第六十六話 新たな料理、新たな武器
デッドペッパーを手に入れた俺達は、一度帝都へと戻って来ていた。
ヒーロのレベル上げも行わなければならないが、ジョイルへと向かったことにより他にもやることができてしまった。
「上手くいかないな…」
すでに何度目の失敗なのか。
辛みを抑えるだけならば薄めれば済む話なのだが、それでは味も薄まって美味しくなくなってしまうのだ。
試行錯誤を繰り返してすでに二日は経ったが、依然として美味くできる気がしない。
薄めたデッドペッパーを使った辛い料理は、皆に振る舞っている。辛い食べ物が苦手な者もいるため、辛さはかなり調節してあった。自分ではあまり美味しいと感じないのだが、それでも初めて食べる者達にとっては美味しく感じるようで、かなり評判が良い。
ただ辛さを調節するだけなのは割と簡単だった。薄めて、そして料理に使う量を調節すればいいだけだからだ。
しかし、デッドペッパーはかなり辛いため、ただ料理で調節するだけでは激辛料理になってしまう。やはり薄める必要があった。
恐らくだが、何人前も一気に作る食堂等では薄めずに使えるだろう。
ジョイルの人達は、料理に使うという発想がなかった。直接齧ってみて、食べられる物ではないと判断したのか。それとも、薄めることに失敗して諦めたのか…。
どちらにしろ、辛い料理が広まっていないことはこちらにとって好都合である。
今でも、皆から唐辛子を使った料理は売れると言われているのだ。
それでもまだ往生際悪く足掻いているのは、俺が美味しい料理を食べたいから。俺がこの中途半端な料理に満足できないからである。
「あの、私に何か御用でしょうか?」
ニラヤが少し怯えながら部屋へと入ってくる。俺に呼び出されて怯えているというよりは、この部屋に怯えているのだろう。
ここで俺は唐辛子を使い続けている。薄めるために煮たりもした。つまり、唐辛子の辛み成分であるカプサイシンが空気中に含まれているのだ。
部屋にいて影響が出る程ではない。それでは俺がいることができないからだ。換気もしつつ、一度に試す量も考えてある。
「わざわざここで話す必要はないな。移動するか」
「はい」
俺の提案に、彼女は何度も頷く。
余程あの空間が居辛かったようだ。
「それで…」
「ああ。商会として、新しい商売を始めてもらおうと思ってな」
「商売?」
彼女の問いには答えず、俺は無言でデッドペッパーを差し出す。
「えっと、これは…」
「これはデッドペッパー。ここから北にある、ジョイルという村の特産品だ」
「デッドペッパー…食べ物ですか?」
「ああ」
俺が頷くと、彼女は味見をしようとデッドペッパーを口に含みかける。
「待て!」
俺は慌てて彼女の手から、デッドペッパーを取り上げる。少し齧る程度でもかなり辛い。辛い物が苦手な者ならば、それだけで影響が出かねない。
それに今、彼女は半分以上齧ろうとしていた。流石にそれは不味いだろう。
「えっと…駄目でしたか?」
少し涙目になって聞いてくるニラヤ。咄嗟だったので、少し声が強くなってしまったようだ。それに、取り上げ方も乱暴だったかもしれない。
すでに高レベルであり大抵の者より強い彼女だが、相変わらず気が弱いようだ。俺も乱暴だったが、彼女ももう少しどうにかしてほしいものだ。
「食べるならこっちを」
すでに俺が味見をした、デッドペッパーを薄めた物。失敗作の一つを彼女に渡す。
「では、いただきます……これは!?」
目を大きく見開き、大げさに驚いてみせる彼女。いや実際に、この世界の者にとっては辛い食べ物は驚くものなのだろう。
「それはまだ失敗作だがな」
「これで失敗ですか? 十分に売れる物だと思いますが…」
俺の言葉を聞いて、疑問を浮かべるニラヤ。
「ああ。味がイマイチでな」
「そうですか……?」
やはり食べたことのないこちらの世界の者にとっては、あまりその辺りは分からないようだ。
日本では辛いだけでなく、美味い料理が沢山あるのだ。勿論、美味しくするために唐辛子とは別の香辛料等も使用しているのだろう。だが、唐辛子自体ももっと美味しくできるはずだ。
「ニラヤには店を開く準備をしてほしい」
「分かりました! 店は確保しておきます!!」
俺の言葉に力強く頷く彼女。
売れる物だと分かれば、弱気よりも商人の娘としての商魂が勝つらしい。しかし、俺がまず用意してほしいのは店ではない。
「店よりも先に、料理人を集めてくれ」
「店がないのに、料理人を確保するのですか?」
料理人は雇う必要がある。つまり、その時点で金が発生する訳だ。
店もなく、仕事もないのに確保し続けることはできない。料理人も給金がない場所に居続けることはないだろう。
なので、先立って確保する場合は契約時点から給金が発生する。たとえ料理人としての仕事をしていなくてもだ。
「もっとデッドペッパーを美味しく調理する方法を見つけてもらいたい。料理の経験が少ない俺では、限界がある」
そう。これが一番の理由だった。二日も試行錯誤を繰り返したが、失敗作しか生まれなかったのだ。料理のことは、料理のプロに任せた方が良いだろう。
「なるほど。任せてください」
彼女は俺の言葉を受けて頷く。これで問題ないだろう。彼女は色々な地域で商売をした後、このオルレア帝国へとやって来た。経験も知識も、昔の彼女ではない。
それに始める店は一つではない。オルレア帝国の帝都以外の大きな街でも、店を構えようと考えている。料理人もそれだけ雇う。つまり何人ものプロの料理人が、デッドペッパーの調理法を試行錯誤してくれる訳だ。
俺が一人で考えるよりもずっと良い。
「それでは、早速何人か伝手を当たってみます」
「これも持っていけ」
俺はそう言って、失敗作を彼女に渡す。
「いいのですか?」
「ああ。本当は料理に混ぜた方が美味しいんだが、料理人ならそれを渡せば分かるだろう」
彼等は自分達で味付けをして、独自の味の料理を作る。素材の味を確かめただけでも、判断することは可能だろう。
それにデッドペッパーの良さを分からないような料理人ならば、それは二流の料理人だ。そのような料理人は必要ない。
「それと、これがまだ完成品ではないということも伝えてくれよ」
「分かっています」
商会の下っ端であろう女性と連れ立って歩くニラヤを見送る。
彼女はすでにビビアとデールを護衛には連れていない。色々な地域に商売に向かった際に、護衛が必要ない程自分が強いことは理解してくれたようだ。
それに人材もかなり増えてきている。彼女の商会は、順調に大きくなっているらしい。
「俺ももう一つの用事を済まさないとな」
そう言って部屋を出る。そのまま城下町を抜け、城へとやって来た。
「話は伺っております。どうぞこちらへ」
先に話は通してあったので、門で警備している兵士にそのまま案内される。
世界最強の騎士と言われた騎士団長を打ち負かし、その後も数回この城には足を運んでいる。皇帝からオーレン王国の状況を聞いたり、帝国内の情報を得たりするためだ。
その結果、ついに顔パスで城の中へと通してもらえるようにまでなった。勿論、話を通してあることは前提だが…。
身分証を見せる必要がないのは楽でいい。
「今日はどうした?」
案内されたのは最初に来た時のような王位を感じる場所ではなく、ちょっとした休憩スペースと言ってもいいような小さな部屋。
俺も皇帝もフランクに話すようになり、こういった人目がない場所を使うようになったのだ。俺は気にしないのだが、流石に皇帝が俺のような一般人とフランクに話している姿を見せる訳にはいかないらしい。
それがたとえ、俺が普通ではない強さを持っていたとしても…。
やはり皇帝の威厳というものを保つのは大変なようだ。
「今回は武器を持って来た」
「ほう。武器か…今見せてもらってもいいのか?」
「ああ」
そう言って俺が取り出したのは、一つの袋。
「これが武器か? この中に武器が?」
当然だが、袋を目の前に出された皇帝は不思議そうな顔で袋を見つめる。その袋はそれほど大きくはなく、武器が入っているようには見えないからだ。
「流石にこんな狭い部屋でこれは使えないからな。訓練場に行こう。そこで見せる」
「分かった」
そう言って俺達は訓練場に向かった。
訓練場には訓練をしている沢山の兵士がいたが、俺がその武器を使ったことによって阿鼻叫喚の地獄絵図となるのだった。
本日より、投稿を再開します。
落ち着くまでは、毎週土曜日の24時に一話投稿という形にしたいと思います。
よろしくお願いします。




