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第五十九話 冒険者の末路


 冒険者ギルドの中は、かなり慌ただしくなっていた。

 俺達が以前依頼を受けたマッドウルフの件も解決していない。それなのに、ウガウ達が行方不明となったのだ。

 依頼を受けてから、明日で丁度三日。そのため、ギルドは捜索部隊の編成にあたっていた。捜索を行うのは、依頼を受けた冒険者。

 ウガウ達が生きている可能性もある。もしすでに死んでいたとしても、何か痕跡を探す必要はあった。確実に何かが起こり、彼等は帰って来ていない。もしそれが街に危険を及ぼすものであれば、調査して排除しなければならないのだ。

 ウガウ達はDランク冒険者共に、Dランクの依頼を受けていた。そのため、二次被害を出さないためにDランク以上の冒険者しか捜索部隊に加わることができない。


「お兄ちゃん…」


 ヒーロがギルドの様子を見て、心配そうな声を上げる。

 この二日間、彼女の面倒は俺が見ていた。そう約束してしまったからだ。あれは軽い冗談のような会話。だがそれでも、兄を亡くした幼い女の子を放っておくことはできない。ヒーロは知り合いでもある訳だしな。


「セインさん」


 彼女は縋るような視線を俺へと向ける。

 彼女は自分で兄を探したいようだ。しかし、俺がそれを止めていた。

 捜索隊が出るまで待てと。

 明日の捜索隊とは別に、俺はウガウ達を探そうと考えている。生きている可能性はかなり低い。それでも、ヒーロに何か持って帰ってやるべきだろうと思った。

 生きていないならそう伝えてやるべきだ。小さな女の子には辛い現実だろうが、受け止めるための時間が必要になる。いつまでもありもしない希望を抱かせておくべきではない。


「私も行きます」

「駄目です! Dランク以上の冒険者以外は、参加できません!」


 そのような声を耳にして受付の方を見ると、そこにはアリステラがいた。

 どうやら彼女も捜索部隊に参加しようとしていたようだ。

 三週間とはいえ、一緒にパーティーを組んでいた者達だ。自分の足で探しに行きたいのだろう。受付嬢にあっさりと断られ、残念そうな表情で出入口へと向かう。


「俺と共に来るか?」

「え? …行きたい!」


 俺が声を掛けると一瞬呆然とした表情を浮かべた彼女だったが、すぐに嬉しそうな表情を浮かべ少し食い気味に言う。


「捜索部隊には参加できないから、依頼料は出ないけどな…」

「ヒーロちゃん。必ず探し出してみせるから」


 俺の側にいるヒーロを見て、彼女は柔らかい表情を向けた。不安気な様子のヒーロを安心させてやるためだろう。

 だが、彼女は俺達の強さを知らない。

 冒険者ランクは知っているだろうが、俺はEランクでアリステラに至ってはFランクだ。ウガウ達がEランクで共にいた冒険者がDランク。

 アリステラがそう声を掛けたところで、彼女が抱いた不安は簡単には払拭できない。


「仕方がない…。一緒に来るか?」

「うん!!」


 俺の言葉に、彼女はすぐに頷く。彼女を任された身としては、危険なのであまり連れて行きたくない。だが、俺達が捜索に出ている間に勝手をされては、それこそ危険だ。

 それならば、俺の手が届く場所にいてもらった方が良い。


「……そうですね」


 俺の言葉を聞いて反対の意思を示したアリステラだったが、その理由を告げたら納得してくれた。

 アリステラがそう納得できる程、今のヒーロは一人でも探しに行きかねない様子だったのだ。





 そして翌日。俺達は山岳地帯へと向かっていた。

 ウガウ達が受けた依頼が、この山岳地帯にいるフレアラビットの討伐だったからだ。

 フレアラビットは兎の魔物だ。その特徴は真っ赤に染まった体毛と、立派に伸びた一本の角。

 攻撃は主に角を活かした突進と、口から火の玉を吐くものだ。厄介なのは警戒心がかなり強いこと。基本的に近付いて来ることなく、遠距離から火の玉を吐いて攻撃してくる。

 そして足が速く、簡単には近付けさせてくれない。


「アリステラは自分の身を確実に守れ」

「はい」


 周囲を警戒するアリステラ。フレアラビットは遠距離攻撃をする。俺はヒーロを守る必要があるため、彼女にまで手が回るとは限らない。

 なので、自分の身はできるだけ自分で守ってもらう必要がある。


「大丈夫か?」

「……はい」


 俺の言葉に、ヒーロはそう答える。だが、言葉とは裏腹に声はかなり辛そうだ。

 彼女はまだ六歳。山岳地帯を捜索するには、身体的に厳しいのだろう。それでも、自分で我が儘を言ってついて来た。その自覚はあるのか、迷惑を掛けないようにと精一杯強がって見せる。

 辛そうではあるが、限界ではなさそう。ヒーロが頑張りたいと言うのならば、限界までは頑張らせてあげようと思う。


「この辺りだな」

「おそらく」


 一時間程探し回った後、ようやく戦闘の痕跡を見つけることができた。地面に焦げ跡。フレアラビットと戦った跡である。ヒーロはすでに限界に達して、俺の背にいた。

 ウガウ達は確実にここでフレアラビットと戦った。だが近くに彼等がいる様子はない。

 それに戦った跡は残っているのだが、人間側の死体も魔物側の死体も何一つなかった。

 ウガウ達がフレアラビットの討伐に失敗していたならば、死体が残っているはず。フレアラビットは人を襲うが、肉食ではないからだ。

 それがないということは、ウガウ達が討伐に成功して、フレアラビットの死体を持っていったのだろう。


「街に戻りながら探そうか」


 俺はそう言って踵を返す。

 討伐が成功したら、街へと帰還するはず。この先には行っていないだろう。そしてそこで何かが起こり、何処かへと逃げた。


「見つけた」

「何がですか?」


 アリステラが俺の見ている方向へ視線を向ける。

 そこには不自然に凹んだ地面。大きな何かが通った跡が残っていた。

 その先は木々が生い茂る道なき道。


「俺の予想が正しければ、ウガウ達はここへ入った」


 大きな魔物と遭遇し、逃げたのであろう。そして魔物の視界を遮るため、この場所を選んだ。


「やはり、この先に向かったようだな」


 跡を辿った先、そこにフレアラビットの死体が散乱していた。獣か何かに齧られた形跡もあるが、明らかに斬られたような痕もある。

 この散乱したフレアラビットの死体は、ウガウ達が討伐したもので間違いない。

 さらに奥へと続く跡を辿る。


「うっ! これは……」

「お兄ちゃん……?」


 死体の山があった。殆ど肉塊と言ってもいいレベルのもので、どの死体が誰だか判別できない。

 アリステラはその凄惨さに、青い顔をして手で口元を押さえていた。


「お兄ちゃん」


 ヒーロが死体の山へと近付いていく。

 そして一本の抜身の剣を手に取る。


「これ…お兄ちゃんの…」


 死体は誰かの判別はできない。だが、その剣は彼女に見覚えがあったようだ。

 恐らく、兄の持っていた剣なのだろう。ここに…この死体の山に落ちているということは、確実ではないがすでにノーラスも死んでいるだろう。


「お…兄ちゃん。何で? 嫌だよ…い…や……」


 ヒーロは大粒の涙を流しながら、そう剣に向かって何度も呟く。

 決して大声で泣き喚いたりしない。幼いながらに、この場で大声を出すのは魔物を集める行為だと理解している。


「うぅ……ぐすっ…」


 彼女は必死に、声を出すのを我慢していた。

 それでも、涙は我慢できずにとめどなく溢れ出ている。


「うっ…ぐっ…」


 そして限界が来たのであろう。五分程静かに泣き続けた後、彼女は気を失った。

 ここまで必死について来た。そして凄惨な死体の山を見た上、兄の死を知ってしまった。

 幼い子の精神では耐え切れなかったようだ。その方が良い。

 街に戻った後、安全な場所で起こしてあげよう。そこで思う存分溜まっているものを吐き出してもらう。

 ヒーロの精神状態を考えると、それが一番だった。

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