第六十二話 仲間と娘
オルレア帝国の帝都まで、数日の道を越えてようやくやって来た。
道中の魔物でレベリングしたため、ヒーロはレベル3になっていた。近道することなく道を辿っていたので、あまり強力な魔物が出て来なかったのだ。そのため、レベルは十分とは言えない。
取り敢えずリリア達の方が上手くいっていれば、すでにオルレア帝国の皇帝と話を付けているはずだ。
「パパ。おっきいね」
ヒーロが城を指さして俺へ言う。
「そうだな。城を見たことがないのか?」
「ない」
初めて城を見たようだ。
もし見たことがあったとしても、彼女が住んでいたライアスラは小国。大国であるオルレア帝国の城と比べると、雲泥の差があるかもしれないが…。
今俺は背中に大剣を背負っている。だが、道中は常に片手剣で戦っていた。大剣を背負っていると、ヒーロが歩き疲れた時に背負えない。彼女もそれを見て、最初は遠慮していたのだ。だから俺は、片手剣を使っていた。
彼女は中々に周囲の機微を感じ取ることに優れている。なので、子供ながらにやたらと気を使いがちだ。
特に俺は育ての親として彼女に認められたとはいえ、まだ初めて会った時から数週間しか経っていない。まだ甘え辛いのだろう。
だから疲労等を我慢し、無理をしようとしてしまう。
俺が気付いてあげないといけないのだ。そして、彼女に気を使わせないようにしてあげないと。
俺も何分子育ては初めての経験なので、その辺りが上手くいかない。ヒーロだけでなく俺も、これから成長していく必要があるということだ。
「何か用か?」
城門へと近付くと、兵士の一人がそう尋ねてきた。何かあったらいつでも抜けるようにと、片手は剣の柄へと伸びている。
こちらには小さな女の子がいるというのに、かなり高圧的な態度である。ヒーロが怖がったらどうするつもりなのか。
「俺はセインだ。リリアやクロという名の者達が尋ねて来なかったか?」
「なっ!? 少々お待ちください!」
そう言って内側へと声をかけ、すぐさま門を開けさせる。そして城の中へと駆けて行く兵士。
城門は開け放たれたままになっている。さて、俺は入ってもいいのか駄目なのか…。
もう一人いた兵士の方を見るが、彼はすぐさま俺から目を逸らした。
一体どっちなんだ。まあ、待てと言われているから待っていればいいだろう。
「あれが…」
「本当に…」
城門の内側にいた兵士達が、俺の方を見て何かを囁き合ってる。
ここからでは微妙に内容が聞き取れない。
「パパ! ここに入れるの?」
状況を窺っていたヒーロが、少し興奮した声で俺へそう尋ねてくる。やはりこれだけ大きな建物である。子供にとって興味が湧いてくる代物なのだろう。彼女が嬉しそうで何よりだ。
先ほどの兵士の様子からして、リリア達が城を訪れたのは間違いない。
果たしてシナリオ通りに行ったのかは分からないが…。何かやらかしていて、これから兵士に囲まれるという可能性もあるか。一応大剣も背負っているので、ヒーロを連れて逃げるだけならば問題はないだろう。
「あの小さな女の子…」
「……かもな」
兵士達の声が微かに聞こえてくる。
話の内容までは分からないが、断片的に聞こえてくる単語から想像すると、あまりよろしくない話かもしれない。
俺がヒーロを攫ったとか思っているのだろうか?
確かに俺の年齢から考えて、ヒーロくらいの子供がいるのはおかしいのだが…。それに彼女が俺のことをパパと呼んだのも、彼等には聞こえているだろう。これで兄妹という線もなくなる。
「お待たせしました!」
汗を垂らしながら、先ほど走り去った兵士が戻って来た。どうやら、本当に全速力で走ってきたようだ。
「陛下がお呼びです。ですが、その前にあの方達に会ってもらいます」
「分かった」
そう言って、俺を案内し始める兵士。
先に皇帝の下へ連れて行かないのは、本人かどうかの確認のためだろう。俺をリリア達に会わせて確認を取るつもりだ。
身分証は見せているが、この世界には顔写真等はない。そして偽名で登録することも可能なので、万が一のことを考えているのだろう。
「入らないの?」
城から遠ざかる俺達を見て、少し悲しそうな目で尋ねてくるヒーロ。
入れると期待していただけに、ショックが大きいのだろう。
「大丈夫。後で入れるから」
「本当?」
「ああ」
彼女を安心させるためにも、俺は強く頷く。
「分かった!!」
ヒーロは笑顔になってくれた。
「えっと…」
「ああ、行くか」
俺達の様子を見て困惑していた兵士を促し、リリア達の下へと案内してもらう。
今度はヒーロも、しっかりとついて来てくれた。
「セイン!」
「セイン様!」
どうやら、彼女達は宿に滞在していたようだ。案内された宿で、俺は彼女達と再会を果たした。
「セイン久しぶり!!」
「セイン様会いたかったです!!」
クロとリリアの二人の勢いが凄い。
まるで一年以上会っていないみたいだ。実際には約四か月、半年すら経っていないのだが…。
一緒に出て来たシロやイルが、仕方がないといった様子で遠巻きから見ていた。
「この子誰?」
「セイン様?」
数分間二人にもみくちゃにされ、二人はヒーロの存在にようやく気付いた。
すぐ側にいたのに、今気付くのかよ…。
四人から視線を向けられ、少し困惑した様子を見せるヒーロ。
「この子はヒーロだ。色々あって、預かって育てている」
「ヒーロです」
俺の紹介と共に、彼女は軽く頭を下げる。
「ヒーロちゃん!」
「セイン様とはどのような……」
「えっと……」
紹介を受け、二人の興味は一気にヒーロへと向いたようだ。そこへさらにシロやイルも会話に混ざっていく。
まあシロやイルもいるし、悪いことにはならないだろう。
ようやく解放された俺は、皆から少し離れた場所へ移動する。
「セインお兄ちゃん!」
そんな声と共に、ルゥが横から跳び付いて来る。
「おう。久しぶりだな」
フィンも一緒だったようだ。
「二人とも元気そうで何よりだ」
「当然だな」
二人が遅れて来たのは、単に外へ出かけていたかららしい。フード等で獣人の特徴を隠してはいるが、オーレン王国ではこういう時、あまり外へ出ないようにしていた。
だが実力至上主義のオルレア帝国では、獣人でも力があれば問題なく生活できるそうだ。実際、他の国と比べて獣人が普通に城下町を歩いているという。
それでも特徴を隠しているのは、念のためということらしい。
いくらオルレア帝国でも獣人を見て、誰もがいい顔をする訳ではないのだとか…。特に今は戦争準備で、各地から兵力を募っているのだ。
他の獣人達も、トラブルにならないように注意しているとか。
「あの…そろそろ」
「ああ、悪い」
二人の勢いが強過ぎて、案内役の兵士が空気になっていた。
彼にはまだ、皇帝の下へと俺を案内するという仕事が残っている。
「皇帝はどんな奴だった?」
「噂通りの男かと…。今なら、話は通じると思います」
前を歩く兵士に聞こえないよう、リリアと話をする。これからオルレア帝国の皇帝と会うのだ。事前に情報は得ておきたい。
「概ね予定通りなので、このまま進めても問題はありませんよ」
リリアが言うのならば、本当にそうなのだろう。
俺は彼女を信頼している。
後は皇帝がこの戦争を、そして俺達のことをどう考えているかだけだな。




