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第六十三話 オルレア帝国最強の男


 許可が得られると共に、兵士に続いて部屋へと入る。

 目の前に皇帝が座るための椅子があり、その周囲にもいくつか椅子が存在する。皇帝の妻や、子供のための物だろう。

 部屋の中には、兵士が全部で二十人近く。部屋が広いとはいえ、それでも少し狭く感じるくらいにはいた。リリア達の力を知っているためか、かなり用心しているようだ。


「……」


 俺の隣にはヒーロがいる。先ほどまでは城の中を見れて喜んでいたのだが、今は皇帝の目の前だということで委縮してしまっているようだ。


「セインと言ったか。よくぞ我がオルレア帝国へと来られた。話しはすでに、リリア殿から聞いておる。早期に知らせてくれたこと、真に感謝する」


 そう言って皇帝が俺へと頭を下げた。

 それを見て兵士達が驚愕の表情を浮かべていた。


「陛下。頭を下げるのは流石に…」


 皇帝の横で立っていた男が言う。反対側には鎧を着た男もいた。鎧の方が騎士団長だとすると、今声を上げたのは男は宰相か何かだろうか?

 それにしても、こうも簡単に頭を下げるとは…。

 他国を侵略して大きくなった戦争国家とはいえ、同じく大国であるオーレン王国が率いる連合はそれだけオルレア帝国にとって脅威だということなのだろう。


「感謝を述べた傍ら申し訳ないが、少し其方の力を見せてはもらえないだろうか?」


 突然の話だが、一切驚きはしない。実力至上主義のこの国のことだ。これくらいのことは予想の範疇である。

 リリア達も力を試されたと言っていたし、八割以上の確率で言われると思っていた。


「ああ、いいぞ」

「それは助かる。この者が試したくて、うずうずしておってな」


 そう言って皇帝は、騎士団長へと視線を向けた。


「強者と戦えること。感謝するぞ!!」


 本当に嬉しそうだ。

 確かリリア達の時は、その場にいた兵士全員とクロが戦ったはず。その場には騎士団長もいたという。

 それでもクロに負けたはずなのだが、今回は俺を相手に騎士団長が一人で戦うそうだ。強者と呼んでいたし、俺のことを舐めているという訳ではない。

 団長としてではなく、一人の剣士として一対一で戦ってみたいということか…。


「こちらは準備ができたぞ!」

「俺も問題ない」


 場所を変えて、戦い易いように今は兵士の訓練場にいる。

 俺の手には二本の剣が握られていた。今回は大剣ではない。

 二刀流を試してみたいと思ったのだ。

 騎士団長の武器は両刃が付いた槍。どうやら試したいというのは一対一もだが、新たに手に入ったあの武器を試したいということだったようだ。


「それでは始め!!」

「はぁぁぁ!!」


 皇帝が合図を出すと共に、騎士団長が一気に距離を詰めてくる。

 ただの突進だが、彼が持つ武器は槍。しかも回避をしたとしても、その槍には左右に刃が付いている。追いかけるように槍を振るうだけで、相手を斬ることができるのだ。

 俺は回避することなく、二本の剣を交差させて突進を正面から受け止める。


「ほう。見かけによらず、力が強いな」


 彼が押し込もうとさらに力を込めるが、俺はその場から動かない。圧倒的なレベル差による力の差。純粋な力比べでは、こうなるのも当然である。

 レベルが高ければ純粋に強い。これがこの世界の特徴だ。勿論、ただレベルが高いだけで強者に勝てる訳ではない。

 これは技量を必要としない力比べだからだ。まあ力比べでなかったとしても、俺は負けるつもりはないが…。


「うおぉぉぉ!!」


 騎士団長が気合の籠った声を張り上げ、連続で槍を振るう。だが、俺は左右の剣でそれらをいなしていく。

 受け流すのではなく、しっかりと弾き返しているのだ。これも力の差によるもの。

 傍から見れば、大槍を片手で持つ剣で簡単に弾き返しているように見えるだろう。いや、見えるではなく実際そうなのだが。

 明らかに違和感しかない光景だ。

 今まで俺は最大限に自分の力を活かせる大剣を使っていた。俺の力ならば、重い大剣でも楽に振るうことができるからだ。

 だが、二刀流も悪くはない。

 俺の力なら、ある程度の相手ならば大剣の一撃だろうが片手の剣で受け止めることができる。


「まだまだぁぁぁ!!」


 叫び声を上げながら槍を振るう騎士団長。

 声を上げ、気合で槍を振るっている。それもそのはず。すでに数十分と戦っているのだ。俺も相手も、今回は武器を試しながら戦っている。なので、俺は殆ど攻撃していなかった。

 彼もそれは分かっている。だから次々と全力で攻撃をしてくる。

 時には怒涛の連撃、時にはフェイントを織り交ぜながら。

 いくら鍛えていると言っても、常に全力で戦い続けるのは体力が続かない。これは高レベルの俺でも無理なことだ。

 それに何より、流石は世界最強とまで言われるようになった男だ。騎士団長の技術はかなりレベルが高い。

 魔物相手に無茶な修行をしてきた俺と同等か、それ以上の技術がある。

 惜しいのは、彼が全力を出し切れていないことだろう。新たに手に入れた武器は両刃が付いていても槍。

 彼の職業は剣鬼であるため、この世界のシステム的に槍の扱いは優れないのだ。それでも十分過ぎるほど扱えてはいるが…。

 それは純粋に、彼の技量によるもの。


「そこまでだ!!」


 皇帝が止めに入って来る。

 すでに騎士団長は息も絶え絶え。最後の方は全ての攻撃が大振りで、力もそれほど入ってはいなかった。

 皇帝もその様子を見て、これ以上は無意味だと判断したのだろう。

 騎士団長も大人しく槍を持つ腕を下ろしている。


「何をしても攻撃が通らん…」


 そう呟いた彼の顔には、とても悔しそうな表情。


「一対一なら、剣の方がいいぞ」


 俺は一応、そうアドバイスをしてやる。

 あの槍は敵を纏めて薙ぎ払ったりと、集団相手には強いだろう。相手が格下ならば、問題なく槍でも勝てる。だが、強者と戦うのであればやはり彼には剣の方が良い。

 人並み以上に槍を扱えているため、そこに気が付けなかったのだろう。さらに言えば、彼がそれを考える必要がある程の、力を持った相手が周囲にいなかった。

 今回は、彼の優れた技能が逆に仇となったということである。


「パパ格好良い!!」


 戦いを見守っていたヒーロが、そう言って俺に抱き着いてくる。


「二本の剣でそのような戦い方が…」


 シロが驚いた様子で俺へ言う。この世界でも二本の剣を振るう者はいる。だが、その者達はただ剣を二本持っているだけ。二刀流という技術は存在しない。

 俺のように、攻防一体で流れるように二本の剣を振るうことはないのだ。

 俺も見様見真似で試しただけなので、地球に存在する二刀流の技術と比べるとかなり拙いだろうが…。


「二本の剣で、格好良い!」


 クロも興奮していた。

 やはり二刀流は子供の心をくすぐるものがあるのだろう。


「見事だったぞ。流石はリリア殿達のリーダーだ」


 宰相と何かを話していた皇帝が、俺に近付きながらそう言う。


「騎士団長にポーションを渡してやれ」


 宰相の声を受け、兵士の一人が動き出す。


「疲れただけだ。休めば落ち着くから問題はない」


 兵士が持って来たポーションを彼は断っていた。


「気にするな。今は下級の回復ポーションは山ほどある」


 皇帝がそう言うと、騎士団長はようやく受け取った。

 そして一気に瓶に入ったポーションを流し込む。


「これでオルレア帝国は安泰だな。まさか多数のポーションを売ってくれる商会だけでなく、其方達のような強者が我が国に付いてくれるとは思っていなかった」


 ポーションは貴重な物。特に中級ポーションはかなり高い。そして上級ポーションは出回っていない。作れる者がいないからだ。

 下級ポーションであれば、それなりの値で買える。しかし、いくら金があっても数が揃わないというのが現状である。

 ポーション作成には、当然素材が必要となる。その素材を集めなければならないが、一度に大量に得ることもできないのだ。


「ポーションの納品に来ました」


 その時、皇帝に声をかける者がいた。


「おお。待っておったぞ」


 後ろには大量のポーション。割れ物である瓶をそれほど持ち歩くことは困難なため、アイテムボックスから取り出したのだろう。

 先ほど皇帝が言っていた、商会の者だ。


「こっちも上手くいったみたいだな」


 商会の者はニラヤである。

 当然、戦争があると知って俺が仕組んだのだ。彼女がここを訪れるように。

 そして無事、商品を買ってもらえたようである。俺が育てた薬師は、レベル25に到達している。なので上級ポーションでも作成可能だ。

 そして、上級ポーションを薄めて中級に、さらに薄めて下級ポーションだって作れる。薄めるので、かなりの量を作成可能だ。材料もドラゴンの素材を必要とするが、俺達はレベル上げでかなりの数のドラゴンを狩った。

 殆どコストを掛けずに作成が可能なのだ。

 そして、商会が大きくなるために最も手っ取り早い方法。それは大口の顧客を得ることである。

 今回の取引相手は国そのもの。さらに今は戦争前なので、ポーションはかなり需要がある。

 まさに最高の取引相手。

 これで商会に関しても、当分問題はなさそうだ。

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