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第六十話 思わぬ敵


 意識を失ったヒーロを背負って帰る。

 俺が彼女を背負っているため、アリステラが先頭を進んでいく。

 まだどこかにウガウ達を襲った大型の魔物がいる可能性があるため、一度木々を抜けて山岳地帯まで戻る予定だ。

 死体までは回収できなかったが、彼等の持っていた小物のいくつかは持っている。それを見せて場所を伝えれば、回収のために他の冒険者が派遣されるだろう。

 それに謎の大型の魔物の件もある。

 DランクとEランクのパーティーがいて全滅するのであれば、Cランク以上の魔物である可能性が高い。今出ている調査隊も、下手をすればウガウ達の二の舞になってしまう。


「…? 何だ?」


 一瞬だが視線を感じたような気がした。だが、そちらを見ても誰もいない。

 何処かへ隠れたのだろうか?

 残念ながら、俺にはイル達獣人程の索敵能力はない。視線を感じたのは間違いないが、どの辺りにいるかまでは分からなかった。

 人数がいれば探しに行くのだが、生憎今はアリステラしかいない。それにヒーロのことを考えると、早く街まで戻った方が良い。


「アリステラ」

「??」


 俺は先頭を歩くアリステラを呼び戻す。

 疑問の表情を浮かべる彼女の隣を歩く。先ほど、また視線を感じたのだ。

 これは間違いなく魔物ではない。後ろから奇襲を仕掛けるために隠れて近付く魔物はいるが、視線を切りつつ近寄って来る魔物はいない。

 隠れて近付く魔物は、とことん隠れているからだ。彼等は視覚以外の感覚器官で、こちらの居場所を把握することができる。

 視線をこちらへ向けるなど、わざわざする必要がないのだ。

 恐らく人間。そしてこちらの存在を認識して、それでも姿を晒さない。さらに視線を切って隠れているということは、こちらに存在を知られないようにしている。

 確実に一般人でもない。

 そしてまた視線。ここまで歩いてなお視線を感じるということは、追いかけてきているのだ。


「そこを動くなよ」

「な!?」


 アリステラが驚愕の表情を浮かべる。

 もう少しで見晴らしの良い山岳地帯というとろこで、前方から一人の男が現れたからだ。


「お前達には、ここで死んでもらう」


 さらに前方からもう一人。

 先ほどから感じていた視線は、今も存在する。ということは、この視線は俺達の居場所をこの二人に伝えるために追いかけて来ていたということか。


「後ろにいるのも含めて、三人か」

「中々落ち着いてるじゃねぇか」


 俺が後方に視線を向けると、最後の一人が姿を現す。

 この男は二人が出てきた時点で、隠れているつもりはなかったようだ。おかげで後方からの視線だとすぐに気付けた。


「俺達に何か用か?」


 突然死んでもらうと言われても、意味が分からない。


「「なっ!? 忘れたのか!!」」


 俺の疑問の言葉を受け、前方の二人が怒声を上げる。


「セインさん。この二人は訓練校にいた…」


 アリステラの説明を受け、ようやく思い出すことができた。課外訓練の際に俺達へと嫌がらせをしようとし、失敗して退学になった四人の内の二人。

 いつも俺に絡んできていた二人だ。

 一切興味がなかった上に、勝手に退学していった者達。今まで忘れていた…。


「お前のせいで馬鹿息子が退学になったらしいな。この街最高のBランク冒険者。このヘアードの名に泥を塗ったこと、死んで詫びてもらおう」


 後方にいた男は、どうやらBランク冒険者らしい。道理で気配を消すのが上手い訳だ。

 そしてその息子とやらがどう説明したのかは知らないが、俺達のせいで退学になったと勘違いしているようだ。


「こいつらが勝手に馬鹿やっただけだろう」

「五月蠅い!!」

「お前のせいだろうが!」


 俺が一応訂正すると、二人が吠え始めた。


「俺にはどちらでも関係ないんだよ。Bランクであるこの俺が、息子が訓練退学という恥をかいた。俺にとっては、それだけで十分だ」


 なるほど。どうやら、話が通じる相手ではないらしい。そして、息子のためにここへ来た訳でもないようだ。


「アリステラ、ヒーロを頼む」

「…! はい!!」


 Bランク冒険者の突然の登場で、固まっていたアリステラ。俺がヒーロを彼女に任せると、ようやく動き始めた。


「ふん、あいつは親父が殺す。俺達はこの女をやるぞ」

「ガキはどうする?」

「あれは関係ないからな。一思いに殺してやれ」


 俺とアリステラは簡単に殺すつもりはないようだ。

 アリステラは二人よりも強いが、流石に二対一では勝ち目はないだろう。それに今は、ヒーロを抱えているのだ。彼女を危険な目に晒す訳にはいかない。

 俺がヘアードと戦っている間に、彼女は二人にやられてしまう。


「竜爪」

「避けろ!!」


 流石はBランク冒険者。いち早く危険を察知して、二人へ警告を飛ばした。

 だが、遅い。俺は足を振り上げるだけなのだから。


「なっ!?」

「がはっ!!!」


 俺の飛ばした斬撃が、二人の体を切断する。今まで訓練校で、俺は一度もスキルを使わなかった。高レベルのステータスがあるため、使う必要がなかったからだ。

 彼等は俺が素手で戦うことを知っている。そのため、遠距離攻撃があるとは思わなかったのだろう。ヘアードと俺の距離も空いていた。油断していたのだ。

 だから俺は、無防備になるとしてもスキルを使うことができた。あの二人の方へ。


「くっ! 貴様!! よくも息子を!!」


 かなり頭に来ているらしい。ヘアードかなり顔が真っ赤になっている。

 一応息子に対して親の感情は持っていたようである。

 だが、これで後は奴だけだ。アリステラとヒーロを守りながら戦うという面倒な状況は避けられた。


「殺してやる!!」


 そう怒声を上げ鞘から剣を抜くが、不用意に近付いて来ることはない。

 流石はBランク冒険者といったところか。

 たとえ激怒していたとしても、用心は怠らないらしい。


「アイテムボックス」

「なっ!?」


 空中から大剣を取り出した俺に、奴は驚愕の表情を浮かべる。

 そして後方からも驚いた様子が感じ取れる。アリステラに見られたようだ。しかし、相手はBランク冒険者。どれだけ強いか分からない以上、流石に素手で戦うのは不味い。

 俺の職業はスキルマスターであって、決して拳聖ではないのだ。


「行くぞ!!」

「ぐぁ!」


 俺の一撃を、奴は防いだ。いや…力負けして後方に飛んだようだが、それでもしっかりと反応していた。

 後方の木に激突したヘアードは、剣を杖代わりに立ち上がる。


「クソ!! 俺はBランク冒険者だぞ!!」


 今度は奴が突撃して来た。剣の速度も剣筋も中々悪くはない。流石はBランク冒険者。

 だが、それでもやはり俺には届かない。


「連撃!」


 スキルを使った連続攻撃が来るが、大剣でしっかりと防ぎきることができる。

 素手でも戦えるかもしれないが、スキルを使わないと苦戦はするかもしれない。


「今度はこっちだ」

「がぁっ!!」


 スキル終了後の一瞬の隙を狙った一撃。これには反応しきれなかったようだ。

 ヘアードの腕が剣を握ったままの状態で宙を舞う。


「クソ! ようやくBランクまで上り詰めたのに…こんな化け物に……」


 勝ち目がないと悟ったのか、それとも腕と共に気力も飛んだのか…。

 奴の目にはすでに諦めが浮かんでいる。


「終わりか」


 俺に相手を甚振る趣味はない。なので、さっさと止めを刺す。

 思わぬところでBランク冒険者の強さを見ることができた。これは幸運だったと言えよう。

 あれでまだ上級職にすらなっていないのだ。

 やはり高レベルの者達を相手にする際は、油断するべきではないな。


「セインさん。今のは…?」


 アリステラが遠慮気味に尋ねてくる。

 俺がその問いに振り返ると、ばっちりヒーロと目が合った。


「セイ…ン」


 あれだけ五月蠅かったら、流石に目覚めてしまうか。

 必死に状況を把握しようとしているのだろう。

 周囲に散乱する死体を見て、彼女の顔は青褪めていた。

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