、合わせて三万人近くはいるという。こちらには三人組の他、二万人の兵士や義勇兵が派遣されている。こちらは最も数の差が少ない戦場となる。そのためレンジャーであるイルとフィンをそちらに派遣したのだ。

 最後に南方。相手は北方と同様に三万人程度の兵士が派遣されているが、こちらは一万人弱。ただしこちらは地形的に多人数が展開して戦うことには向いていないため、ある程度の数の差は地形を利用することで埋めることができる。

 そのため特に突破力の高いクロと、守りの要となるシロを派遣した。この二人ならばどうにかしてくれるだろう。

 さらに今回は南方に、フランソワ伯爵の部隊も含まれている。つまりオーレン王国側にシルベーヌも来ているということだ。

 シルベーヌはこちらへオーレン王国の情報を流しているが、彼女が俺達の仲間だということは相手に知られていない。

 相手の陣地にスパイが紛れ込んでいる。それも伯爵という立場の陣営にだ。こちら側にもスパイが紛れ込んでいる可能性はあるが、それでもアドバンテージになるのは間違いないだろう。


「それにしても、荷物が少ないんだな」


 国境までは五日はかかる。馬を使えばもっと早く着くことはできるが、三万人もの兵士全てに与えられるほど馬はいない。

 なので歩いて国境まで歩く必要があるのだ。当然騎馬隊もいるので、馬に乗っている者達もいる。彼等はある程度先行して道中の様子を見ているが、歩く俺等に合わせて進んでくれていた。

 三万人が移動する中、荷物は馬車一杯の荷物が四台だけ。食料や水を運んでいるのだろうが、五日どころか三日も掛からずになくなるだろう。


「途中で街に寄るからな。そこで一度補給する」


 答えてくれたのは、俺の近くにいた騎士団長。彼も西方へ派遣されていた。まあ、彼は騎士団長。騎士団のまとめ役なのだから、本隊に組み込まれるのは当然だろう。

 騎士と兵士というのは基本的に役割が違う。

 兵士は城周辺の警備や街の中の警備。後は魔物が出た際に討伐に向かうなど、動き回ることが多い。

 それに対して騎士は、非常時以外は城の中で守りを固めている。特に皇帝の付近を。オーレン王国で言うと、近衛兵みたいな存在だ。

 相手を倒すというよりも皇帝を守る、城内に入り込んだ賊を通さないといったことに優れている。そもそも騎士という職業は、守りのスキルが多い。

 騎士団長は職業が剣鬼なので別だが、彼は実力も指揮にも優れており、皇帝の懐刀みたいな立ち位置だったようだ。

 レベティア神国にも神殿騎士団という名の騎士団があるらしい。やはり誰かを守るスキルを覚える騎士は、護衛等には最適の職業のようだ。


「今日はここまでにしよう」


 開けた場所で騎士団長がそう告げると、皆が一斉に動き出す。慣れた手つきで天幕を張っていく。流石は戦争で国を大きくしたオルレア帝国の兵士達。こういったことには慣れているようだ。

 だが、リリアもそこらに関しては一切負けていない。

 あっという間にテントを張り、そして配給の食料を受け取りに向かった。

 調理済みの食料を持って来た訳ではないため、自分達で料理をする必要がある。これは当番制で、何人かが大なべで料理をする。

 完成した物を配ってもらうといった感じだ。


「リリア、何か遅くないか?」

「そうですね」

「俺が見て来ようか?」


 配給を取りに向かっただけなのだが、一向に帰って来ない。三万人もいるので、全員に配り終えるまでに時間が掛かるのは仕方がない。だが、すでに三十分以上経過している。いくらなんでも遅すぎるだろう。


「お待たせしました」


 俺達がそう話していると、人数分の食事を持ってリリアが帰って来た。

 探しに行こうと立ち上がりかけていたデールが再び座り直す。


「お帰り。早速食べるか」


 戻って来たならば問題ない。わざわざ遅かったことを言及する必要もない。

 食事は料理に慣れていない兵士でも簡単に作れる汁物だ。野菜が多く入っており、それで腹を満たせということだろう。兵士が作ったにしてはかなり美味しかったが…。


 翌日、俺達は再び歩き通しだった。今日は丸一日以上歩くようだ。勿論、休憩は適宜挟むらしい。

 今日歩き続けることによって、明日の朝には補給のための街に到着するようだ。

 そこでしっかりと一日休み、無理をして歩いた分の疲れを癒す。これは純粋に、外で休むよりも街の中で休んだ方が効率良く疲労が取れるからだろう。

 それに食事も、街で食べた方が当然美味しい物が食べられる。


「昨日の食事、いつもより美味しかったな」

「ああ。いつもはただ薄いスープに、野菜が浮いているだけだからな」


 そのような兵士達の話し声が聞こえてくる。


「誰かが料理をしている兵士達に指導したらしい」

「冒険者か傭兵か?」


 兵士ならば、自分達が見れば分かる。だからこそその二択に絞ったようだが…。


「いや、侍女のような服装だったらしいぞ」

「城の従者でも連れて来ているのか?」


 その二人の兵士は一切気付いていない。だが、俺のすぐ後ろには侍女の服装をした者がいる。


「昨日は料理の手ほどきをしていたのか?」

「はい。あまり美味しくなかったもので…。流石にあれをセイン様にお出しする訳にはいかず」


 遅くなった原因はそれのようだ。なるほど、リリアが監修したために美味しいスープが出来上がったのだろう。

 歩き通しの者達にとって、塩加減が絶妙なものになっていた。これも彼女の配慮によるものだ。


「それにしても、これだけの数が滞在できるのか?」


 滞在する街が近付いたことで、その疑問が浮かび上がってきた。すでに街は目視できる距離なのだが、城下町のように大きいとは言えない。精々が一般都市と言ったところだ。

 宿を全て借りたとしても、三万人分には満たないだろう。


「問題ない。北方、西方、南方の村や町にいた者の殆どが帝都か東方に向かった。今ここに残っているのは、俺達に対して商売をしたいと考える少人数だ」


 命の危険よりも商売をとった者達ということらしい。そして殆どは空き家なので、何処を使っても問題はないという。ただし、暴れたりして何かを壊すのは問題だが。

 これは戦争をよく行っていたオルレア帝国ならではのものらしく、兵士達に食料や寝床を提供する代わりに、逃げた者達は帝国から金銭が授与される。逃げた先で宿を得たりするためのお金だ。

 命の危険から遠ざかり、さらにはその間の生活も保障される。

 このような仕組みで、戦争を円滑に進めているようだった。戦場から近い町に食料等がそのまま残してあったら、そこから物資を補給することが可能となる。それに住民からの許可も事前に取ってあるようなものなので、気にせず全て使うことができる。

 補給面でも、このような仕組みは理に叶っているようだった。

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