第六十五話 死の胡椒
林の中にはかなりの種類の魔物がいた。しかし、ヒーロのレベルはあまり上がらない。
ここの魔物は、得られる経験値が少なすぎる。ヒーロが選んだ職業は剣士なのだが、剣士がスキルを得るために必要な魔物がいないのも、原因の一つではあるのだが…。
「また倒した! パパ、次はどの魔物?」
槍で突いて魔物を倒していたヒーロが、次の敵を探し始める。
小さい子供の吸収力は凄まじい。初めは怖がっておっかなびっくり攻撃していたはずなのだが、今では率先して魔物を探そうとしている。槍もしっかりと腰を入れて突き刺しており、様になってきていた。
ある程度の戦闘を経験して、慣れたということだろう。
時折Dランクの大型の魔物も混ざっているのだが、全く怖がる素振りを見せないのだ。それどころか、安全を確保する前に突っ込もうとまでする。
先ほど倒した魔物はフォレストタイガーという、サーベルタイガーみたいな見た目の魔物だ。大人ですら対峙すれば恐れを抱くのだが…。
クロがその度に止めてくれるのだが、見ているこちらはひやひやさせられる。
「Cランクの魔物で危険そうなのは全部狩った」
弓を担いだフィンが横の茂みから現れる。
「そうか。感謝する」
彼女には危険そうな魔物、主に遠距離から攻撃をしてきそうな魔物を倒してもらっていた。
万が一戦闘中に遠距離からヒーロを狙われては、守り切れない可能性がでてくる。なので索敵と弓が得意なフィンには、林の中を一人で進んでもらった。
「良さそうな魔物はいたか?」
良さそうな魔物とは、勿論レベル上げに有用な魔物という意味である。
「残念ながら…。微妙な魔物ばかりだな。Cランクの魔物も、残っているのは小型ばかりだし」
フィンは剣士がスキルを得るために討伐が必要な魔物を知っている。なので、もし見つけたら一体は残しておいてほしいと言ってあった。
だが、まさか一体もいないとは思わなかったな。
これでは高レベルどころか、上級職になるにも時間がかかるかもしれない。急いでいないのでそれほど問題はないのだが、ヒーロは早く強くなりたいとやる気を出しているのだ。
こちらとしても、やる気が高い内に育ててやりたい気持ちでいる。
「小型の魔物か…」
当然、大型ばかりが強い訳ではない。小型の魔物でも強い魔物はいるため、危険度が高い小型の魔物は存在する。
だがやはり同じ危険度の魔物なら、小型よりも大型の魔物の方が得られる経験値は高いのだ。
ここは大きな森ではなく、ただの林。なので小型の魔物が多いのは仕方がないことなのだが…。
まあ、戦闘経験を積めただけでも良しとするか。
「あと少し魔物を倒したら、一度町に戻るか」
「うん!」
俺の言葉に、元気よくヒーロが返す。
このままここで魔物を狩り続けるよりも、他の場所に向かった方が効率は良い。ここにいつまでも拘る理由はないのだ。
「クロ、フィン頼むぞ」
「分かった! 任せて」
「ああ、全部やっといてやる」
俺達が帰った後のことは、二人に任せる。元々林の中の魔物を狩ることが、町からの依頼だ。報酬をもらうためにも、それを疎かにする訳にはいかない。
その後少しCランクの魔物とも戦った俺達は、索敵が最も得意なルゥを先頭に、クロ達を林の中に残して町へと帰還した。
俺達が帰って数時間後に、クロ達も帰って来た。フィンも索敵が得意とはいえ、流石に二人で林の中の魔物を狩るのは大変だったようだ。
狩り尽す必要はないので、ある程度で帰還してきたようだが。
「ご苦労様。二人はゆっくりと休んでくれ」
「疲れた~」
「そうさせてもらう」
疲労を顔に滲ませた二人を軽く労い、俺は討伐部位を持って町長の家へと向かう。
「パパ! 私も行く!!」
自分が討伐し、自分が回収した討伐部位がやはり気になるのだろう。
ヒーロも俺と一緒に来ることとなった。
「町長、いるか?」
「はい」
俺の呼びかけに応え、町長が家の中から現れる。
「どうなさいましたか?」
流石に討伐はまだだと思っているのか、尋ねて来たの俺を不思議そうな表情で見ていた。
「魔物をある程度狩り終えた。これが討伐部位だ」
そう言って、持っていた袋から大量の討伐部位を出す。
「な、な、な…」
驚愕の表情を浮かべ、出て来た討伐部位を呆然と見つめる町長。
まあ、気持ちは分かる。町に着いた初日に林へ入り、大きくはないと言ってもある程度の大きさはある林の中から魔物を探し出して狩るのは、普通に考えれば有り得ないのだ。
基本は初日は旅の疲れを取り、周辺の魔物等の状況を調べる。何の情報も得ずに危険な場所へ飛び込むなど、冒険者でなくてもやらないことだ。
さらに言えば、目の前の討伐部位。クロ達はどれだけの魔物を狩ったのか…。
相当頑張って、林の中を駆け回ってくれたのだろう。
簡単に集められる量ではない。それをたった一日で集めたのだ。
「これで依頼は達成でいいよな」
「え、ええ。問題ないです。はい」
俺が尋ねると、まだ心ここに在らずといった様子だが、一応答えてくれた。
「できれば、冒険者ギルドの方にも便宜を図っておいてくれないか?」
「冒険者ギルドですか? しかし、流石にランクに関しては…」
いくらその町の町長とはいえ、冒険者ギルドには口出しできない。それは冒険者でなくても、誰もが知っていることである。
だが、俺が便宜を図ってほしいのはランクのことではない。
「素材になりそうな魔物を沢山狩ったから、持って帰って来たんだよ」
「なるほど、そうでしたか。早とちりをしてしまったようで、申し訳ない」
無茶振りではなかったことに、ホッとした表情を浮かべる町長。
「少し高く引き取ってもらえるように、こちらで言っておきましょう」
町長はそう言うが、これは実際に冒険者ギルドが高く買い取ってくれる訳ではない。
冒険者ギルドでの素材の買取り金額は、全国一律である。これは全国に展開していて、それぞれの地域の素材を回すことが可能な冒険者ギルドだからできることだ。
足りなくなった素材は、全国どこでも高く買い取ってもらえる。逆に余っている素材は、全国どこでも安い。それがたとえ、その地域で取れない素材だとしても。
勿論例外は存在する。長持ちしない素材である。これらは長距離を運ぶことが困難なため、値段は地域によって大きく異なる。
そして今回の場合、冒険者ギルドが買い取る金額は変わらない。
では何故高く買い取ってもらえるのか…。
それは、町から奨金として援助してもらえるのだ。ようするに冒険者ギルドを通じて、町からお金がもらえるということである。
普通は依頼の報酬に嵩増しして、お金がもらえる。だが今回は、皇帝からの依頼。この町から報酬がもらえる訳ではない。なので、このような特殊な形となってしまった。
町長が冒険者ギルドへと話を通してからとなるので、素材を売るのは明日以降となる。
今日はこのまま、貸し与えられた空き家へと戻る。
「ん? あれは…」
空き家へ戻る最中、一つの畑で足を止める。
「どうしたの?」
ヒーロがそう尋ねてくるが、俺はそれを無視して畑へと近付く。
「これは何だ?」
「え? ああ、それは…」
丁度畑仕事を終え、家へと戻ろうとしていた畑の主を呼び止める。
俺が尋ねた植物は、日本で何度も見たもの。
三日月のような形をしていて赤い、唐辛子のような見た目の植物だった。
「ここらで伝統的に作っている作物で、デッドペッパーだ。虫除けとして最適なんだよ」
デッドペッパー、死の胡椒か。何故そのような名前になったのか…。
「ちょ!? ちょっと待て!!」
俺が口に入れようとすると、農家の男性が慌てて止めに入る。
「それは食べる物ではない! 虫除けにしか使えないものだ!」
彼の言葉を無視して…いや、少し聞き入れてほんの少しだけ齧る。
「辛い!! 辛すぎだ!」
「だから言っただろう! 水を持って来るから、少し待ってな」
俺は彼から水を受け取り、一息つく。
日本の唐辛子とは比べものにならないほど辛い。俺は昔から辛いのが得意という訳ではない。だがそれでも、決して食べられない程ではなかった。
つまり、調理の仕方次第で食べられるということだ。
「こいつを余ってる分全て売ってくれ」
この世界に唐辛子のような辛い調味料はない。なので、これは間違いなく新たな調味料となる。
俺は他にもデッドペッパーを作っている農家を聞き、その日の内に買いに回ったのだった。
私事ですが環境が変わり、最近少し忙しくなってきたため投稿を一月ほど控えようと思います。
以降の投稿ペースに関しては、その間に考えていきたいと思います。
よろしくお願いします。




